壮絶そこは女子会で
あれから数日がたち、魔族難民組にも若干の笑顔が見かけられるようになってきた。
稲作等の農作業手順も一通りマニュアルが完成したので、先住の魔族さん達を筆頭労働力にしてインチキ稲作が開始されたりした。
極度の衰弱状態を脱した難民さん達もそこに合流し、数日前まで荒れ地だった場所が一面の水田に・・・シムシティならぬシムヴィレッジ面白っ。
・・・ある程度の食糧備蓄が出来たら<成長促進剤>の使用を控える予定ではあるけれど。
一日で農作物が収穫できるなんていう異常に慣れちゃうと、いざそれを奪われた時に何もできずに終わる。
別に自分達は、餌をよこせと口を開ける奴隷を育成してるわけじゃないんだし。
不意に自分たちが居なくなったとしても、彼ら自らの足で立てるように。
今はまだ、補助輪をかって出てるだけなんだから。
「で、あっという間に目標量オーバーと来たもんだ・・・」
しっかり「はせがけ」して干した後に収穫された籾が、酷い量に。
一部は人用の脱穀機及び水車式精米機を用意して白米までの加工工程を伝えてはいるけど、殆どの収穫は地下の秘密基地にて自分がヤってますれば。
食べる分はその日のうちに精米、を基本に。
しかしながら、そのため精米待ちの籾の山がチョモランマ。
無限袋がなかったら、持ってくるだけでも酷い手間だったなぁ、これ。
翌年用の種もみをガッツリ備蓄してなお、これである。
余る分には、良いか。
自分は籾山を袋に詰めると、秘密基地から一路村方面へ。
隠し扉を押しあけて、カムフラージュ用のNEWメンツハウス(石造りのガワだけ建物)から鼻歌混じりに道行けば。
あれ、こんなところに騎士さんの群れ?
「あれー、前に言ってた追加派遣人員が来たのかな?」
思ったより早かった、と見るか。
首都の運営枠組み作りが上手くいっているのか、案外こちらに回された人数が多い。
考えてもみたら、頑丈な壁作ったから防衛力という意味では若干人力が浮くか。
そんなこんなを考えつつ、のどかに道行く彼らに「にーはおー」とか声をかけてみたりする。
「にーはお?」と、真っ先にこちらを向いて即座に目をそらしたのは・・・ああ、あの時のチャンバラ小僧か。
嫌われるようなことしたっけっかなー。
あの後なかなか出てこないから掘り返してあげたんだけどなぁ・・・泣くほど喜んでくれてたのに。
この世は不思議に満ちてるねぇ、等と、どう考えても自分最悪じゃねって感じで反省しつつ、足の止まった騎士たちの集団に近づいていく。
・・・ん?
あれれ?
って、なんでいるの?
自分が追いつくのを待っていてくれた集団の中心。
にこやかな表情で元気に手を振る・・・ノナさんの姿が、見えるのだがおかしいな。
最近働きづくめだから眼精疲労で見間違えたのかなイヤどう見てもノナさんだおいおい横にモノさんまでいるじゃねぇか。
何しにきたのさ仮免国家元首とそのオプションっ・・・。
「「遊びに来ましたっ」」
ぶっちゃけおったわ・・・護衛騎士さん達の苦笑いに、自分胃が痛いのですが。
「首都の方は放置してていいんですか?」
ストレートに聞いてみる。
韜晦しても言葉遊びが続きそうなので。
自分の言いざまに笑顔を派手にしたモノノナは。(今度からモノナコンビと呼ぶかー)
「「皆から寄ってたかって、働き過ぎ、と言われて放逐されました~」」
てへぺろ! と、おどける二人。
キャラ変わるほどにハイだね、と思いつつ二人の顔色を良く見てみると。
うわぁ、顔色、白っ。
やつれてるのに、やけに目だけがギラギラしてる。
そして目の下のクマが・・・うわぁ・・・。
「お二人さん、何徹目よ?」
「「3~!」」
ひゃっはぁー、と二人してハイタッチとかしてるモノナ夫婦。
・・・おいぃ!?
