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強襲それは食料で

<世界樹>・・・<塔>の所有権とかくれないかなぁ、というムチャぶりへの返答を待つ一瞬が長く感じた。

そして、それがノナさんの口から発せられる前に足元から全身に伝わる、地響き。


「!? 地震?」

そそくさとテーブル下に避難するエリス。


「いや、構造上この世界には地震ないだろ」

地獄ならいざしらず、と呟きつつ表へと駆け出す。

地響きは定期的にやってくる。

そして、脚から伝わる振動が、どんどん大きくなっていた。

肌が告げる振動の元へ、目を向ける。

町を囲む柵の先、強大な肉の壁がまっすぐにこちらへと、向かってきていた。


「ああ、こんな感じになるんだ。 歩くだけでこの振動とか」

視覚情報だけで揺れてるのと、実際に脚やら肌やらから感じる振動の違いがこんなにも相手の巨大さを実感させてくれるとは。


「いったい何が・・・!?」

自分を追って食堂から駆け出してきたモノさんにノナさんが、ただ唖然とした。

あっれ、最近ココらへんには回って来てなかったのかね。

昔は月に二回は来てたと思うんだけどなぁ。


「懐かしいねメリっさん。 ベヒモスだねー」

おお、揺れる揺れる、とはしゃぎながら現れたエリスの手には、彼女の愛刀がある。

坊さんが居てくれたとしても、三人、かぁ。

ヤレなくもないか・・・最悪自分が・・・になればいいし・・・、と、打算的計算完了。


「モノさん、町の人達に避難指示ヨロシク。 行ってきまーす」

ヒャッホォゥ、肉だ肉だー、とハイテンションなエリスを引き連れて、懐かしのベヒモスめがけて。

突貫。




火に強い表皮をしているといっても、焼けないというわけではない。

<爆炎壁>を町前に展開し永久化。

三重に重ねた灼熱の壁に少なくない損傷を与えられて後退するベヒモス。

ひとまず、進路妨害程度にはなったか。


「まず足を止めないと。 先生、お願いします」

自分の先生コールに応え、どーぅれー、と、似合わぬ爪楊枝をくわえて半身立ちするエリス。

手には抜き身の愛刀<水神刀 蛟>。

<塔>トップグループの一角。

侍組の最年少剣士にして、最終<剣聖>。

その視線の先には巨獣ベヒモス、わずか二十数メートル先にあるビルのような足。


「秘奥 雲斬りの太刀」

両手で握った<水神刀>の刀身がエリスの意思に従い金属から水のごとく変化した。

水精剣化。

灰剣士の雷神剣同様に、魔法化する物理攻撃。

肩に担ぐように構えたその水剣が、気合と共に振り下ろされる。


「アッーーーーー!!!」

何度聞いても、その気合はどうよ? と突っ込まざるをえないが、なんとか我慢した。

ついネタを仕込んでしまう芸人気質には拍手を送りたい。


気合と共に振り下ろされた刀が、地面付近でピタリと止まる。

ベヒモスとの距離は変わらず。

傍からは只の素振りにしか見えぬそれは。


空を往く雲を断ち、地面までを一直線に裂き。

透明な水の飛沫を伴い飛んだ鎌鼬が、容赦なくベヒモスの右前足、後ろ足を縦に切り裂き、足の外側半分ほどを切り飛ばした。

最大射程距離2.4kmを誇るエリスの秘奥義(多重奥義の奥義化)。

文字通り、雲を斬り裂く太刀であった。


「流石剣聖殿、GJ」

仕事は終わった、とばかりにUターンしてきたエリスと<白銀癒手>ハイタッチを決めつつ労をねぎらう。


「今思ったけど、頭狙ってたらそのまま持っていけたのかな?」

上がった息が瞬時に整い、痛みに地面をのたうつベヒモスを観察するエリス。


「今切り落とした辺りは骨とかが絡みにくい部位だし切断武器と相性が良かっただけだと思う」

いかに奥義、いかに魔法化といえど。

技は武器の属性に依存する。

刃物は丸い硬度の高いモノに、やや弱い。

頭を狙っていたら、最悪弾かれてしまったやも知れぬ。


「そかー、難しいねぇ」

小さく舌を出しつつ、再び秘奥の構えをとるエリス。

逆側の足を削いで移動を禁じる腹づもりのようだ。

流石侍組の冷徹サブリーダーに仕込まれてただけはある、容赦無い。

すわ、自分もしかしてもう出番なくね?

足元から響く振動に違和感を感じつつ居たたまれなさを・・・何だこの振動?

今目の前で地面をのたうち回っているベヒモスの揺らす地面の振動・・・とは別のリズム。

震源は・・・後ろ・・・町、だと?


