昼食それは蒼白で
食事をとりつつ情報収集。
世間話と自分内常識の、すり合わせ。
自分とエリスの食欲に、顔色を青から白に変えて諦めに満ちた薄ら笑いを浮かべているモノさんをにこやかにスルーしつつ。
「自分達の言う<国>の意味・範囲と、あなた方のそれとに、こんな差があるとは」
モリモリと容赦なく15本目の鶏モモ焼きを胃に収めつつ独りごちる。
ああ、シンプルな塩味うまー。
塩ふって焼いただけでこの味ってのは素晴らしい。
と、シンプルな料理に舌鼓打ちつつ世間話なんかをした結果、彼らの言う<国>の範囲が、実に自分的認識の「市」に近いということが判明した。
都市国家、とか言えば聞こえはいいのかもしれないが単に人が少ないのだろう。
結果、集っても大した集団になりえず・・・という流れだろうか。
「僕達からすると、そんな大きな国があったという事のほうが驚きなのですが」
控えめにパンを摘むノナさんが、自分の語った「国」の規模に対して驚きと疑惑の声を上げる。
顔面蒼白のモノさんも、コクコクと頷いているが・・・。
あー、物資不足の折の豪勢な食事だものねぇ・・・高価いだろうなぁ、他人事だけど。
ゴチになりましたー。(過去形)
「私達の国は4つの町を治める大国、という感じなのですが。 それを全て併せてもメリウさん達の知る一都市の半分にも満たない、とは・・・」
驚きです、とモノさん。
先程から水を少し含んだ程度で食事は摂っていない。
「聞いた限りの人口だと、50人位が敵と戦っても大戦争扱いされそうですね」
きゅーっと口に頬張った肉野菜その他を水で流し込んだエリスがフォークをくるくる回しつつ茶々を入れる。
空いた皿の量は自分と同等、やるな痴ロリン。
伊達に欠食児童じゃない。
「ははは、大は付かないかもしれませんが確かに戦争の範疇になりますね」
騎士団員の半数が出張る事になりますからね、とモノさんが続けた。
「ふむ。 クーデターやら何やらで人同士が争える余裕があるってことは、魔物とかの数は少ないんですか?」
なんだかんだでここ一週間程度過ごしてみて、魔物との遭遇はモノさん瀕死事件の時だけだったし。
魔族(仮)さんたちを襲ったのは、また別の魔物だったのかなぁ、とか思うと、少なすぎる気はしないのだけど。
そんな自分の疑問に、さっと二人の顔色が陰る・・・おい、まさか・・・。
「いえ、実はこのところ、魔物の数が増加しているようなのです」
一匹二匹程度はよく見かけられ、十匹程度の集団の目撃例も上がっている、という。
「そんな中でクーデターやらかさなきゃならないと判断せざるを得ないほど酷かったんですかー、この国の王様」
口元をハンカチで拭っていたエリスが、なんともいえぬ表情で聞く。
「それについては詳しく語ると日が暮れますので結論だけ。 酷王でした」
ノナさんが実にイイ笑顔で親指を下に向けた。
その仕草、この国にもあるのか・・・。
「余りの酷さに王を守る騎士団そのものが敵に回りましたし、クーデターといっても殆ど無血勝利という感じだったのですがね」
お陰様で人同士の潰し合い、というほどの被害は出なかったのですが、とモノさん。
あれ、でもそれだとおかしくないかな?
「だとすると、何で神殿跡に多数の病人怪我人が居たんですか?」
と言いつつ、あ、と気がつく。
もしかして、だから、酷い、と言ったのか・・・?
「そのご様子だと気が付かれたと思いますが・・・そうです、王の暴虐の被害者があそこに集められていたのです」
それとは別に、圧政による貧困、飢餓、それに付随する病の蔓延・・・と、ほんの1週間前を思い出したのか、語るノナさんの口調は重みを伴った。
きっと。
殆ど死体置き場と同義だったんだろうな、と、思った。
「そんな訳で、最初は殆ど玉砕覚悟で暗殺を狙おうという形だったんですが」
そんな中現れたのが、その<英雄>・・・癒し魔・・・だったらしく。
「押し込められていた病人怪我人達が嘘のように健常に戻り・・・中には死人が生き返ったという眉唾な報告も上がっていますが・・・怒り心頭の彼らが王に突貫したのは言うまでもなく」
あー、それ、きっとホントに生き返ってる。
リアル死に戻りだったら、そりゃ・・・凄まじかろう、色々と。
「その勢いのままに周囲を巻き込んでの暴動に発展。 もう革命と呼んでいいのかもしれませんが」
モノさんがノナさんの説明を引き継いだ。
「そして、それを鼻で笑った王が騎士団に鎮圧を命令して・・・」
棒切れ振り回す奴隷共を蹴散らしてこい、などと口走ったらしい。
いやぁ、よくその王様それまで生きてられたなぁ。
自分を守るもの・・・多分騎士団・・・を、そんなに信用してたのかねぇ。
「で、華麗に騎士団の矛先が、王に向いた、と」
なるべくしてなった、って感じですなぁ。
暴動の規模が大きすぎて騎士団員が日和ったりもあったんだろうなぁ、とは口に出さずにおいたけど。
「そして当時の騎士団長、つまりモノが父を・・・王を討って暴動は終了しました」
ノナさんが淡々とした口調で締めくくった。
あー、そういう流れかー。
「ふむふむ、どうやって騎士団に言うこと聞かせてたのかなぁ、と疑問だったけど。 ノナさんが人質だったのかな」
頭の中で状況をシミュレートしてみんとす。
王様:暴君。
ノナさん:人質(対モノさん用?)。
騎士団:人質を盾に従わされる。
住民:奴隷扱い、王様やそれに言いなりな騎士団に恨み?
