急行そこは秋の空
焼き芋なんて何年食べてないだろうー。
いも天はよく食べるのですがな。
<世界樹前>村から、幾筋もの煙が上がっていた。
空を行く三人・・・自分、エイジ、ジオ・・・に緊張が走る。
ついノリで空中戦に興じてしまい、長時間エリスを愉快放置してしまった。
我に返って一緒に遊んでいた二人とともに首都付近に戻ってみもしたが、どうやら彼女は「地道に歩く」事を選択したらしく、姿が見えなかった。
てっきりヤサグれて道端の葉っぱ吸ってラリッてるかと思いきや。
うん、感心感心。
・・・と、エリスの成長ぶりを喜ぶのも程ほどに、<世界樹>へ向け飛ぶ三人組。
空行く彼らが、ようやく見えてきた村の姿に捉えた異変。
それが、村のそこここから空へと昇る、煙の群れだった。
多い。
片手では数え足りない本数である。(二進法で数える、とか言われたら数え切れるのだが)
「ここも襲撃受けてるのか!?」
エイジの緊迫した声の端が、遠ざかっていく。
即座に<飛行>をかけ直し(永久化する時の消耗を抑えるため、普段使いの魔法は威力抑えめが基本)、幾分速度を上げたのだろう。
自分もそれに倣い、速度を二回り上げる。
<瞬間移動>しても良かったが、村人と合体した愉快キメラ誕生などもありうるので自重。
なぁに、ものの数秒差さ。
「・・・黒・・・さそうですけどね・・・」
何かを呟いたジオの声が聞こえた気もしたが。
自分たち二人は、我先にと<世界樹前>へ急ぐ。
どうか人死に出てませんように!
焼かれていた。
村人たちや、<世界樹>にいるはずの<魔族>さんたち。
彼らが肩を並べて見守る、目の前で。
焚き火が、ぱちぱちと、燃えていた。
その周囲、村人たちの手には、小金色に輝く断面から湯気たなびかせる・・・サツマイモ。
大人も子供も和気藹々と芋を頬張るその光景が、やけにスローモーションに流れて行き。
自分は目前に迫った地面へまっしぐら。
着地体制を取るのも放棄して叫んでいた。
「焼き芋かああああぁぁぁぁぁぁ・・・・」
ぷにょん、ごろごろごろごろずしゃぁぁぁざりざりざりざりー、と。
ツッコミ姿勢で地面を転がる自分がいる。
こ、今度は<黒粘体>使ってるから死にはしないんだぜ・・・自分に削られて地面が酷い有様に耕されたけれど。
周囲から、なんだ!? 何か落ちた! と、騒ぎが聞こえてくる。
自分は、何事もなかったように立ち上がると埃を叩く仕草で。
「んん、何かあったのかね諸君?」
空っとぼけてみる事にする。
ジェントリーは慌てない。
超目立ってるけど。
「いや・・・・お前さんが落っこちたから・・・」
冷静に突っ込んでくるのは、こちらに視線が集まったのを利用して皆の死角に着地して歩いてきたエイジだった。
畜生、空から登場のインパクトで目立つの怖がってヒヨりやがったな。
若干顔色が白い気もするけど・・・あ、ゴメン、もう血の池にはならない予定なので許して下さい。
「ナニナニ、隕石? って、なあんだ。 みんな遅かったね。 徒歩の私に負けてやんの~ m9(^Д^)プギャー」
謎の落下物騒ぎで集まってきた村人たちを掻い潜ってやってきたのは、棒に刺した焼き芋を左右の手に持って悪魔神官ごっこしている様子のエリスであった。
おお、痴ロリンこそ早かったね、頑張ったえらいぞーぅ。
ってか、自分らどんだけ長いこと空で遊んでたんだよって話でもあるが。
自分はイイ笑顔で、ワシワシとエリスの頭を撫で付ける。
「ちょ、両手がふさがっているときに頭をなでに来るとかなんという卑怯者っ」
たまに素直に照れるエリスちん、超かわいい。(挨拶)
末っ子だったから妹とか弟に憧れたんだよなぁ、自分。
「あんまりエリスで遊んでやるな・・・でも、よく頑張ったね」
偉いぞーと、自分に続きエイジにも頭を撫でに来られて、エリス狼狽。
「ぬ、ぬぅ、解せぬ。 あと一人いたらジェットストリーム撫で撫でされてしまうではないか何だこの素敵空間は・・・はっ! 何者かのスタンド攻撃の可能性がある!?」
一息に混乱を口から出すエリス。
不憫な・・・褒められ慣れてないのが特に。
エイジと二人、流れてもいない涙をぬぐう。
「「今日くらいは優しく接してあげよう」」
保護者コンビ、生暖かい視線でエリスを見るの図。
「いつも優しくすれー! これでも品行方正可憐なレディなんですからねっ」
「「嘘言うな」」
「ごめんなさい」
エリスさんはいつも正座。
村の中で<魔族>なテトラさん発見。
おひさしゅう。
って、あれれ、無表情?