「エリス、あと頼んで、いいか」

爆炎壁越しに町を睨む自分に違和感を感じたのか、エリスも何かを探りだす気配。

そして、彼女の表情も硬くなった。


「任せて。 即トドメさしてソッチ行くから!」

頑張ってね、とサムズアップ、即時自分に背を向けてベヒモスを着実に切り取っていく。


「そっちも気をつけて。 もう秘奥義は使わないほうがいいよ」

一発で息上がっちゃうからね、と、一応の注意をしつつ。

自分は<飛行>魔法を解き放ち、宙を舞った。




まさかの、挟撃だったようだ。

組織だった行動では無く、ただ単に偶然が重なっただけなのだろうが。

エリスが戦闘中の場所から町をまっすぐ突っ切って反対側。

町敷地内への侵入を許し、ベヒモス二匹目・・・ベヒモスBと呼称する・・・が、足元を蹂躙していた。

ベヒモスBは、気の赴くまま歩いているだけ、なのであろうが。


「踏み潰されるアリ気分はいかがですかってか」

永久化した魔法を全開放しつつ、自分はベヒモス直上をまっすぐに上昇していた。

こまめに削っている隙がない。

このままでは十数分で町が終わる。

ならばどうする?


「こうする」

雲を突き抜け息苦しさを感じる場所から、一気に直下へ向けての急降下。

あの器用さお化け、こんなのをいつもいつも使ってやがったのかキチガイめ、と毒づきながら。

高高度からの加速つきスカイダイビング、スタート。

空気の壁が永久化された防御障壁に弾かれて割れるような音を連続させる。

ゲームでは影響を受けなかった、空気抵抗。

そしてさらに言うなら、このまま突貫したとしても当然のように自分も同等ダメージを受ける、ということ。

ゲーム物理の恩恵は、無かろう。


「信じてるぜぇ魔王産結界魔法っ」

皆に強制的に覚えさせたあの魔法。

ああよかった、強引に覚えさせといて。

機能さえしてくれるなら、これは間違いなく生命線になる。


愛刀を引きぬき、突きの構え。

空の槍ならぬ、空の刀。

迫り来る地表、どんどん大きくなる標的、燃える民家、逃げ惑う人々。

様々なものが視界に入り、一瞬で消えた。

そして着弾前の刹那、自分の目に写ったのは。


上空からの脅威に本能で気づき、思わず空を見上げたベヒモスBの。

嫌に澄んだ、大きな瞳の輝きだった。


ビヂッ。 




やりすぎた。

着弾直後、ベヒモスの頭から肩口あたりまでが粉々に吹っ飛んだのは確認した。

悪かったのがその後で。

勢い良くぶつかることだけ考えていたので、止まるという発想がなかった。

いや、一応止まるつもりはあったのだが、地味にベヒモスの肉なり内臓なりで止まるんじゃないかなぁ、という適当極まりない他力本願だったのがいけなかった。

対象を貫通破砕した挙句に、自分は地面に激突。

容赦無く地面にクレーターをこしらえて、20m程も埋まったのだろうか。

即時瞬間移動などで脱出すればまだ良かったのだろうが。

視野は真っ暗、慌てて上を仰ぎみれば。

首を失ったベヒモスの地が、滝のように降り注ぐ。

結界に阻まれて自分を取り囲むだけに留まる血の海だが、そうそうゆっくりもしていられない。

周りを血に囲まれれば呼吸すらおぼつかない可能性もある。

ああ、結界魔法バンザイ。

激突で粉になることも、血の海で溺れるハメに陥ることも回避できた自分は、即座に瞬間移動で直上100m程へと退避した。


一瞬の暗転の後、空に躍り出る自分。

眼下にベヒモスの死骸を見下ろしつつ、周囲は焼ける民家の地獄絵図。

先ほどまで逃げ惑っていた人々は騎士と思しき連中に誘導されて火の手のない大通りに集まっていた。

避難しそびれた人は、いないか?

焼けだされた範囲を飛び回るが、幸いにも猫の子一匹見つからなかった。

ホッと胸を撫で下ろしつつ再びある程度の高度まで飛ぶ。

そして使うは<雨乞>の魔法。

文字通りの雨を呼ぶ、まじないの如き低レベル魔法。

しかし低レベルと侮る無かれ。

威力さえ出してしまえば・・・・この通り。


沸き立つ叢雲、鳴り響く雷鳴。

数分後、土砂降りの雨が、降り注いだ。




「頑張って駆けつけたら濡れ鼠にされたとです・・・エリスです・・・」

天然のシャワーだね! とか言ったら殺されそうな目で睨まれたので五体投地で謝罪する羽目になり申した。

仕方なしに<洗濯>魔法にてドライクリーニング。

地味に血まみれだったけど、そんな近接戦になったの? と尋ねてみると。


「最後っ屁で、吐血されました・・・さっきまで三倍早く動けそうなカラーリングでした・・・」

災難、だったねぇ。

ホントホント、ってか、メリっさんなにレザードさんの真似してクレーター作ってんの? 馬鹿なの死ぬの? むしろ死んだかと思った! とかエリスとじゃれ合ってると。


「ありゃ、急いで来る必要はありませんでしたか」

メリウがベヒモスの死体の下敷きになったときは肝を冷やしましたよ、と、どこかとぼけた口調が、頭2つ分高い場所から下りてきた。

エリスと二人、その声が聞こえた方向に向き直る。

長身の男が、そこにいた。

身に纏った外套はかぎ裂きだらけで痛々しく、毒々しい血のシミがそこかしこに染み付き。

どこかの戦場から戻ったかのようなひどい格好であったが。


「ソッチも何してたかしらんけど、大変だったっぽいね」

見た感じ怪我もなさそうで、正直ホッとした。

コツン、と彼の胸板をノックしつつ。


「二人目、坊さんゲットだぜー」

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