どうしてこんなになるまで放置したっ。
自分の非難視線を向けられた騎士たちが、そろって顔をそらした。
これだから脳筋どもはっ。
「じゃ、今首都は適当に動いてるってことでいいのかな?」
適当、適するに相応しく、もしくは大雑把に要領よく。
ひとまずそんな問いを、ハイな二人に向けて放ってみる。
「「井戸端会議で動いてまーす!」」
周囲から「せめて議会とか呼びましょうよ」「あー、メンツがオバチャン多いしなぁ」「本当に長屋の井戸端で動いてるしね、首都」「バラバラの意見が長屋単位でお二人に回ってくるから処理追い付かないんだって」・・・等と聞こえてきたりする。
フムフム成程。
・・・で、貴様らはそういう事務仕事手伝ったりできんの?
聞くなり、また顔を背ける騎士たち。
「だってぇー、おれらー、剣を振るのが仕事だしぃー」とか聞こえてくるのがまたムカつくなコイツラよし泣かすこの糞脳筋どもめが。
「この騎士連中、地獄見せるけどいいよね?」
「「うはwwwwwwwwwww おk wwwwwwww うぇwwwwwwww」」
草生やすなっ・・・。
エリスあたりか、モノナにそのノリ教えたのは?
まぁ、いい。
ひとまずは。
「お許しが出たので、貴様等脳筋騎士共に事務屋の何たるかを叩き込むので、そのつもりで」
ちなみに、もう位置特定の魔法かけたので、逃 が さ ぬ 。
エイジ大先生にも出動願うとするか。
さぁ、楽 し く な っ て ま い り ま し た 。
「わぁいノナちゃんおひさし~」
「エリスちゃん! ぉぅぃぇー!」
エリスとノナさんがキャッキャとはしゃいでいる。
そしてそれを無口無表情に見つめる槍の人ことフラナガン氏・・・あー、あの仕草からすると超心配してるね。
しっかしノナさんの変なテンションと目の虚ろさが心を抉るなぁ。
自分じゃ手に余るんで、ノナさんはエリスと槍の人に任せよう。
「よろしゅうに~」「あいよっ」「うふふふふふぅー」「・・・」うん、嫌な予感しかしないけど平気だと信じさせて?
信じてるぜ!(自分でフラグを立てる奴があるか)
「モノさん、ひとまず案内付けるから一風呂浴びて酒でも飲んで寝ちゃえー」
なにか小刻みに震えてエフエフ笑い出したモノさんに危険な何かを感じたので、道行くテトラさん捕まえて歓待を依頼する。
「よろしゅう」「心得た」連行されるモノさんに手を振って。
自分は、くるりと。
護衛対象が居なくなって立ちすくむ騎士たちに、向き直った。
数名のヒィ、とひきつった声が漏れたような気がしないでもないが、気にせず行こう。
だって、これから彼らに起こることは。
「当人たち以外、知ることはないから、ね」
モノナ夫妻の惨状を見て今の状況を理解したのか、出迎えにやってきていたエイジ先生もすごいイイ笑顔で。
ぶっちゃけ反射的に逃げたくなった自分に何とか待ったをかけて。
エイジの真似をして、冷酷に、微笑んでみた。
ひとまずみっちりと座学であった。
座学というからには座らせた。
こういう時には姿勢を正すべきだよね!
つまりは、正座を強要した。
数時間も経った辺りか、オウフオウフと悲鳴を出しやがるので端から脚つついて回った。
のたうち回っておるわ、愉快愉快。
「メリっさんー、やってることがえげつない」
一応常識人のエイジからツッコミは入るが、制止はされてない所を見ると自分の行動は正しいと理解します、ちぃ、覚えた。
「脳筋死すべし‥・・っ」
うぇっへっへっへ、何だ何だ、芋虫みたいにビクンビクンしやがって誘ってるのかエエ? ヒャァ、もう我慢できねぇぜ良いではないか良いではないか・・・。
「おいぃ、誰だ自分のモノローグっぽくHOMO空間作り出しやがったのは!?」
聞くまでもなく奴しか居ないんだけどさ。
「ククク、よく気がついた。 褒美にモノさんをFU○Kしても良いのよ?」
「げぇ、酔っ払った腐女子が現れた!?」
「ケタケタケタケタ。 エリスちゃんー、モノはボクのモノだってばさー、ぷぷぷー、うまい事言っちゃったー」
腐女子に続いたノナさんのその一言で。
ガリっと。
エイジと自分のサニティ値が削られた。
い、いつの間にこの子らにアルコール入った‥‥・?
