<世界樹>それは盆栽で
草木も眠る丑三つ時・・・には少々早い刻限。
雲一つない星空に、月の輝く姿なく。
新月の晩。
殆どを闇に塗りつぶされた世界にて。
天を突くような巨大な剛直・・・<塔>に、粘り、纏わりつく存在があった。
見るもおぞましい、巨大な、粘体。
見るものが見れば<魔王スライム>などと呼んだかもしれない。
薄く薄く伸びれば<塔>をすっぽり覆ってしまうような面積を誇るそれが。
近目で見れば、ゆっくりと。
遠目で見れば、結構な速さで。
螺旋を描くように、上から下へと。
<塔>外壁を、舐っていた。
・・・と、他人事のように言っているが。
自分です、御機嫌よう。
只今、現在進行形で<塔>外壁を這いずり回っております。
ぬちゃぬちゃと。
ねちゃねちゃと。
ずぞぞぞろろろろろぉぉぉ・・・と。
<塔>外壁に伝う木の根やツタ、苔やらなにやらの有機物を飲み込んで綺麗サッパリ消化しているのです。
先端から根本へ向けて、なまめかしく。
・・・べ、別にいやらしい意味でやってるんじゃないんだからね! 勘違いしないでよねっ。
・・・ホントだよ? ホントだよ?
ああ、嘘だとも。(開き直った)
日中は、尊い運動行為をするための方便として使わなかったのだが・・・ぶっちゃけるといわゆる<禁じ手>のコレを使って樹木草原有象無象、まとめて処理は出来たのだ。
お試し労働の結果を受け「あー、成長するには経験値が少なすぎるー」とばかりに尊い運動とやらを破棄した訳で。
ぺっ無駄な手間取らせやがって。
そんなこんなで、ウゾウゾと塔を丸齧るが如き粘体の大きさ、不気味さを周囲に見られぬよう、深夜密かにこうして一人<塔>清掃を決行しているわけであった。
見たら一般人がトラウマ持っちゃうしね・・・。
安心の新月クオリティ、真っ暗でスライムの肌センサー大活躍。
むしろ闇が身になじむ、実によくなじむぞ!
しかしながら体スライムでも中身人間な自分であるので。
お、おばけがでたらどうしようー、きゃーこわーい。(超棒読みで)
むしろお化けが逃げて行く様がありありと浮かぶ。
ふっへっへっへ、幽霊のお嬢ちゃん、霊体だからって安心したがウヌの不運よーぐへへへー、いけローパー、君に決めた! ローパー、触手攻撃だ! 効果は抜群だ らめぇぇぇぇぇ・・・。
大人のポケットモンスターと来たもんだーふーはははー。
おおっといけねぇ、ついトリップして粘体人形劇しちまったぜ18禁のな!
・・・あれ、おかしいな。
今日は酒飲んでないのにテンションが変、だぞ?
体が熱く、頭がおかしいっ。(「いつものことじゃない?」と、脳内の皆にツッコまれた気がしたが自分は元気です)
そのくせ、やけに意識が鮮明になってくる・・・こ、これはっまさかっ!?
ついに自分に隠された未知の力が開眼した挙句に世界を縮めてしまうのかひゃっはー、この爺札束なんてもってやがるぜー。
・・・その時は気付かなかったのだが、後に樹や草と一緒にイケナイ葉っぱとかも取り込んで消化してた事が発覚。
危うくラリラリになったまま宿に戻って「未成年者の教育に悪いので薬中死すべし」と粛清の憂き目にあうところであったわ・・・。
朝の目覚めは健やかに~、おはようっ!
ぐるっと一回り<塔>の外壁掃除が終わったのが深夜1時くらいだったか。
飛んで宿へ戻って、ノソノソと水飲みに起きてきたエリスに遭遇。
お土産と称して木刀を手渡し(スライム流水分絞り及び粘体削出技法による逸品、<せかいじゅ>の酸焼印入り)、自室ベッドにダイビーンZzz。
パチッと目を開けると、もう朝だった。
どこからかパンを焼く香ばしい香りがしてくる。
しかしながら・・・あー、そろそろ米が、コメが食べたい。
悲しいかな、現在稲の存在は確認できておりません。
F○CK OFF。
ブック○フと似ているね?
くそっ、くそっ、買い叩きやがってあの糞店めがっ。
「ホント外道めFU○K OFF~ っときたもんだー」
ブックオ○のテーマに乗せて世界への呪詛を垂れ流す。
あれ、さわやかな目覚めが自分の毒で穢れた・・・ぞ・・・?
