3話目
異世界の父さん母さん元気ですかぁ? そっちとこっちじゃ時間の流れがどうなってるかわからないが取りあえず生きている事を前提にして、あたしは取りあえず元気です。でもそっちから召喚された勇者の所為でせっかくの職を失ってしまいました。しかもそれだけではなく慣れ親しんだ王国ともおさらばしなければなりません。これも同じように勇者の所為です。あたしのことを勇者から聞いた国王が街中にあたしを雇うことを禁じるお触れを出したんです。なにかッ? あたしに餓死しろってかッ?! 働かなけりゃ食って生けねぇだろうが―――ッ!! と、まぁ心の叫びは置いといてこんなあたしを哀れに思ってくれた大奥様が退職金を弾んでくれました。えぇもう1年は優に遊んで暮らせるほどの給料を。それと他の国行っても直ぐに仕事が見つかるか分かんないからって、一応推薦状も。
「――思えば遠くへ来たもんだぁ、と」
あぁーまじで遠いよ。今まで暮らしていた町並みが小さく見える。あれくらい小さいと人はもう見えないだろうなぁ。グエンさん大丈夫かなぁ? 心配だなぁ...またあの歩くR18禁男に襲われてたりしてないよねぇ。一応、元同僚たちにお願いして来たけど...なんてぐだぐだと考え込んでてもあたしにはもうどうすることも出来ない。
ハァーと、諦めの溜め息をひとつ吐くとみすぼらしいマントを翻し少ない荷物を背負って隣国との境界線である山道を目指し歩いていた。が後少しで国境を越えるっていう所であたしの視界にヴェールズの軍隊が映った。面倒ごとが余り好きではないあたしはそれを回避すべく脇道に逸れた。んだがそれが間違いだった。現在、ヴェールズならぬ追い剥ぎが数人眼前に立ちはだかっている。
「おい坊主。命が惜しかったら有り金全て置いてきな」
お決まりな台詞にお決まりな行動。つまりあたしを剣でもって威嚇している。ちなみにあたしが男に見えるらしい。まぁ少年の姿をしている訳だからしょうがないが。取りあえずどうしよう? やっぱり怯えた方が良いのかな?
「けッ。怯えて声も出ねぇのか?」
なんて考え込んでいるうちに勘違いされたよ。よし、この際。怯えた振りをして逆に持ち物頂いちゃおう。
「――てめぇそれでも人間かッ?!」
「はいはい、それでも人間だよ。但し異世界のだけどね。それに善悪の判断だって付くし...追い剥ぎを追い剥ぎしてどこが悪いの。殺されなかっただけめっけもんじゃん。」
グルグルと簀巻き状態にされた追い剥ぎたちの叫けびを軽く無視しながらぶあたしは彼らの荷物を漁る。お、ラッキー、非常食めっけ。後は何があるかなぁ。そんな中、ガサゴソと荷物を漁るのに夢中になっていたあたしは背後に近づく人の気配に気づかなかった。
「...おまえ、オーランドの人間...だな?」
不意にかけられた言葉と同時に振り下ろされた剣。咄嗟のことでセーブ出来ずにチート能力全開で回避してしまったあたしを見て、襲ってきた男のエメラルドグリーンの瞳が驚愕に見開く。
「おまえが召喚された勇者か――ッ?!」
「はぁ? 冗談はよしてよ。あんな歩くR18禁男となんか間違えてほしくないんだけど」
徐に紡がれた男の言葉に対してあたしはぶつぶつ言いながらも全力で持って拒否った。マジで勘弁してくれ。
そんなあたしの心の叫びを感じ取ったのかどうかは知らないが、エメラルドグリーンの瞳の男は怪訝な顔をしつつも取りあえず抜き身の長剣を鞘にしまう。そして今度は人の顔を観察するように見つめてきた。そりゃぁ穴が開くんじゃないかってくらいマジマジと。