くそぅ、ストレス発散くらいにはなるかな、と現状で強く出られぬ自分達がいるっ。
忌々しい善人属性めがっ。
「・・・フゥ」
そんな腐りとダジャラーを追いかけて。
ため息と共に、のそーっと現れる巨大な影。
「・・・賢者、モード」
ちょ、フラナガンさん、アナタがいたからエリスから目を離したのに。
って、何で貴様賢者になってるのよ?
「エリスの、新作・・・ファビュラス」
フラナガンさん、小脇に抱えたそれはまさか。
あの腐れ鬼畜の、無限頁スケッチブックかっ。
「あーナガさん! それメリっさんに見せちゃダメですよー・・・ショック死しちゃいますからー」
貴様ーーーーー!
何描いたァァァァァ!?
ぐぐぐぐ、オノレっ・・・デンジャー状態のノナさんさえ居なければ即時紐なしバンジーの刑に処す所なのにっ。
「ひとまず、どうしようコイツ・・・ら」
「見ていると処理したくなる。 僕らが、消えよう」
それだけ吐き出したエイジは、周囲の脳筋芋虫たちに解散を告げると、足早に立ち去っていった。
うっわ、怖ァ。
唇の端っこ噛み千切って血流れてたぞアイツ・・・。
死んだな、痴ロリン。
どこか自分から見えない所で果ててくれ。
自分もエイジに続くように、その場を逃げ出した。
翌朝、フラフラしている騎士数名を介抱した際、昨夜の「彼女ら」の悪行を耳にする事となり。
自分は、なにか大切な物を失った目をした彼らを、ただ慰めてやることしか出来ず。
忘れるんだ・・・只の夢だったんだ・・・きっと。
「・・・・!? ・・・!」
騎士達と別れた後、<塔>の屋上、空中庭園の端っこから釣り下げられた布団とロープで出来た芋虫・・・簀巻きが、何事か叫びながらもがいている光景が目に入る。
・・・が、自業自得だよね。
三ヶ月くらいで許してくれるさ、多分。
「・・・こ・・・れが・・・巻プレイっ・・・フヒヒっ」
エリートすぎる。
痴ロリン・・・怖い子っ。
体調はいかがか、と尋ねたモノナのお部屋、昨日はお楽しみでしたね?
っとまぁ、馬鹿言ってないで進めるけど。
ノナさんは昨日の記憶がまるで無いらしく。
風呂飯酒コンボで熟睡し、完全復活したモノさんに、手ずから二日酔いの看病されていた。
おいおい、幸せそうな面ァしやがって・・・へっへっへ、あやかりてぇなぁ・・・。
とか言ってみるけど、無理。
あそこに居たら自分は砂糖吐いて死ぬ。
撤退撤退。
畜生リア充め、祝ってやるっ。
で、その後「女子会」最後のメンツにいきあう。
無言でパラパラとスケッチブックをめくる・・・巨躯の槍使いに。
一言、礼を言ってみる。
「ありがとね。 今まで野郎だけに囲まれてたせいで、結構なストレスだったと思うんだ」
優しい子だから、色々我慢してたと思うんだよね、と、済まなさ一杯に告白してみる。
「大丈夫だよ。 あと、あの子敏いから、きっとそう言う気遣い、バレてる」
パタン、と、スケッチブックを閉じつつ。
男性型外の人を纏った「彼女」は。
案外と器用に、ウィンク一つ。
「これからは任せて。 一応、こう見えても女の子ですから」
子?と首を傾げる自分に、フラナガンさんは無言で槍を突き出したとさ、めでたし、めでたし。
「で、旦那は今どこにいるか知ってる?」
「うん、南のほうで三匹が斬る!ごっこやってる」
「あ、連中つるんでたのか、よかったよかった。 野垂れ死んでないかと思って心配してたんだよね~、連中生存スキル低めだから」
「うん、死にかかってたりした」
「予想通りか」
「魔王<疫病>は強かったみたいでね」
「・・・良く、生き残ったね」
「ジオさんの薬持ってて助かった、らしいよー」
「ほうほう・・・っと、んじゃ、詳しい話は」
「はいはい、また、 あ と で ♡」
「流石ゲームやってる彼氏をレロレロしちゃう女はエロさが違った」
「ちょ、いい加減そのネタ引っ張るのは・・・」
「m9(^Д^)プギャー」
「(怒)」
・・・。
昔なじみは、愉快なもので。