閑話 しおんさん ふんとうき
スタンガンだから無事だというものでもない(なん・・・だと・・・)
扉を開けたら、そこは今まさに激突しようとする両軍勢の、ド真ん中だった。
な、何を言ってるかわからねーと(中略)おいおい平和的に行こうぜワチキはただの通りすがりで(中略)おいおいおいおい巻き込むな弓撃つな斬りかかって来るな!?
なんてアグレッシブかつ鮮明な夢なんだこれ!
ぼよよんぼよよんと<黒粘体>に弾かれていく、周囲からの暴力に慄きつつ。
彼、シオンは真直ぐに駆けて、戦場を横断した。
背後を一顧だにせず、目の前に広がる鬱蒼とした森に飛び込む。
彼へ向けて攻撃していた軍勢らも、一瞬だけ毒気を抜かれた感じになったが。
すぐに互いが互いの敵だったことを思い出し、争う相手を互いに定めた。
「うわっ、中世系武器戦争? おっかなー」
樹の背後から、そっと、灰剣士は、見た。
生々しくガツゴスザクッと擬音を残して人が脱力、倒れていく場面を映画でも見るように。
他人事視線で盗み見る。
大仰な技もなく。
力技で大ぶりな。
重量物を叩きつけ合う鉄火場。
実に原始的な闘争が繰り広げられる。
「うぇっ、生グサッ」
シオンは吐き気催す血風が臭ってきた辺りで我に返る。
ひとまず、森の中迂回してさっさと離れよう、と。
戦場から視線を外して森の奥へと向けて振り返り。
がぶり。
音もなく背後に忍び寄っていた、体長5mクラスの大熊似の野獣に齧り付かれた。
突然の御馳走に狂喜したのか、シオンを齧る仕草の激しいこと。
見ているだけで熊の心情が台詞で聞こえてくるようだ。
この獲物は面白い歯ごたえがするな、いつまでも・・・噛み切れない。
「クマに襲われるのはメリウの仕事だ」
そんな声が自分(熊)の口の中から聞こえた、と思った次の瞬間には。
轟音に塗りつぶされた静寂。
千年樹を思わせる極太の落雷が。
雷光速で大熊を、消飛ばした。
焼ける森、残響とどろく晴天。
土煙に若干咳き込みながら、シオンは背後から迫る足音達から逃走。
不自然極まりない落雷の異常性に、衝突をやめて続々と森へと踏み入る軍靴の音だ。
「轟雷は派手すぎたかっ」
思わずぶっ放してしまった自分に非はないはず、とも思うが、周囲はそれを非と断じたようで。
「さっきの奴か! 捕まえろ!」「まさか伝説の・・・!?」「降雷の魔法・・・だとっ」
聞きたくないような種類の怒号木霊する森の中。
熊さんに出会ったシオンは。
狩人たちに追いかけられる事となり申した。
「こんなことなら意地張らずに<飛行>とか習っておくべきだった」
と、昔のロマンに憑りつかれていた自分自身を罵倒しつつ。
当所ない逃走劇を繰り広げることとなり。
ルール説明ひとつない強制鬼ごっこ、開始。
撃って出りゃいいじゃん。
そんなシンプルな回答に行き着くのは、日も暮れかけた茜色の空の下だった。
立木を高速走行しつつ避け、道なき道をひた走り。
森を抜け丘を越え。
人の気配のしない方へ、方へ。
流石に昔懐かしの。
鍛えに鍛えたゲームキャラにして現在の<外の人>は、格が違った。
体力・・・化け物。
逃げ足・・・高速。
そして。
「戦闘力・・・剣聖っと」
雷精剣化<神音>をスタンロッド代わりにしつつ、雲霞の如く集まってくる有象無象をバリバリとノして行き。
逃げ回っていた時間の、実に半分ほどで。
戦争活動を行っていた両陣営合わせて千人弱を、薙ぎ払った。
死者一人出さぬ、余裕の勝利であった・・・殺していいなら一太刀で終わったんだけどね!
