10話目
Dear父さん母さん、あなたたちの孫は兄貴と親子だけあって似ています。でも全体的にこっちの方がいい男です。身長は185cm前後で無造作に伸ばされた黒髪に切れ長の紅い瞳。口元から覗くは牙のような犬歯。いや? 犬歯のような牙なのか? まぁなんにしてもひどくイケメンです。きっと魔界でもモテモテなんでしょう。名前は――なんだっけ?
「――俺の名はアバドン。お前の兄にして魔国の統治者であるジーナンと夜の魔女にして后妃であるリリスとの間に産まれし第1子」
どうやら思考回路が読めるらしいです。でも兄貴の名がジーナン? なんかマヌケ。てかなんであたしお前呼ばわりされるわけ?
「俺のほうが年上だからな」
あーはいはいそうですか。もういいや。あえて突っ込みは入れないでおこう。それよりも気になることが出来た。それはあたしを殺しに来た八部衆なるものだ。八部衆言うくらいなんだからやっぱり8人居るんだろうか? とか、なんか改めて見た一座にとんでもないものを見つけたような...とか。
「――確かに八部衆は8人居る。名は順に一座、二葉、三輪、四門、五目、六道、七飯、八尾。あとはまぁお前が見たとおり一座には付いている」
あ、やっぱり? 見間違いじゃぁなかったのね。一座の豊満だったバスとが急に萎んだようになり変わりに下半身になんか膨らんだものが...駄目だ。これ以上見ていたら目が腐る。いや実際腐りはしないけど精神的になんか...
「...お前は勇者と同じ異世界人だったんだな」
「あんな勇者と同じ世界から来たなんて自分で認めたくなかったんだよ。」
「確かに...それはそうと、これからお前はどうするつもりなんだ?」
「このまま普通に生活していくけど...って、 え?! ひょっとして同じように生活して行くことって出来ないの?!」
「変わらずに生活していく事は「出来ないね」
男Aの言葉に続けるようにアバドンが遮る。まるで見えない壁に寄りかかるようにして腕を組み、長い足を交差している姿なだけなのに、酷く扇情的なのは何でだろうか...
まぁそんなアバドンを見据えながらあたしはなぜ変わらない生活をする事が出来ないのかを聞く。返ってきた言葉に再び罵詈雑言を吐いたのはいた仕方ない事だろう。なぜなら...クソ兄貴があたしを魔国へ連行? させる気で居たからだ。そしてそんな兄貴に罵詈雑言を吐いた兵はもう一人居た。それはなんと...
「カナンは我が国で客人として迎え入れる為、貴殿にはお帰り願おうか」
男A改め。ヴェールズ公国の公子にしてその大群を率いる軍神。そして第1王位継承者。ルーファス・ジオ・ヴェールズであった。