助太刀それはスタイリッシュ人体消失
息を切らせて「ようやく見つけた・・・っ」と呻くモノさんとノナさん二人に「ちょっと仲間回収しに行ってきます」、と告げて即時離脱を果たした自分達。
微かに「「ちょっ」」という脱力した声と、その場に倒れ込むような音がしたような気がしなくもないけどきっと気のせい。
結果的に町単位で腹一杯になったから明日からきっと頑張れるよ、ふぁいと。
そんなことを考えつつ、エリスを背負って空を舞う。
並んで飛ぶジオの指示にて、先を急ぐ。
侍組サブリーダーにして、やや魔法使い寄りのオールラウンダー。
剣術馬鹿のリーダーのツレにして、一番胃の痛い役回りの人。
そして外面常識人に見せかけた、エロゲーマー。
同士エイジの元へ、今現在フルスロットルで飛行中。
「彼に遭遇したのは、ウチが二つ目に立ち寄った町・・・と言うか村で、でして」
何故最初にそれを言わない、とばかりに自分とエリスに地獄突きにてツッコミを食らったジオが咳き込みながら話したところによると。
エイジは現在、その村を守っているそうで。
平地で見通しの良い<世界樹前>などと違い、山沿いに位置するその村は昔から魔物の巣窟である山方面からのゲリラ的な魔物襲来に晒されているらしく。
「村の周囲を堅牢な壁で囲み、村人の中から何人かを選んで訓練して歩哨に立たせ、エイジ自身が単騎外周掃除、というのを繰り返しているようですね」
すっかりその村の防衛隊長っぽくなってましたねぇ、と締めくくるジオ。
「うわぁ、それに至る経緯が見えるようで怖いわ」
通りがかって村のヤバい状況を救って、このまま捨て置けるか、とばかりに持てる力を遺憾無く発揮したんだろうなぁ、と、自分の脳内でエイジが壁作ったり訓練したり悪い子いねがァ、と魔物狩りする様がやけにリアルに再生される。
「なんてエイジさんらしい・・・」
面倒見が良すぎるんですよねウチのサブリーダー、と、ちょいと嬉しそうに言うエリス。
ははは、この義理父的ファザコンめが。
あと、一番面倒かけてる貴様が言うなというセリフでもある。
「その村には夜中に到着して、気配消して状況調べているときに彼とバッタリ会いまして」
そこへ直れ魔物・・・あれ、ジオさん?・・・いや、幻覚か、チネェ! ちょ、ま、おま、本物! ・・・と言う流れで。
「チッ。 それは災難だったねぇ、二人の潰し合いにならなくて何より」
にこやかに胸をなでおろす自分。
「力一杯舌打ちしましたね今?」
ははは、こやつめ。
ははは。
がるるるっ!
「何でこの人達はすぐに空気を殺伐とさせるのだろう・・・」
エリスが、いまさら一般人のようなセリフを吐いた。
腐り姫の分際で。
あ、ゲームの方は地味に名作。
変なプレミアついてたけど、今はどうなってるのかなー。
「で、ジオはサクっとその村単位で癒してこっちに戻ってきた。 エイジは村が落ち着くまで、とその場に残った、ってことでいいのかな」
言う自分の言葉に、頷くジオ。
「ええ。 で、ウチもこの国周囲だけ怪我人病人見回ったらあっちに合流して、出来れば魔物根絶くらいまでは持っていく心づもりでした」
戦力が増えたので、案外夢物語でもなくなって来ましたねぇ、と笑うジオ。
「ふむ、でもエイジだって単騎で結構な使い手のはずだけど・・・その村近くの山って、そんなヤバイの?」
あー、でもそんなだったらとっくに滅びてるよなぁ、という自分に、
「正直、ウチらにとってはどうということのない連中なのですが、単に数が尋常でないらしく」
村人を引きこもらせて偵察に行ったエイジ曰く、山向こうに数千を超える魔物の集団が暮らす集落があるらしく。
「普段」村周りに出没するのは、その集落からドロップアウトしてきたハグレの連中のようだ、ということ。
「案外キツイ山を超えてやってくる落ちこぼれ共、か。 その道すがら疲弊してたお陰で今まで何とかやってこれてた、という感じなのかー」
そんなのが平時なのに「エイジが守らなければならない」と言うことはつまり状況が変化した、と見るべきか。
「ええ、山向こうの連中が、こちらの国に興味を持って侵攻してきている、ということですね」
ハグレ者の逃避でなく、意思を持った集団の行動。
集団行動が出来るのなら、幾許かの同族意識やら強力なリーダーやらが存在してしかるべき。
うわぁ超面倒。
「そう言えば最近魔物増えてきてるとか聞いたっけ・・・」
モノさん辺りが言ってた気もする。
ってことは、侵攻ルートが複数存在するとかも考慮しないとダメか。
「あとは、別の群れが流入してきている、とかですかねぇ」
考えられるとするなら、と、ジオが心底嫌そうに言葉を吐き出した。
「しかし不幸中の幸いか、それなりに戦闘力高いメンツしかこっちに来てない気がするね」
人知れず純生産職さん達が死んでいたりする可能性とかは考えたくないので口に出さなかった。
<塔>のフリーメ○ソン連中だったら自慢の謎技術で20匹程度の小鬼さんは平らにすると思われるけど。
そんな心情が漏れでたか、ジオが苦笑しながら言ってくる。
「あー・・・でも陶芸のお姉さんとか、貧弱瀬戸物アタックー、とか言って陶器破片でブラックジャック作ってオーガとか血まみれにしてた記憶しかないですなぁ」
何それ初耳。
ってかあの人地味にウチの格闘家より筋力あった気も。
重いからなぁ、粘土とか。
地味に重労働だしなぁ、窯出しとか・・・。
うわぁ。
「・・・なんというか、別に私達が心配するような事もないと思いまーす」
エリスの声が呑気に答えを出した。
ヤバかったら逃げる位の事はするだろうし、杞憂というものかねぇ。
ああ、空が落ちてきたらどうしようっ! 引きこもるっ!
