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日常それは米騒動

毎日がエブリデイ、こんにちは、自分です。

ひとまず日々盆栽時々研究はたまた実験もしくは酒盛り、といった充実した日々を送っております・・・「元の日常」に戻る手がかりは、まるっきり無いけどねっ。


そんな中、自棄になって酒浸り~とかにならずに過ごせる友人たちが実に頼もしく。

予想以上に脳天気に、こちらの日常が流れていた。




エイジはよく自分と連んで盆栽いじったり<世界樹>内部の清掃整理復旧したり痴チロリンを埋めたりしている。

頼もしき相棒的存在である。

今日も今日とて、共同作業途中だったりする。

本日の作業は、ズバァリ!

「田植え」である。

先日の実験の際、ついに。

ついに!

ついに!! 

「稲」の入手に成功しました万歳っ。

入手経路はといえば・・・うん、秘密にしておく。

伏線は多い方がよいからなメメタァ。

結論として米生産が可能になったということなんだよワトソン君!


「おーいメリっさんー、脳内麻薬でラリってないで働けー」

すいませんエイジさん、と、自分も作業再開。

田圃作りの第二段(第一段の地均しとかは<黒粘体>前提による自分メテオによって終了)、水張って稲穂から育て上げた苗の入植である。

テストケースでもあるので一反のみの田に、エイジと二人スネまで泥水に浸かりつつ。

苗を刺す、刺す、刺す。

一定間隔に、まっすぐに。

柔らかな泥に、刺す刺す刺す。

何度も、何度も、何度も。

懐かしすぎて楽しい。

田植えなんて何十年ぶりだ・・・。


「自前の体だったら真っ先に腰が死んでたよね」

外の人すごいよ! 流石鍛え上げられた超肉体。

水面を滑るがごとく苗を植えるエイジの台詞に、自分も同意だが少しおちつけ。

キャラが自分みたいなテンションになってるぞ?


「おおっといけない。 狂人と同等なのは人としてダメだよね。 僕猛省」

サラっと自分Disるのやめてくだしあ。


「っと、狂ったエイジが頑張ってくれたおかげで田植え終了だー、ひゅぅ!」

今度から「くるえいじ」とかって呼んでやろうふはははー、などとオチャラケつつ。

自分たちは田圃から上がると、一息つく。

手足洗うのが面倒なので<洗濯>魔法でパパッと済ませ。

今し方までの労働の成果を肴に、酒「まだ昼間な?」・・・酒「まだ昼」・・・さ「した」コポォ?

繰り返しネタに厳しいエイジ先生であった。

エイジの手刀マジ刃物。


「しかしまぁ、同士の執念ついに、という感じだね」

僕も米ご飯食べたかったから嬉しいけどさ、と、規則正しく苗が並ぶ田圃を眺めご満悦。

だけど、実際口にできるのはまだ遠いね、と苦笑いを浮かべる同士。

ククク、それは・・・間違いだっ。


「今日中に収穫して食うよ?」

だって、もう自分、我慢出来ないもの・・・。

そう、アレで稲穂が手に入るということは。

つまりはコレの原料も無尽蔵だということだ。


「いや、ちょっと何言ってるか分から・・・!?」

また変な空気吸って妄言を、と自分を窘めようとしたエイジが、止まる。

自分が取り出した「それ」が、なんなのか理解したためである。


<成長促進剤>


ビバ、ゲーム的ファンタジィィィー。

薬学スキル素敵ィィィ。


「竜の血から生成されるこれは純粋なる生命力によって生物の成長を大きく助け特に植物との相性がよく(中略)ケミカルXも目じゃないぜ!」

言うが早いか田植えの終わった田圃にドプドプと。

ドス赤い液体を投入~。

黒に近い赤色が、泥水にジワジワと混じりこんでいき。

即時。

田圃に変化が、訪れる。


泥水に走る波紋が苗を行き過ぎるタイミングで。

ざぁっと、解せぬ速度で苗は稲穂の重さに頭を垂れるまでに成長していく。

定点カメラを使ったドキュメンタリーじみた光景に、男二人して無言。

いやぁ、秋の青空に映える黄金の実りですねぇ。


「さぁ、収穫だ」

「なんだこのコレジャナイ感は・・・あとこの米、体に悪そう」

んだとー、んじゃ同士はずっとパン齧って生きればいいよ!

自分は食う。

こ め を く わ せ ろ 。

自分は両手で斬馬刀を握り締めると。

丹精込めて(薬漬けで)育て上げた愛しい稲穂共を、バッサバッサと刈り始めるのだった。




米俵8つ分。

実に500kg近い米の収穫が、成った。

・・・あっれ、普通に食う米に困らない量が手に入った・・・ぞ・・・?