まあいい、いつものことだ、と、いろいろ棚上げして。
自分は適当に顔を洗うと、食堂に向い。
ガッツリとパンを貪る事にした。
焼きたてだと美味しいねっ。
もしゃもしゃと小麦の味を堪能。
おや、食べるのに夢中で気にもしてなかったけど、食堂の客が自分一人ってどういうことざんしょ?
「お客さんのツレは三人揃って散歩に行ったきりだよー」
宿の女将さんに聞いてみたら、そんなつれないお返事。
そうか、残ってたのが自分だけだったか。
散歩ってことは、そのうち帰ってくるか・・・等と考えつつ、のんびり窓越しに外を眺めていると。
視界を横切る、高速の人影。
何か切迫した案件でも抱えてるのだろうか、厳しい顔色のエイジであった。
ああ、急いでいても<飛行>での低空滑空は危ないからしちゃダメだぞ?
「同士っ、大変だ! <塔>がっ」
「外壁清掃なら自分の仕業です」
「なん・・・だと・・・」
緊急要件っぽい空気を即時破壊してみる。
ぃよし、良い反応だ。
実にいい反応だ。
夜中密かにボッチで作業した苦労が報われた。
あと、おはようございます。
「ああ、おはよう。 いつの間にあんな綺麗にしたんだい・・・」
コツコツ空飛んで剪定作業とかするんだろうなと楽しみにしてたのに、なんて言いだすエイジ。
ああ、それはすまなかったね。
御馳走様でした。
その、なんだ。
実は黙っていたんだが。
その気になれば、さほど労せずして空中庭園とか範囲剪定できるんだ、てへぺろ!
かくかくしかじかー、と、自分の<禁じ手>及び外の人成長の可能性追求を兼ねて昨日の労働したんだー、とネタばらし。
「いろいろ言いたいこともあるけど。 ひとまず作業が絡む場合は、一言僕等に声かけるように」
それに一人であれこれ実験するんじゃ手が足りないだろう? とばかりに笑むエイジさん超イケメン。
素敵っ、ジオを適当にレイプしていいぞ!
「えい当身。 当身。 当身。 当身」
「げぇジオさんいつの間にそこにオウフオウフ、死んじゃう、死んじゃう!」
人目があるから瞬間的に部分スライム変身で誤魔化さざるを得ないっ。
そして的をランダムに散らされると全部への対処が間に合わぬ・・・そこまで計算してのジオの当身連射に自分悶絶。
「オウフ、とメリウは神官のねちっこい責め苦に悶絶するのであった・・・しかしその苦痛の中に輝く愉悦に気づき始める自分を発見し・・・グフフ」
「おいそこの粛女、脳内妄想小説が口から垂れ流しになってるぞひとまず正座、エイジそこらから岩拾ってきて岩」
「なん・・・だと・・・」(言いつつ律儀に正座するエリスさんマジ痴ロリン)
流れるような速度で「宿の前で正座して岩を抱き涙する少女」の完成である。
なにこの非日常系高速展開。
もうそろそろエリスったら正座で登場してもおかしくないね!
むしろそうしようか。
「それは勘弁して下されお代官様・・・エイジさん散らせていいですから」
「うん、ひとまず穴掘るから同士手伝ってくれる? 地獄まで空けばいいからさ・・・この腐念ブツ廃棄するのに」
ついにエイジにも見捨てられた・・・?
馬鹿な、仏のエイジすらついに。
繰り返しネタが過ぎて我慢しきれなくなったか! やっぱりな!(わかってたら止め・・・ても駄目だったんだし、もういいよね!)
流石のエリスも「掘るの手伝って・・・二人がかりで掘る、だなんて、いやらしいっ↑」とは言い出せぬ空気である。
すげぇ、痴ロリンに自重させるとは。
いっそエイジにこのままでいてもらって・・・自分含め周囲の胃がもたないな、そうなると。
「そろそろ、隠すという言葉の意味がフルオープンと同義になってきてますからなぁ」
ジオの呟きを耳が拾うか否かのタイミングで、無言でスコップ差し出してきたエイジ。
目が怖すぎて真直ぐに見れない。
エイジの負の想念が自分に矛先を向けぬよう、こちらも無言でスコップを受け取ると。
「落ち着くんだ同士エイジ」
ひとまず目の据わった同士を諭しにかかる。
間違っても、目は合わせない。
見たら死ぬってレベル。
象の足か貴様。
すわ、擁護してくれるのメリッさんだけよ! と、正座オブジェのエリスが妄言を口走っている。
この流れでどうして擁護されると思っているのかが謎である。
そろそろ、懲りておくべきだと思うんだ・・・腐趣味は秘めてこそ、という程度には。
「場所を変えよう。 村の中で大穴あけるわけにはいかない」
「ちょ、ま、メリッさん襟首つかまないでくだしあ~」
こうして結構セメントな死体遺棄的雰囲気の元に行われた第38回痴ロリンに反省を促そう大会は、その後ツメ甘くエイジが仏心出したところでエリスが調子に乗ってしまったため御破算に。
くそ、今度こそは最低限外に腐臭を漏らすことを辞めさせられると思ったのにっ。
「痴ロリン、復唱せよ。 <口走らない・表情に出さない・同好者を増やさない>」
「口走らない。 表情に出さない。 同好者を増やさない。 全部ウソだ」
「嘘つかない」
「スイマセン」
いかん、普通に遊んでしまう。
基本面白い子だから始末に負えない。
ノリがいい人材って貴重ですよね?