「暴徒が王の首を獲る前にモノさんがヌッ殺して騎士団の点数稼ぎして、幽閉されてたノナさん救出して団長代替りして武力(≒権力)持たせる。 さらなる点数稼ぎに騎士団動員して<英雄>探し・・・ってことでいいのかな」
大雑把に状況を組み立ててみた。
どうでしょう、と二人に目をやると、小さく頷いている。
大筋で合っていた、という事かな。
「そしてモノがメリウ殿に出会って、今に至る、ですね」
他の騎士達が戻る中、モノだけが中々戻って来ないので肝を冷やしました、とノナさん。
あー、最初は深夜の捜索で、そのまま村とか巡回して・・・で、魔物の集団に殺されかけてた、と。
「となると、・・・今この町には、自分とエリス以外の<旅人>は居ない、ということでしょうか」
恐らく潜伏してるだろう坊さん含めても3人か、と思いつつ。
「はい、残念ながら<貴方がた>と出会う幸運に恵まれたのは私だけのようでして」
魔法使いの保護、なんて思わせぶりなことを言ってしまい申し訳ありません、とモノさんが頭を下げる。
ザクザク人数居たら流石に顔見知りでなくても気がつくしなぁ。
自分もエリスも、地味に探査系スキル充実してるし。
仕方なし。
んでは、議題・今後のことについて、と行きましょうか。
「英雄探してたら類似品見つかっちゃったと言う感じの自分達は・・・ひとまず用なしという形でいいんでしょうかね?」
あの癒しマニアが潜伏してるとするならば、もはやこの国と言うか町には重篤な患者は皆無だろうし。
予想通り奴がいるとするならば。
きっと辻斬りならぬ辻癒し&即逃亡くらいはやってのけるはず。
もしくはスニークゲリラ癒しやらバックスタブ的癒しもしているかもしれず。
むしろ夜中に空飛んで<全究回復>の雨を降らせ続けるくらいの狂った絨毯爆撃すらやりかねん。
嫌な絵ヅラの想像をしてしまい額に汗をかき始めた自分を奇異な瞳で見つつ、モノさんが口を開いた。
「いやいやいやいやいや・・・大恩あるあなた方にそんな、用なしだなんて・・・」
大慌てで立ち上がり超否定ポーズのモノさんがちょっと面白い。
「私はなんにもしてませんがなー」
これエリスさんや、ふてくされない。
正直な所、君は秘密兵器と言うか切り札なので、今はまだおとなしくしてて下さい。
「モノの助命。 僕の治療。 少なくとも僕達二人は貴方に返し切れない恩が出来ています」
改めて、と深々と頭を垂れるノナさん。
併せて頭を下げるモノさん。
「しかし、僕達からお返しできるものがないのが・・・」
心苦しい限りで、と、搾り出す声色が苦く響く。
そんなに気にしなくていいのにね。
無い袖は振れないものだよ。
「いや、もう何度もありがとう、とお礼はいただきましたし。 それでいいんじゃないですかね」
別に命を削って皆を助けるという幸福の王子的なイイハナシじゃない。
謎状況で苦もせず手に入れた暴力的な能力で好き勝手やらせてもらってるだけだしね。
なので、そんな切なそうに二人してこっち見んな。
「んー、あ。 それではお願いと言うか頂きたいものがあるんですけど」
ふと思いついた。
一応モノさん巡回してたんだからあそこもこの国の所属なんだと思うし。
え、モノ? と、コレは僕のですとか言い出したノナさんにチョップかまして。
・・・エリスさん? なに鼻息荒くしてるのかな? かな?
「<世界樹>、自分の物にしてもいいですか?」
言うだけならタダだしね、と思って。
思い切って言ってみた。