「試験田圃に1反は、広すぎたかね?」

一升炊きの羽釜(鉄工のエイジ渾身の力作)を使って銀シャリを炊きつつ。

色々呆れた感じのエイジに聞いてみる。


「なんだかんだで皆に振る舞うとかするんでしょ? ならこんなもんでいいんじゃないかな?」

流石相棒、わかってらっしゃる。

美味しいものは共有したいしねー。


「とか言いつつ、最初の御飯は独り占めするメリウであった、まる」

「現状で言うなら二人じめじゃね? 働いた奴の特権さねー」

それに流石の自分でも一升飯は食べ切れない・・・いや、外の人のスペックなら、あるいは・・・。


「イケる!?」

「自重しろ」

はい、スイマセン。


始めチョロチョロ中パッパ、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、赤子泣いても蓋取るな~と歌いつつ。

ついに。

御開帳~。

くぱぁ。


分厚い蓋が取り除かれて。

立ち上る、芳しい湯気の白さよ懐かしゅう。

若干の焦げの香りもまた甘く。

手早く飯切り、再度蓋。


「ごくり」

背後で唾飲むエイジの気配、まだだまだまだ蒸らしを待って。


「ごーなへー!」

「ぃぇー!」

放り投げるような勢いで蓋を取り。

手早く茶碗に山盛り白米。

塩漬け野菜をその上に乗せたら、後はもう。


「「いただきますっ」」


・・・次は、ネギ味噌用意してやるからなっ!




と、いうことがあったのさ。

ジト目でこちらを見てくるジオとエリス。

ん、どうかしたのかな?


「あの、そんな話を・・・夕飯食べ終わった後にされましても」

「しかも、宿のメニューのまま・・・パンだったし」


そうだね、プロテインだね。


「「何故そのお米様が食卓に上らなかったか問い質しているんだっ!」」

二人してテーブルに身を乗り出してこちらを威嚇。

うん、その。

なんというか、ね。


「働かざるもの食うべからずってことで一つ」

食後の茶を取りに行っていたエイジが、席に付きつつ威嚇者達に答えを告げる。

まぁ、なんだ。

米の促成栽培実験は大成功だったわけなんだけど。

新規分の田植えと、収穫、乾燥に脱穀が、ね?

大変なのだよ手作業なので。

まだ軌道に乗ってないので村人とか<魔族>さん達に動員要請はしづらいし・・・。

そんな訳で。


「明日から数日、お手伝いしてくれる人が居ないかなぁ・・・チラッ」

「「うっわ、ムカツクっ」」

悔しい、でも手伝わざるをえないっ、と項垂れるジオとエリスを愉快に眺め。


「農奴二人、ゲットだぜー」

言おうとしてた台詞をエイジに取られ、記念すべき初米収穫日は終了したのだった。




田植え初挑戦のエリスが大はしゃぎ。

何がそんなに楽しいのかいのぅ、ワシぁ腰が痛くてたまらんわぁ・・・ごめん嘘です、外の人はそんなにヤワじゃありませんでした。

懐かしいねぇ、等と言いながらのんびり苗を植えていく自分たち大人三人を後目に、自称成人正体未成年が凄まじい勢いで田圃の泥水かき分けて至極楽しげに田植えに邁進していた。

試験第二弾に作成したもう一反分の田圃に、みるみる苗が突き刺さっていく。

おお、機械要らず。

「たーのしかったー」

エリスさん泥遊びレベルですっかりご機嫌。

顔中に泥はねてるぞい?