「口走らない。 表情に出さない。 同好者を増やさない」
キリッとした表情で復唱する正座オブジェ痴ロリン。
ふむ、今回はこんなもので良しとするか。
「あの、なんで僕まで正座なんでしょうか」
「ダダ甘の先生は反省してください」
「スイマセン」
ふむ、今回はこんなものだね?
「思わずウチも正座してしまいましたが」
「しらんがな」
ふむ、今回もスルー。
「ちょ、ウチだけ対応厳しくないですか?」
「やだなぁ、いつものことじゃない~こやつめ、ははは」
「ハハハ。 鬱だ死のう」
「イキロ?」
「何故疑問形かな?」
テンプレテンプレ。
そんなこんなで現在真昼間。
ジオとエリスは「園芸に興味ないんで」とばかりに肉体労働から逃げ出した。
きっとそこらへんで葉っぱでも噛んで卑猥な言葉でも羅列してるんだろういいなぁ楽しそうだなぁ。
今度幻影で連中に化けて下半身だけ露出徘徊とかしてやろうかしら?
「そんな妄想をしながらお送りいたします、空中庭園の現状シリーズ。 第二回です」
図面片手に並木の剪定に、忙しく斬馬刀を振るう自分。
すっかり剪定バサミになっちゃって、哀れな刀だ。(犯人、談)
長くて便利だった、別に動物を斬らなければいけないわけでもなかった、今は反省していぬ。
メリウは反省していませんでした。
「メリっさん、なにラリってんの?」
いけない麻とかは纏めておいてね、焼くのもダメだし地中に飛ばしちゃうから~とか言いつつ、涼しい顔で間伐を行っているエイジ。
案外大味にザクザク行ってる所を見ると、彼の脳内設計図ではそこら辺更地にしてから再造園なのやもしれぬ。
あと、自分は正気です。
いけない葉っぱは深夜にゲフゲフ。
ひとまずは大急ぎで仕上げなければならないわけでもない作業のためのんびり楽しもうと決定し、結局手作業にて空中庭園を再造園する事となり。
生産系の心得アリな二人が暇を持て余して作業する流れとなりました。
<塔>を巨大な幹に見立てた<世界樹>盆栽のいじり始め~。
ふぅむー、中心大樹が葉を横へ広げるタイプでよかったねぇ。
杉系の樹だったら<世界樹>と言うより<槍>になってたかねぇ、などと談笑する。
ただ今、休憩の茶を飲みながらエイジとああでもないこうでもないと盆栽剪定会議中。
大まかな雑木・雑草整理を半日で終え、造園計画は下準備完了という所。
あとは盆栽主役の大樹剪定、枝ぶり矯正、接木等の計画やら、大樹を中心とする空中庭園自体の再配置、設計関係をコツコツやっていく方向で調整が進む。
うん、完成が楽しみだ。
「まぁ、植物相手で何年かかるか分からない長期計画になっちゃうけどねぇ」
普通の盆栽だって100年スパンだったりするしねぇ、とエイジと苦笑いを交換。
こういう時にも、不意に帰れないという現実が襲ってきて嫌だねぇ。
「ふーむ。 幾らか<塔>整備しなおしたら、他の国とか回ってみるのも考えないと」
そもそも、ここ周辺ってどんな政治宗教国家の柵内なんだろねー。
「うーん、そこらへんは難しい問題だよね」
そもそも大概交流とかあるのかな、この国って、と、エイジも首をかしげたり。
しまったなぁ、仲間回収の事くらいしか考えてなくてそこらのことを詳しく聞いてないなぁ。
一段落したら、一度首都行きますかいのぅ?
盆栽の日々は、それからしばし続いた。