・・・どう考えても小学生の言い訳だなぁ、故事。
そんなこんなとダベりながら先を急いでいた、数分後。
自分達は、眼下に広がる黒い大地に散らばる息絶えた魔物の新鮮な遺骸を発見した。
村に向かって真っすぐ飛んだにも関わらず、自分達がやってきた方向からの進軍を想定させる迎え撃たれかたをしている。
「挟撃、ですかな」
もしくはコレが囮で、別働隊が村を襲っているパターンですかね、とジオが冷静に脳内戦況を組み立てる。
「うわぁ、やっぱりそうみえるかー。 まだ焼き討ちとかはされてなさそうなのが救いか・・・」
村の方角の空を見る。
雲ひとつない空だ。
無論、地面から湧く胸糞悪い黒煙とかも無いようだ。
そしてこの場にエイジがいないということは。
「急ぎましょう、予想外に頭が切れる魔物達のようです」
少なくとも初歩的な策を弄して来る程度には、と、ジオ。
それに頷く自分。
「はいよーシルバー、ごーなへー」
運ばれているエリスが、上機嫌に刀を抜いて行く先を指し示した。
はいはい、ではさっさと行くといたしましょうねー。
エイジが築いた堅牢な壁は、辛うじて魔物たちの攻撃を凌いでいた。
しかしこのままでは村内部まで侵攻されるのも時間の問題か。
空から見た限り、エイジの孤軍奮闘虚しく村は完全に包囲されているようだった。
いかに強力な個人であっても、所詮は点。
線や面での攻撃は防げない。
そして一番まずいのは、エイジの持つ広範囲魔法の射程内にすっぽりと村が収まってしまうという状況。
もしくは単純にMPが尽きているのかもしれない。
状況的に、かなりエイジは焦っているだろうことは想像に難くない。
「お待ちどうさま、同士」
ひとまず第一弾攻撃として、サポート爆弾を投入することとする。
地面までの高度10m弱の所まで降下すると。
自分は躊躇なく背負った荷物を投下。
よろしくお願いします、先生。
「どーれー。 うわ、ちょっと高過ぎじゃないですかこれ怖ァー」
驚く魔物たちとエイジをよそに腕組みした姿勢で地面に降り立ったエリス。
おお、足のバネだけで着地衝撃を逃したぞあの粛女痴ロリン、スゲェ。
流石腐っても、腐ってても、どうしようもなく腐ってても!
「腐ってる連呼しないでイイから早く周り何とかすれー!」
アアアアアッーーー! と気合一閃ほとばしる秘奥義<雲切りの太刀>で周囲の魔物を横薙ぎにしたエリスが叫ぶ。
はいはい、では同士にチクるのは後にまわすとします。
「んじゃ、自分はあっちもらうね」
ひとまず山方向を掃除しながら・・・逆侵攻してくるわ。
「では、ウチは村周りを」
壁を結界で保護してから・・・ちょっと均してきますか。
こつん、と拳を打ち合わせて。
いつものメンツ所属の二人が、出撃。
その結果は、語るまでもなし。
「ただいまー、あー疲れたー!」
結局山超えて掃除してきちゃったテヘペロっ。
アレへの変身と<報復>結界の併用が鬼過ぎて相手に同情しちゃった。
眼下の村周り掃除を終えていた三人に空から声をかける。
血なまぐさい風がやけに清々しく感じられ・・・ねぇよコレ、後で掃除してまわらねば。
「おかえりー、やけに遅かったけどどれだけやりたい放題してたのー?」
結構な返り血に体を染めたエリスがジオに洗濯魔法をかけてもらいつつ手を振ってきた。
・・・あー、詳しく言うとグロすぎて夢に見る、とだけ・・・ごにょごにょ。
えーなに聞こえないから降りてきてー、というエリスの声をうけ<飛行>を解いて自由落下。
高度エリスを捨て・・・落とし・・・げふふん、の、三倍程度。
無駄にクリクリと回転しつつ、迫る地面を感覚で捉え。
さぁ華麗に着地、という段で気がついた。
「あ、物理無効結界、解いてたんだっけ」
一つはエリスを背負ってる時に事故でボヨヨン、と弾いてしまわないため。
その後は、<報復>で確実に吸収ダメージを敵に返すために。
しかも中途半端に格好つけて回転したから、三半規管が狂ってたりもして。
やけにゆっくりと時間が流れた気がした。
変な角度で足裏をそれた着地が、地面をえぐり。
同様に砕けて赤い体液を撒き散らす自分の足先。
魔法を解いたときに「空を蹴った」のもマイナス要因で。
良い感じの勢いも、あった。
痛みは、来なかった。
だけど段階的に低くなる自分の身長と。
三人の固まった笑顔が段々空へと遠のいていくのが、やけに鮮明に感じられ。
「ああ、自分が地面にめり込んで行ってるだけか」
そんな言葉を吐いたつもりだったが。
その言葉を発することもなく頭の先まで自分の元体である赤に没し。
メリウこと自分は、友人三人の目の前で。
地面にぶつかって綺麗に血の池になるという人体消失マジックを披露することとなった。
有り体に言えば。
自分は、死んだ。