気づけばそれは懐かしく
フライング気味に導入投稿。
ネトゲの方と並列で書いていく、かもしれませぬ。
友人達とのサバト染みたカラオケが終わり、部屋を出て精算に向かう途中のエレベータ内において。
ふっと一瞬、明かりが消えた。
ん? 停電? などの声が聞こえるが、それも一瞬。
こういう時は階ボタンの下にあるマイクで連絡するんだっけ等と考えていた自分が、再び明るくなった周囲に愕然とするのも、また一瞬。
友人達は、消えていた。
更に言うなら、エレベータ内ですら、なかった。
「なんだ、これ・・・」
聞き覚えはあるが自分のものではない声を搾り出す。
光源らしきものが見当たらないのに、やけに明るく感じる、密室。
目の前には、扉一つ。
左右、後ろ、上下に、退路無し。
さぁ、ススメ! と言わんばかりである。
正直、行きたくないんですが。
しかしこの状況じゃ、夢と思って寝てみるか、扉を開けてみるか・・・もしくは。
「りれみとー!」
ダメでした。
ちなみにルーラもダメでした。
夢のない夢だこと・・・では、気を取り直して。
扉のノブに、指が触れる。
パリッと、痛みのない程度の静電気が走る。
反射的にイテッと言ってしまうのは、お約束ということで。
離れてしまった指を再びノブに巻きつかせ。
くるりと回して扉を開き、一歩前進こんにちはっ!
扉をくぐったその先に待っているものは。
フリーフォール、自由落下というやつでした。
着水まで数秒、湿って張り付く衣服が愉快に体を拘束する。
なんとか体が浮くように、とだけ心がけ、必至に咳き込んで肺から水を追い出して。
嗚呼、川の流れのように・・・というか、普通に川流れしてなんとかへばり付いた岸でグッタリしている自分がいる。
ただ、自分と言っても見覚えのある手足でなく。
見覚えのある服装でなく。
声も、持ち物も、まるで見知らぬ別人のもの。
・・・ん、少しだけ、違和感。
見覚え、は、ある気がする。
どこでだったか、いつだったか、それなりに長い付き合いだった気が、する・・・。
しかしまぁ待てまずすべき事がある。
「服、絞ろう」
ありがたい事に、寒さは感じない。
むしろ、蒸し暑さを感じる程度の暖かさだ。
日当たりの良い岩に濡れた衣類を貼りつけて、自分もついでに大の字に。
しかし赤褌とは、コイツわかってやがるな、と、仮住まいの体を褒めてみたりもする。
しばし体を乾かし、ようやく人心地ついて胡座をかく。
ようやく、周囲を見回す余裕が出来た。
と言っても、川と、それを囲む岩壁しかないわけですが・・・木すら見当たらない。
うわぁ、乾かしておいてなんだけど、また濡れて下流に行くはめになりそう・・・等と思っていると。
岩に張り付かせていた衣類から今にもこぼれ落ちようとしている謎の小袋。
慌ててそれの逃亡を阻止、ついでに中身を拝見してみる。
巾着状の口を開いて、覗き込んだその先は。
なんだこれ。
袋の中身が、理解できるけど視認できない。
何を言っているかわからないだろうけど、一言で表すならソレである。
中身が見えているわけでないのに、中に何が入っていてそれを取り出すことは出来る・・・。
本当に、何だこれ。
でもひとまず、なにか適当に出してみる。
巾着袋に手をつっこんで。
それを、引っこ抜いた。
曲がった棒。
木刀の小太刀くらいの、曲がった棒。
さらには、切っ先に握りこぶし大の塊が。
材質、分からん、なんぞこれ。
重量、軽い、中身中空なのかね?
硬さ、シャフト部分はしなやかな木製を彷彿とさせる質感弾力、切っ先の塊はエッジの効いた硬質感。
メイスみたいな感じがしたので、とりあえずそこらへんの岩を殴ってみる。
ミチッ。
謎の手応えと共に、先端の塊が染みこむように岩にメリ込んだ。
「え、弾かれない? 普通」
かなり愉快に食い込んだそれを、苦もなく引きぬく鍛えられた筋力。
うおお、鍛えてるなー外の人っ、と、仮住まいの体を超賞賛。
この体じゃなかったら、案外川で溺れて死んでいたんじゃなかろうか。
っと、そうだこの棒の方は傷ついてないかなー、と、何気なく先端部を撫で付けた、その瞬間。
<繭:起動しますか?>
眼球に直接投射される、確認メッセージ。
謎の棒、その先端に真っ赤な切れ込みが入り、くぱぁ・・・と左右に剥けていく外郭と、現れる操作パネル。
「あ」
唐突に思い出される、記憶。
懐かしい、昔。
もう5年ほど前になるのか。
先程までカラオケしていた友人達と遊んだ、ネットワークゲーム。
そのひとつに、確かこんなものも、あった。
サービスが唐突に終わらなければ、きっと続けていたであろう、あのゲームだ。
ああ、懐かしい。
幾度と無く戦闘をくぐり抜けてきた、叩き上げの体。
なんのドラマもなく普通に手に入れていた、無限袋。
赤フン作って貰ったのは、確か灰色の彼だったか。
あはは、そうだそうだ、ああ、もう、懐かしいなぁ!
自分は<操縦桿>の操作パネルをメイス状の待機状態に戻すと、それを無限袋につっこんで、生乾きの衣類を手早く身に纏う。
そして<永久化している魔法を解放した>。
軽くステップをふむが如くに、空を翔ける自分の体。
ああ、風を感じて空を飛ぶって、こんな感じだったのか。
あれ、でもあのゲームじゃ風圧なんかは無視出来るはずだったよね?
小首をかしげつつ、かなりの高空まで飛翔した自分。
今しがたまで甲羅干しでお世話になった川が、いまや眼下のシミの一本となり。
周囲グルリと見回して、ひとまず疑問も投げ捨てて。
さぁ叫べ、変身だ!
「<変身>! <悪魔♀っ>」
ぼん、きゅっ ぼん!
ああ、満足だ・・・実に、満足だ・・・。
「そういやあのゲームじゃ下着姿にまでしかなれなかったけど・・・これだけリアルな質感なら、ぶっちゃけ脱げね?」
即実験。
脱げた。
結構どうでもいいことだが、テンションが上がる自分がいた。




