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混じればそれは穏やかな

いつものメンツハウスの悲しいアフターに打ちひしがれつつ、自分はひとまず元・1階丸テーブルの下・・・辺りを捜索する。

かなりしっかりと作っておいたはずなので、それなりの年月は耐えていると信じたい・・・。

くくく、実はこの家の地下に秘密の居住空間が眠っているとは仲間たちも知るまいて・・・!

まぁ、ぶっちゃけ家の材料取りに石掘った採掘坑なんですがね?


ざり、ざり、と風雨に溶かされた泥や砂の層を削り、床石が顔を見せるまで作業を繰り返す。

ようやく出てきたそれは、テーブルを固定していた金属部品が綺麗に錆びきり朽ち果てて固定穴が虚ろに開く眼窩のようになった穴あき石板。

テーブルが健在なら、テーブルごと床板が開いて隠し扉が出てくる設計だったのに・・・。

引っ剥がすのが面倒になったので床板を刀鎚で叩いて砕く。

粘土板でも崩すようにそれを砂のように粉砕すると、そこに見えるは木製の跳ね上げ式床扉。

さすがの無傷。

伊達に魔法で施錠してないぜ!

・・・<施錠>魔法に、腐食防止やらの機能がついてて、よかった・・・。


<灯火>にて視野を確保しつつ、地下へ降りる。

ヒヤリとする空気と、舞う砂埃。

ああ、どれだけ時間が経ったんだろうね、ここは。

正直、ゲーム終了からの5年程度じゃここまではならない・・・と、素人考えで思えるほど、メンツハウスや地下の状況は、荒んでいるように思う。

時間の流れが違うの、か?

もしそうなら、そして、自分の本当にいるべき場所の時間が緩やかに過ぎていてくれるのなら。

有り難いかな、と、少し思う。


扉の表面を<偽装>魔法で誤魔化す。

そして、ひとまずの拠点となる地下部分の居住性を高める行動に出たいと思う。

なにせ銀貨三枚が全財産の現状である、ぶっちゃけると、宿代もでねぇ。

それより何より、今は徹夜明けなので、とてもとても眠いのである。

採掘坑は階段状に斜め下方向に掘り進め、頃合いを見て横坑道を掘っていく方式で作業していた昔の自分を思い出し、周囲を確認。

穴だらけ。

うわーい、頑張りすぎじゃね、昔の自分。


確かこっちに休憩所作った気が・・・と、朧気な記憶を便りに歩き出す。

歩くこと数分、メンツハウスの建っている丘の中程くらいまで地下を掘り進んだ地点。

朽ち果てること無く、ただホコリをかぶった木のドアが、自分を出迎えてくれた。

ホコリを吹き散らしてノブを回し、休憩部屋の中へと入る。

アラこんなところに井戸掘ったかしら?

