2:貴重な青春時代に『鬼ごっこ』を
風の精霊は俺の問いかけに答え、辺りに風が舞った。
そして、地肌が見えるようになった地面に先ほど刈った芝のカスでクラス名と不届き者の名前が示された。
【3年C組 クラン・チョコレート・クッキー】
「なんだこの――甘ったるそうな名前は?!」
名前からして甘やかされて育った、貴族のボンボンな気がしてならない。
どうせ体型も中肉中背で、髪型もセンター分けした似合わない茶髪をした――いけ好かない奴だろう。
「俺のテリトリーを穢したらどうなるかを……末代まで覚えとくんだなッ! カッカッカッカッ!」
そうして……下校時の放課後。
学院の門の前で、クランの名前を書いた横断幕を掲げて俺は待った……。
下校する生徒たちはひそひそ話をしながら、俺のことを不審者でも見るような目だ。
しかし、生き恥をとことん晒して生きてきた俺にとっては快楽ともいえる。
「彼には感謝しないといけないなぁ……。こんな経験をさせてくれたのだから……」
そんなことを噛みしめていると――
「あの~、僕に何か御用でしょうか??」
そう声をかけてきたのは、すでに角刈り頭をした黒髪の――貴族とは程遠い地味な奴だった。
「……違う。俺はお前のようなモブにもならない地味な奴に用があるんじゃない……。3年C組 クラン・チョコレート・クッキーに用があるんだッ!!」
「……ですからそれは、僕なのですが……」
目の前に弱々しく立つ青年は、見るからにこれまでの人生で何度となく『いじめ』を経験して来ただろう有段者であった。
そんな彼に更なる追い打ちをかけるような出待ち行為――。
俺は人間であることを放棄したが、『いじめっ子』になった訳ではない。
しかしながら、俺の『芝』にコインハゲならぬ物を作ったのは……精霊たちに再び聞いても彼であることは必然。
「俺は庭師のオシトセというものだ」
そう言うと、クランはビクッと体を硬直させた。
事情がなんであれ、彼には分かってもらわなければならぬ。それが学び舎に通う者の勤めだからだ。
「ちょっと着いて来なさ……」
「――――ッ!」
俺が言い終わるのを待たずに、クランは肩から掛けていた学生鞄を抱きかかえて校内に引き返した。
「…………『鬼ごっこ』とは面白い。その角刈り……俺が手直ししてやろう」
そう言って、静かに門をくぐるのだった。




