再来そこはジャングルで
今朝は深夜の深酒やった割に、爽快な目覚めで。
村から<世界樹>周りの散歩途中、思う所あって木刀取り出し色々訓練をしていたところに、自分同様に木刀かついたエイジが申し合わせたように合流。
「やあ、おはよう」「おはにゅー」と、朝の挨拶だけ交わして、瞬間的に鍔迫り合いに移行。
結構ガチで模擬戦をする格好になった。
・・・同時に一歩前へ出たあたり、目と目が合う瞬間、好き・・・じゃなくてお互いの興が乗ったのを感じたと言う事だろうか。
自分とエイジの剣術は同レベル。
身体能力(外の人的な、だが)も大差なく、模擬戦というより型でも演じているような感じになってしまった。
お互い本気で打ち込めば木刀程度は当たった部分はおろか握った部分からへし折れる。
更に言うなら、打ち込まれれば、人一人くらいは、死ぬかもしれぬ。
故に模擬戦の様相は、当てずを旨とする寸止め合戦。
ゲームと違い、システム的に同じ攻撃モーションというわけで無しの(やろうと思えばやれる辺りが恐ろしい・・・外の人、怖い子ッ)変幻自在な攻防が繰り広げられ。
続けること三十分程か。
止め、止められを繰り返し・・・互いが同時に動きも止めた。
「「やりすぎた・・・」」
両名汗だく、昨夜のアルコールも一気に体外に流れでたのでは、という有様で。
さわやかな疲れが体に残るが、流石に凄まじい汗とアルコール臭に辟易し<洗濯>魔法を使わざるを得なかった。
その後は競うように村へと駆け戻ると、大人げなく魔法火力で湯を沸かし今ダーイビーン「体洗ってからな?」「はいスイマセン」。
一風呂浴びて宿に戻れば、もう朝食時間。
たまには人の作った飯を食べるのもいいもので。
・・・エリスとジオは部屋に引きこもって出てこないところを見ると、酔いつぶれて未だ夢の中、か。
ひとまず村を離れていた間にここを訪れた<仲間>は居ないようで、少し残念。
「じゃ、今日から何しようか?」
堅焼きのパンをスープに浸して食べつつ聞いてきたエイジの言葉に、自分は<世界樹>・・・<塔>の探検を提案し。
エイジと二人、<世界樹>と呼ばれるような有様になった<塔>を見て回ることとなった。
流石に訪問二度目な自分は「ああ戻ってきたな」位にしか感慨はなかったが、エイジはやはり、こみ上げるものもあるらしく。
「うわぁ、こんなになっちゃったのか」
入り口近くは<魔族>さん達が整理したのか、ある程度の居住域確保がなされていたが、少し奥まったエリアは草やら木やらの生い茂るジャングルもじゃもじゃ状態である・・・何この緑の壁。
ヤケクソ気味に、ヤシの木一本玉二つ~Oh、等と歌いながら歩いてたら無言でエイジに叩かれた。
最近皆のツッコミが(ゲームしてた時のように)暴行になってる気もするけど、スライムガード(瞬間的に突っ込まれる部位のみをスライム化。 冗談で「部分的<変身>とか出来ないかなぁ」とかやってたら・・・デキちゃった♡」)を会得した自分に隙はなかった。
生身との境目部分とかスライム部分に溶かされるかとも思ったけどそんなこともなかったぜ!
なので上半身スライム化して「トゥットゥル~、ゲルメリウ~」とかやったら、エイジが「シュタゲのトラウマ抉るな」と泣いたのもいい思い出・・・トラウマ多すぎないか同士?
あとどうでもいいけどゲルメリウってゲルマニウムみたいな語感でカッコいい。
ゲルメリウラジオ、セクハラトーク垂れ流す素敵放送。
「結構衝撃映像でしょ? 侍のギルド家屋なんてもう侘び寂びの世界だったよ」
建て直すこととか考えるなら、焼くのはNGだし面倒だなー。
<塔>って、実は空気の流れとか設計段階以前で考えられているので、延焼とか換気不足で起こる諸症状の心配は低い設計だそうだが・・・設計者集団素敵っ、何がそこまで彼らを駆り立てた‥‥‥?