丸ごと<洗濯>しちゃるから、田圃から上がっておいでー。

「はーい」

うん、素直でよろしい。

珍しく腐臭のしない妹分を好ましく思いつつ。

田から上がった皆に、一息入れようと声をかけた。


皆がそれを感じたのは、茶を飲みつつ休憩していた、そんな最中。

皆の鼻をくすぐる、鉄色の風。


「何だろね、この死臭?」

風は、南から。

一際強い、血の腐った臭い。

即時臨戦態勢を取る周囲と、全視覚を開放する自分。

・・・目に見えぬ系の敵襲来も予想したけど、そんなモノは無かったぜ。


「あー、あれですな、見えました」

ジオが指差す遥か彼方。

その集団は、なんとなく既視感を感じさせる装いで。

長い放浪に削られ続けたその姿。

服というよりは、すでにボロ布未満が体に引っかかってる、といった風情。

死神の列って、あんな感じなのかねぇ。


・・・とか言ってる場合じゃなさそうだ。

だってどう見ても、あの人たち。


「<魔族>さん達の集団に、見えるね」

納刀しつついうエイジ。

まだかなりの距離を残してはいるが、すでに彼らの惨状を見て取ったか。

敵でない、と、判断を下したようだ。


「メリウ、行きますよ?」

その集団の状態を見て取ったか、たまらずジオが飛び出した。

自分も無言で、それに続く。


「行ってらっしゃい救急箱s~」

何エリス、そのセンス無いネーミングッ。

今から大仕事になる予感しかしないんだから気勢そがないでっ。




南から来る、死臭纏う、その集団。

千人近い彼らは。

その半数ほどが。


死んでいた。


走り寄ってくる自分たちを見た<魔族>さん達の目は、すでに濁りきっていた。

物理的に、ではなく、精神的に。

常に奪われ続けた者の目、とでもいえばいいのか。

生きてる限り歩き続けろ、とでも呪いを喰らったかのように、のろのろと歩を重ねる。

蠅集る死体を、背負ったまま。

引きずる足の、爪さえ無く。

それでも、前に向かって進む。

そんな、集団だった。


やるせなさ過ぎて、思わず泣きそうになる。

腐りかけた幼子を抱いて歩き続けてる人なんかもいて、正直<中の人>の精神力だけだったらしばし動けないレベルである。


「メリウ。 ひとまず生きてる方の手当てを。 落ち着いたら順次・・・蘇生、行きますよ」

すでに覚悟完了したジオの声。

流石二度目。

いや、これが初見でも同じか。

すぐさま行動開始したジオの背に向け、自分は一言。


「応」

腹くくって、答えた。


・・・そこから数時間分の記憶が、曖昧。




気が付くと、自分は地べたに大の字。

肉体的にはさほどの疲労感もないが、精神的には途轍もない負荷がかかっている。

あー、えー、自分、何やってたっけ・・・。


「メリウ?」

秋晴れの、空を遮る、ジオの顔。

彫の深さに、影さらに深く・・・超怖い。


・・・良い気付けだ、さんきゅぅ。


「ほう? この超絶イケメン様の何が着付けになったんですかのぅ?」

「顔の造形」

「チネェ!」

「だがスライムガード。 ちなみに強酸性」

「手がっ、手がぁぁぁぁ」


「「ここまでテンプレー」」


ありがとう、ちょいと元気出た。

ジオ、お疲れさん~。

起き上がって周囲を見れば、すでに日も陰りだし。

戦場のような有様の祭りあと。

芋煮用の巨大鍋がその威容に影落とし、静かにたたずむシュールな光景。


「メリウも。 大活躍でしたね食糧配給とかまで」

そんな事をいうジオの手には、二つの茶碗。

ああ、なんだかんだで行き渡ったんだったっけ、これ。

差し出された茶碗を手に取る。

ほんのり温かな、粥が入っている。

そうだそうだ、さっき自分が作ったっけ。


「お疲れさまー、二人ともー」

そう声をかけてきたのは、新たな<魔族>集団を<塔>へ誘導する役を引き受けた片割れのエリスだった。

手には、ジオと同じく茶碗が二つ。


「エイジさんと私の分ー」

べ、別に二人に、と思って持ってきたはいいけどすでに二人とも持ってた、とかじゃないんだからねっ。

とか言いつつ、箸も使わずズロロロ、と粥を飲み干すエリスさん超男前。

・・・エイジはそもそもここにいないぞぅ。

今はまだ<塔>でテント設営とかやってるはずだし。


「ヌルイー、けど美味しいのがなんか悔しいー」

鶏粥にしたからねぇ、最悪冷たくなっても食べられなくはない味になってる、はず。

最初味見したあとは、ガンガン作ることに専念したんで味変わっちゃってるかもしれんが・・・ん、そこそこ美味し。

痴ロリンも料理覚えるかね?

いろいろ便利よ?


「私食べる人、あなた作る人イタァ、グーで殴ったね!?」

「貴様は拳骨でも喰らうが良い」

もう強制的に叩き込んでやるから覚悟せよ。

実験的な意味も含めてな・・・。


「まぁまぁ、今日収穫した二反分のコメを全部粥にしたんですし、量的には余るでしょう」

量的な意味も考えて粥にしたんでしょう?、と仲介を買って出るジオに、自分は苦笑いしつつ頷く。


「あとは、体が弱ってるなら半固形にした方が消化にいいかな、とか鶏入れて栄養アップだ、とかは考えたけど」

ああ、死んだ目をして鶏モモとか手羽とか捌きまくった記憶がよみがえって鬱になる。

エリスはさっさと逃げ出しやがったしなぁ・・・チラァ。


「都会っ子の私には鶏の処理はショッキングすぎたんだぜ・・・手伝えなくてゴメンナサイ」

ああ、そいつは仕方ない。

初めて見たら、そりゃ心に傷を負うわなー。

・・・そのうち呼吸するのと同レベルでバラせるように教育してやろう・・・。


「さて、そろそろ日も落ちますし、村に戻りましょうか」

気を利かせてか、周囲のあと片付を率先して行なってくれるジオ。

自分より二歩先くらいで癒しの力を振るったタフネスを思い出し、ちと凹む。

あー、心のタフさが、まだ足りんね自分。


「ジオさんもメリっさんも、お疲れ様」

あらかたの食器や大鍋を豪快に無限袋に放り込むというゴミ処理的清掃を終えたジオと自分に、エリスが満面の笑みでサムズアップ。

イキロ! だったっけ? と、首を傾げる仕草が疲れた大人組の笑みを誘う。

そうそう、にゅっと親指を天に向けて。


「「イキロ!」」

あー、なんか久々に腹から声出してこのフレーズ言った気がするわ。


そのお陰かどうかは分からないけど。

不思議と、死んでいた心が。


生き返った、気がした。

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