「一騎当千計画、完遂っ」
夕日を背に、謎の勝ちポーズを決めてひとり語ち。
シオンは規模の大きな喧嘩両成敗を成すと。
暢気な速度の徒歩で、ひとまず最寄りの道を適当な方向へ進んでみるのだった。
馬を一匹奪っておけばよかった、と後悔したのは夜も更けてきた辺りだった。
無限袋から防寒用マントやら毛布やらを出してくるまり、夜明けを待つ構えだったシオン。
現在、ベッドで寝たくてグッタリしていた。
「あー、あー、あー、もー、どー、しよー、かなー」
寝床に選んだ坂道の根本。
その少し外れた場所にあるくぼみをさらに掘り返し。
穴の中、あったかいナリ・・・。
とかやってるのにも飽きて。
「ひとまず派手にやっちゃったから眠れねぇ・・・」
おとなしく灰仮面で幽体化して逃げとけばよかったんじゃね! おお、それって天才じゃねワチキ! 思いついたの今だけどな! ダメじゃねぇかこの脳筋! なんだと脳筋!
むなしく脳内で続く自分糾弾大会。
「いやまて。 もしかして熟睡すれば、この夢覚めるんじゃね?」
きっとワチキ、カラオケで浴びるほど飲んだから急性アルコール中毒とかになって病院で昏睡してるんだわきっと。
だから目が覚めたら、恐らく見覚えのない天井を眺めるベッドの上なんだ・・・なぁんだ寝よう。
シオンは、寝た。
念のために結界及び穴のカムフラージュは、行った。
・・・現実逃避は、虚しいもので。
おはよう、良い朝だね!
お空は綺麗に晴れてる。
目覚めても病室じゃなかったよ、やったねシオンちゃん!
「やめろ・・・おい、やめろ・・・」
うなされて起きる。
やはり安心できぬ野宿は眠りが浅くて困る。
穴から顔半分出して周囲を確認しつつ、シオンは防寒具等を袋に押し込んだ。
うむ、どうやら人っ子一人いない安心のボッチ道行だな。
勢いよく穴から飛び出し、一気に坂を駆け上がる。
「あの坂を上れば、何か見えてくれると信じて」
シオン先生の次回作にご期待ください。
・・・あっれ、終わっちゃダメじゃね?
むしろ何も始まってねぇようわーん。
長い坂道を駆け上がりながら泣き言ホザき。
3.2.1到着。
「おおー、良い眺め」
見下ろす先は、大盆地。
彼方に見える、何か見覚えのある、塔?
「うへぇ、よりにもよって、あそこかよ」
同じようなもんでも、ワチキらのアジトじゃない方のかー、と、ガッカリする。
見下ろす先にあったもの、ひとまず目指すはあそこだろうが。
今もまだ入り口ないのかなぁ。
ついでに言うなら、ワープゲート使えればいいなぁ。
若干だが目的地が出来て軽くなった心に鞭を入れつつ。
シオンは、懐かしい<入り口のない塔>目指して歩き出した。
・・・そして何事もなく到着、歩きづくめで喉もカラカラ。
無限水筒あってよかったね!
ってか無限シリーズ、便利すぎるよね!
手に入れておいてよかった・・・ワチキに回ってきたの、最後だったからなぁリアルラックの低さが悔しいビクンビクン。
見上げる威容に変わりなく、その入り口の無い塔・・・に似た防壁・・・は、在った。
ただ、塔自体に入り口はなかったのだが。
塔の下、塔を構成する壁材の下。
地面に大きな、穴が開いていた。
「地面の下を通って侵入されたて感じかー」
大きさからいえば巨人サイズ、つまりはそういう事か。
シオンは剣を片手に、大きなトンネルを潜っていく。
潜った先は、昔の面影もなく破壊されつくしていた。
嫌な予感しかしなかったが、念のために中心部へ急ぐ。
そこにあるはずのゲートを確認するために。
果たして、ゲートは、無かった。
破壊された瓦礫すら、無かった。
そこだけ手つかず、と言った感で、綺麗な空き地があるだけだった。
「やけに不自然にかたついてるな?」
シオンが首を傾げるも、どういうことなのか答えてくれる便利な神様が落ちているわけでもなく。
ため息一つついて、シオンはその場を後にする。
さてどうするか、と、ひとり語ち。
トンネル潜って外への坂道を登りきってみたところ。