そんな思考がスキップしていた自分に、そうかー、とだけ答えて空・・・というか<塔>の天井を仰ぎ見るエイジ。
ああ、ちなみにエリスは空中庭園で拾ったんよ~、と、行き倒れ状態の痴ロリン拾った時の詳細を話しつつ。
自分とエイジは、<塔>全ての道を踏破すべく歩き回った。
道すがら壁や床の強度を確認しつつ進む。
自分が建てた石の家は破壊されたように土台程度しか残っていなかったのに比べ、こちらは流石<塔>である。
採光、空調窓周辺のヒビなどはいくらか見つかったものの、根幹構造に歪みなく。
「流石自由な石工同業者組合製・・・推定千年程度じゃなんともないぜ!」
石と石の隙間に植物の根が侵入できないほど緻密に組上げられた床や壁、天井を讃えつつ。
コツコツ半日かけて歩いた<塔>内部探検、いよいよ空中庭園に到着。
「見る影もない・・・・」
空中庭園造園の際、かなり力入れて随所を作っていたエイジが膝をついて絶望した。
<世界樹>内部とはまた格の違う緑の壁、壁、壁。
だがエイジ、逆に考えるんだ。
また庭園作成作業できると考えるんだ・・・。
・・・まさか下に人住んでるのに、焼き払う訳にもいくまいて。
だがあえて言わせていただこうか。
傷は深いぞ、ガッカリしろ。
自分はorzとなっているエイジを引っ掴んで立たせ。
「じゃ、ちょっと大きいけれど。 盆栽遊び、しようか」
拾ったはいいが結局使ったことのない刀身二メートルほどの斬馬刀を懐の袋からズルリズルリと引き出しつつ、エイジの尻を蹴っ飛ばした。
いつまでガッカリしてやがる、さぁ喜べ! 難易度の高い創作活動だぞぅ! あとアヒンと泣け!
「あ、貧」
「エリスに謝れ!」
ツッコミ一つ、胸に当たるときに「ペタン」。
「板っ」
「「失礼しましたー」」
・・・ここまで、テンプレ。
大雑把に庭園に張り巡らされた道を、木々や草藪から掘り出す作業に興じて、はや数時間。
自分左回り、エイジ右回りで外周から始めたこの作業も、ようやく中心点の元・大樹広場へと至ろうとしていた。
こっちに来てから、なんか真っ当に体使って働いてる気がするなぁ。
実に清々しい。
あと外の人最高。
これが鍛え上げた人間(というには、あまりにも・・・だが)の体かっ。
体を動かした疲労はあれど、さほど後引くものはなかろう、という程度の疲れ方である。
逆説的に、これだけの作業しても筋肉痛一つおきないということで。
「外の人鍛えるのって、どうしたらいいんだろなぁ」
そもそも、育つのか、これ?
朝の訓練では育った手応えはなかった。
まだ仮説を立てるのは早いかもしれないが、あえて口にする。
「成長、しないのかな」
だとしたら、ちょっと残念である。
まぁ、元々成長しにくいゲームだったし結論じゃなかろう、と楽観し。
自分は道埋める森を、バッサバッサと薙ぎ払うのを再開した。
元、広場中央。
育ちに育った中央樹の根が蛸足じみて暴れまわったかの様相を呈し。
なんというか、まぁ酷い。
これ、どうにかなるんだろうか、と、早くも諦めたくなってきたりもするので、自分は大木に背を向け現実逃避の構え。
ひとまずお先に目的地到着の自分は、休憩準備を整えてみたり。
気取ってイスとテーブル用意しようとも一瞬思ったけど、寝転がったりしたかったためゴザを地面に敷く。
靴を脱いで座り込むこの快感。
座禅マンここに誕生、その姿勢のままゴロゴロとゴザ範囲を転がりまわって快楽を堪能する。
ひとしきり転がって力尽きグッタリしたころで、エイジも緑の壁を切り開いてこちらに合流。
うつぶせに寝転んで微動だにしない自分をサックリ無視して靴を脱ぎ、適当な位置に陣取ったエイジが荷袋から水筒を取り出して一口含む。
「働いた後飲む水の味って、甘いよね」
もう一口、と、杯を進めるエイジ。
あー、そこらは同意ー。
「自分も飲むかねー・・・うまー」
仰向けに寝がえりをうち、取り出した一升瓶に口を付けて、こう、きゅーっと。
水うめぇー。
水うめぇー。
「同士、それは酒だ」
そうか、酒かこれ。
道理で変わった味がする水だと思った。
酒うめぇー。
アルコール水うめぇー。
はぁはぁはぁ、も、もっと飲まねばっ。
依存性はないのよ! 依存性はないのよ!