ああ、そういえばいきなり水源掘り当てたんで、慌てて井戸形状にでっち上げたんだったっけ・・・。

ひとまず井戸水を飲んでみる・・・うまぁい。

よかった、ひとまずこれで川の水とか飲まなくても済みそうだ。

後は寝床寝床・・・あ、そういえばここに来た最後の日に干したまんまだったっけ・・・風雨に消えたか。

仕方なく無限袋から寝袋を取り出すと、スポッと包まり即時就寝。

おやすみなさいませ・・・。




不意に、目が覚める。

睡眠が足りた証拠か、雲がかっていた意識の混濁が綺麗に取れていた。


「さて、まだ表が明るいといいのだけど」

ひとまずここにメンツハウスがあるということは。

あと少し歩けば、皆の拠点、愉快空中庭園完備のアルカディア。

クラフター達が自重しなかった結果の産物。

<塔>が、あるはず。


幸いにも、丘の上に登り切った時点で夕日と言えない程度の日の落ち様。

自分はのんびりと丘を降りると、轍残る平地道を鼻歌交じりに進んだ。

そして。

自分の目の前に広がる、記憶にない村。

その奥、よく覚えている<塔>のあった場所には。


世界樹、とでも呼びたくなるような。

<塔>を飲み込んだであろう、大小様々な樹木が一本の樹として成り立つ異様が、そそり立っていたのだった。


「絶対に、5年じゃこうならない」

100、200、いや、もっとか。

ここがゲームの中だとするならば。

この中の時間は、果てしなく速い流れで、進んでいるのか・・・。

<世界樹>を馬鹿みたいに仰ぎ見る。

木々の端から除く<塔>の石壁が、若干のひび割れのみで健在そうに見えるのだけが、自分の心を若干和ませた。


ひとまず、自分は見覚えのない村・・・<世界樹前>とでも呼ぼうか、に、たどり着いた。

畑仕事から早々に引き上げる農夫に軽く頭を下げながら村の中まで同道させてもらう。


「やぁ旅人さんかい? アンタもウチの自慢の樹を見に来たのかい?」

ここらじゃ一番の観光名所だからなぁ、と、気のいい農夫が笑いかけてくる。


「噂以上に凄い代物ですね。 自分は仲間と一緒にアレを見に来たんですが・・・その仲間と途中ではぐれてしまって。 こちらの村にここ数日内に訪れて滞在している旅人とかはいらっしゃいますか?」

作ったヤツらを知っている、とは言わずに、ひとまず褒めから入ってみる。


「ここんところは旅人もすっかり減ったしなぁ、一時期に比べて宿屋も減っちまったし、虱潰しに探してみるくらいしかないんじゃないかなぁ」

ワシは朝から夕方まで道から外れたところにある畑で仕事なんで旅人さんが来たかどうかは分からないんだわ、と、済まなそうに頭をかく農夫。


「いえいえ、もしご存知でしたら、位の気持ちだったのでお気になさらないで下さい。 ひとまずオススメに従って宿を回ってみるとします」

ありがとうございました、と、にこやかに手を振って家路につく農夫と別れる。

さて、二人目のエンカウントも予想外に善良そうな人だったな・・・などと考えながら、ひとまずそれほど広くもない村の多くはない宿屋を探して徘徊することに。

全三軒の宿をめぐる。

残念ながら、友人達はおろか中の人が入っていそうな顔見知りも居らず。

受付の人に「泊まって行くなら安くしておくよ」と言われ「あ、お金ないんです」と切り返す居たたまれなさを三度味わって、収穫なし。

いや、ひとまず今はまだ友人知人がいない、という情報を得た、か。

しばらくは、ここの村を拠点に・・・待ってみるとしようか。

徒に動きまわるよりは、きっと合流できる公算は高くなるだろう。


友人達が、本当に自分と同じようにこの世界上にいるなら、という条件が重く心に伸し掛りはするが。




ひとまず、村長さんの家をそこら辺の住民を捕まえて聞いてみることに。

観光名所のくせに旅人が珍しいのか、面白そうにこちらを見てくるオバさんに愛想よく笑みを返し、得たい情報を得る。

なんのことはない、このオバさんの旦那さんが、村長であった。


サクッと晩酌中の村長さんを直撃し、ひとまずこの村をしばしの拠点にしたい、と申し出る。

仕事などがあるなら、なお嬉しいです、と伝え、出来ることを伝える・・・全体の、一割くらい。

力仕事に鍛冶仕事、料理洗濯荒事から応急手当・・・位は伝えたか。

全部伝えたら、絶対胡散臭い目で見られると言う自覚はある。

特殊技能を除き、全部自分限界まで鍛えた自称「まるまり」は、伊達ではないのだ・・・。


「最近の旅人さんはなんでも出来るんだねぇ」

村長さんの社交辞令に照れてみせたりしつつ、一応の了承を得ることに成功。

今のところ無一文なので、村近くの丘にある廃屋辺りにテント暮らししています、とだけ伝え、村長家を後にする。

ここのところ寒くなってきているから風邪を引かないようになぁ、と見送られ。


かくして、自分の拠点に、帰って参りました。

友人知人はまだ見ぬけれど。

素朴な村人たちに囲まれて、のんびりと長閑に。


わずかながらの、穏やかな時間が、流れた。

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