顔忘れられちゃったかなー・・・ごふぅ、いきなりハグられるとはっ!?
<しばらくお待ち下さい>
ようやくテトラさんのベアハッグから解放され一息つく自分。
エイジと、いつのまにやらやってきて「黒煙でないし平気では、と言ったでしょうに」なんて呆れ顔のジオを並べて紹介。
おお、お仲間が見つかったようで・・・おめでとうございます、と、我が事のように喜んでくれるテトラさんに癒されたりもする。
「だがそこのスケブ描き込んでる粛女? 貴様は正座」
「ふひっ!?」
もはや条件反射的に正座するエリス。
そしてその体勢になってもまだ絵を描いている根性は評価しよう・・・どうやらテトラさんにベアハッグされた自分が受けらしいハハハッ、死ねばいいのに。
「まぁまぁ、そこらへんでいつものじゃれ合いは片つけるとして。 さっさと宿でもとってのんびりしませんか?」
ここのところ働きっぱなしでしたし、いい加減骨休みしましょう、と。
首都の工事期間中、一手に怪我人病人御老人の相手をしていたジオの言葉に異論もなく。
・・・何故か、村人及び<世界樹>在住の皆さんを(結果的に)巻き込んでの宴会が、始まってしまった。
おいぃ、のんびりするとか言ってた当人が騒ぎ広げてんじゃねぇよ・・・まぁいいんだけどさ酒とかは飲みきれんほど作ってあるしね。
なんでも、最初は村側に秘密だった<世界樹>在住者の存在もあっさりとバレてしまったそうで。
<魔族>の子供が、道に迷った末に出会った村の子供と意気投合して遊び回るようになったのが交流の始まりらしく。
「ちょいと話してみれば、噂なんてアテにならんというのを実感したわな」という、鍛冶屋の親方の笑顔が好印象だった。
「子供が行方知れずってことで血相変えてテトラの旦那が村に乗り込んできてなぁ。 あの時はそりゃぁ大騒ぎだったんだが」当の子供は、新しく出来た友達の家で芋の皮むき手伝ってんの見つかって、血相変えてた大人どもがお互い顔見合わせて大笑いでな、と、きっちりオチもつけてくれた。
「伝聞による差別」があっさりと「実際」に敗北したのは、幸運にもこの村の住人たちが素朴で善良だったおかげであろうか。
ありがたいことである。
とても、有り難い事、である。
結果オーライだけど。
ひとまずは、胸をなでおろす。
飲み、食い、騒ぎ疲れて床に向かう友人知人に手を振って、自分は一人、月見酒。
ほろ酔い気分も良いもので、量だけはある失敗作の安酒片手に鼻歌交じりの夜を嗜む。
「ああ、酒が美味いなぁ」
悪意のない場所の暖かさを肴に。
自分は<神話級>にも劣らぬ安酒を、きゅっと飲み干した。
さぁて。
しばらくのんびりしたら、ガッツリやるとしましょうか。
いろいろと、ね。