「メリウは依存していました・・・って、鳩ヨメとか懐かしいものを」
くぴくぴくぴぴー。
くはぁー、労働の後のアルコール含有水分うめぇー。
ふへへへ、なんか色々とどうでも良くなってきたぞぅー。
ちょ、ちょっと自分、全裸徘徊してくるであります!
うひょー、盛 り 上 が っ て き た ぁ ー !
酒、勢い、愉快じゃのう、三カチンいただきましたのでー 解き、放つ! トキハナーツ(裏声)
「えい、当身」
おうふ。
首筋にエイジの愛刀<閻魔>の峰打ちによる衝撃を受け。
自分はゴトッと、意識を失った。
案外サクッと意識落ちるんだねぇ、なんて暢気に思う暇すらありゃしない・・・。
抜かれても抜かれても生えてくる舌。
閻魔様に「アナタって最低のクズだわっ」と罵られながら舌を抜かれ続ける。
しかしながら部位変身スライム舌を駆使した自分に隙はない。
抜かれた端からいじらしく逃げてきて合流してくるスライム舌さん、超可愛い。
「ふへへへ、食べちゃいたいくらいカワイイっ、この、見ため緑のナメクジさんめっ♡」
そんなところで、夢から覚めた。
消える閻魔様、現れる空中庭園風景。
あれれ、どうした事だーとばかりに現状把握だ、輝け気配視覚。
・・・上半身起き上がらせた状態の自分と、その背中に膝当てつつ両手で肩を抑えているエイジの図、が、脳裏に描き出された。
どうやらエイジに膝活かけられて意識を戻したらしい・・・自分。
「おあよう、とーし」
ひとまず御挨拶。
おはよう同士、と言ったつもりが、あれれ不思議ね、口が回らず。
そして、何か鉄の味ゴクゴク、喉ごし最悪。
「おはよう、同士」
ナメクジ可愛いとか言って舌噛み千切りだしたんで慌てて意識蘇生させたんだが平気かい、と、手ぬぐい差し出してくる。
舌、噛み千切り?
おかしいなぁ、それって閻魔様の仕業であって自分の所業じゃないはず・・・ゴホッ、いかん、血が気管にっ。
メディック、メディーック・・・あ、自分衛生兵でした<回復>・・・やべ、裏表逆にくっつけてしまったズバァ!<白銀癒手>ムクムクムクー・・・。
「なんで同士はハッチャケるとグロい光景を作るのかな? かな?」
寝ぼけて舌噛み千切った奴が目覚めた直後に転がってる舌拾った挙句上下間違えてくっつけた後再び噛み千切って新しい舌を生やす、という光景を見せられたエイジが死んだ目をして首をかしげていた。
うん、その、ごめん。
状況説明聞いたとしても「何言ってんだお前?」としか思わないわその状況。
自分、即座に五体投地。
ごめんなさいー。
ごめんなさいー。
ごめんなさいー。
三度繰り返すと効果覿面。
「・・・まぁ、良いけど。 次にグロ光景やったら、エリス用の倍は濃密な説教コースなので心せよ」
「え、死ねって、こと?」
「次やったら死ね」
「こやつめ、ハハハ」
「ハハハ。 ・・・嘘と思うな?」
「本当にスイマセンでした」
なんだかんだでエイジに謝り倒す羽目となり。
本日の空中庭園清掃はここまでとなった。
<世界樹>を出る間際、入り口近くの<魔族>さん達に口元の血痕のせいですごい心配かけてしまったのが心苦しく。
どなたでも出来るお手軽マジック<洗濯>で、宴会芸でしたー、と不謹慎に収めるのもアレなので素直にお心遣いいただくことに。
ありがてぇ、ありがてぇ。
・・・おのれ、閻魔大王ぅ!
この恨み晴らさで置くべきか、と自分は奴に復讐を誓っ「夢に八つ当たりするな?」「ゴメンナサイ」。
「でも、なんで<黒粘体>かかってたのに舌噛み千切れたんだろうね?」
「同士の歯に何か永久化された魔法かかってるんじゃないかな?」
「そんなまさか、ハハハ・・・あ。 昨日洒落で<研磨>かけてたかも」
無表情に殴り掛かってきたエイジの、瞬き一つせぬ死んだ目が超怖かった秋の夕暮。
自重って、そこらへんに落っこちてないものかなぁ、と思う自分であった。