1話目
「――アントワンヌ様、菓子のお味はいかがですか?」
「そうね。甘過ぎず口当たりもサッパリしてて丁度いいわ」
「然様ですか。ところでアバドン様、紅茶のお替りはいかがですか?」
「ああ、貰おう」
「ルーファス様もいかがです?」
「ああ...」
アバドンとルーファス。そして女主人であるアントワンヌ様とグエンさんが、先程からこのやり取りを何度も何度も繰り返している。まったくだれもそこから先に進めない。あんたらは壊れたレコードプレーヤーかッ!?
「――そう言えばルーファス。あんた、アントワンヌ様に用があるんじゃなかったっけ?」
堪りかねたあたしは無理やりルーファスに話しを振るのだが何故かルーファスが目に見えてホッとした。そのルーファスに相反してアバドンが不機嫌になる。――何故だッ?!
「これカナン。隣国の王子を呼び捨てにするなどあってはならないことです。えぇいつもいつも思うのですがあなたには王族を敬う気持ちがあるんですか?」
優雅に紅茶を飲んでいたアントワンヌ様からあたしは叱責を受ける。けどアントワンヌ様。自国の王に対してあたし並に敬う気持ちがありませんでしたよね? それにあたしって元々こっちの世界の人間じゃないから王族を敬うなんて出来ないです。て言うか無理。まず敬う気持ちが湧かない。
「まぁまぁアントワンヌ殿。別に私はかまいませんよ? むしろ親しみを込めて名で呼んで頂きたいですね」
アントワンヌ様ににっこり微笑みかけるこいつは誰? あんた、あたしと話してたとき自分のこと俺って呼んでなかった?
「ああそうだな。俺も出来れば親しみを込めてあなたを呼びたいですね。ねぇ――叔母上?」
こいつはこいつで優雅に紅茶を飲みながらさほど大した事はないという感じで爆弾を投下する。はい、アバドンによって大型爆弾が投下されました。被害は主にアントワンヌ様とグエンさんに広がっています。二人はまだ衝撃の余波でこちら側にもどって...
「と言うことはカナンは魔族なのね」
戻ってきました! グエンさん逸早いお帰りで!! じゃなくて突っ込むとかはそこなの?! 叔母云々はスルー?! いや確かにグエンさんは偶にどっか抜けてるとこあるけどッ!! でもね? でもね?!
「カナン。あなたがアバドン王子の叔母と言うことは、魔王か皇妃の妹なんですか?」
アントワンヌ様も戻ってきました。――質問付きで。
父さん母さんお久しぶりです。ええもうホント久しぶり過ぎて何を話したら良いか分からない程です。まぁ取り合えず近況を報告するとある四文字熟語がそれに当てはまります。そう、その四文字熟語とは――...
―――迷惑千万
意味、判りますよね? "迷惑"はやっかいなめにあって困ること。嫌な思いをすること。めんどう。"千万"はこの上もないこと。非常に。by 四文字熟語データーバンク。
自分の身に起きたことをアントワンヌ様やグエンさんに説明し、理解して貰ったのはつい先日。その後、長旅とは言わないが疲れているだろうから休んだらどうだ? と進められかつての自室に引き篭もる。――そこまでは良かった。
その際サイドテーブルに置いてある色つき水を飲んだのが不味かった。急な睡魔に襲われてベットに倒れこむことも出来ないままそこで意識が途絶えた。
そして現在――
「――やっぱり黒い御髪にはこの深紅のドレスが映えますわ」
「いいえ違いますッ! 何と言ってもこの菫色のドレスですッ!!」
「何を言ってるんですか2人とも! カナン様にはこの藤紫色のドレスですッ!!」
見た目人間と呼んでも差し支えのない姦し3人娘が何故かあたしにドレスを着せようと躍起になっていた。――つうかここって一体どこよッ?!