問答無用の白刃一閃、頭の上に落ちてくる。
が、瞬間的にその白刃は、鍔から握りまでを残し「消滅」した。
自身へ向かう白刃を知覚した瞬間、いや、それ以前で<外の人>が、自然な反射で<速剣>を合わせた結果である。
襲撃者にはシオンが剣を振るった事さえわかるまい。
鍔元のみを残す得物を、ただ茫然と見つめるしかない襲撃者。
「ちょうどよかった、ワチキ、色々聞きたいことがるんだけどさ」
ポン、と、動かない襲撃者の両肩に手を置いて。
いい笑顔のシオンが、ゆっくりと肩をつかむ手に力を加えた。
男は、一匹狼の野盗であるそうだ。
で、変な遺跡に立ち寄る珍しい格好の男を見つけたものだから獲物ゲットだぜーとばかりに待ち伏せして返り討ちになったなう。
・・・一匹オオカミって響きカッコいいけど、群れから追い出された落伍者なんだよね。
「で、落伍者よ。 ここら辺にはもう巨人は居ないんだな?」
尋ねるシオンを胡散臭げに見て、野盗男が頷いた。
「大昔っにはっ人間と戦っ争してた、なんて話もあっる・・・ありっますけど、今はもっう人とか小さっ目な魔物くらいなもんっですよ」
そろそろ続けている正座で足がしびれて来たのか、変にスタッカートのきいたセリフ回しな野盗男。
運よく、言葉は通じた・・・外の人が使う共通語が、知っているけど初耳な音で意思を疎通させてくれている。
シオンはつくづく訳が分からん状況だ、と内心頭を抱えつつ。
「で、今現在は小さい国が他面戦争してる愉快地域になっている、と」
ふむふむふむむ、と、地面に世界南部の略図を書いて、野盗から得た情報を描き加えていく。
大体が3つの大き目な国のくくりで争っている、という感じのようだ。
同じ国のくくりの中で、さらに争っていたりもあるそうなので一概には言い切れない、らしいが。
「修羅の国だなぁ、平和を愛する無力なワチキには縁遠い世界だわー」
と、申しております、振る手もみせずに鉄の塊を消し飛ばした男が。
ツッコみたいけどツッコめない、野盗は正座の痛みとともにそれも耐えねばならなかった。
「さてっと、こんなものかね。 んじゃ、ワチキはこれで」
いつの間にやら、地面に描き込んでいた地図が、綺麗サッパリと消え。
代わりに、シオンの手に握られている、紙の地図。
描いてある内容は、無論、今まで地べたに記されていたものと同様である。
<複写>という、低レベル魔法であった。
四属性外の<シンボル>魔法。
物体に文字を刻んで変化を起こすという、文字象徴の魔法。
シオンの趣味で、その系統の魔法をコツコツ買って覚えるというモノがあったのだが。
事実上初めて役に立った。
好きこそものの上手なれ、とはまた別のものであるが。
「魔・・・法・・・?」
「手品手品。 種も仕掛けもございます」
怪現象に驚く野盗に、おどけて見せるシオン。
そもそもこんなん、そこらの魔法使いが呼吸レベルで使えるだろうになぁ。
何驚いてるんだか未開の地の田舎者でもあるまし。
北の方の魔法王国を除けば、巨人戦争で磨かれた実践魔法天国だったんじゃねぇの、ここら?
「んじゃ、達者で暮らせ。 今度襲ってきたら<居なくなる>からな、お前さん」
そろそろ正座痺れでビクンビクンしだした野盗の頭をゴチンとやって、シオンはその場を立ち去った。
地図を片手に気ままな旅路。
野盗の言う事が本当ならば、近くに村があるはずだが。
盆地に広がる草原に、まばらについた轍跡。
道なんだか草畑なんだかわかりづらいそれを、ひたすらに歩いてゆく。
「あー、こんなことなら二輪組の単車一台パクっとくんだったー」
で、即座に歩くのに飽きた。
その後、軍集団に会ってはノし、町で狼藉者が居たらノし、ひとまず偉そうな奴が威張ってるのを見てはノし、を繰り返してたら指名手配犯に。
不思議!
同じように過ごしていた模様のレザードやマックスと合流してからはそれが加速し、なにか話が大きくなったりもしたのだが。
そこら辺は、その内に。