1:貴重な青春時代に『角刈り』を
三百人を超える全校生徒が集められた学院内の文化ホール。
講演台に立つ、名の通った聡明な賢者は言った。
「――――人生において基礎となるのは『目的』である。それは大小に関わらず、貴殿らを更なる高みに導くだろう」
と。……その後は覚えていない。
そんな抽象的かつ、本人次第という含み言葉に当時の俺はなぜ『心動かされた』のだろう……。
「アホか……」
母校の学生服を身に纏う青年らは、当時の俺のように将来に対して希望を持っているのだろうが、そんなものは妄想に過ぎず――。
卒業して二十年も経てば、その過半数以上がこれといった目的もなく、日々をなんとなくで生きている。
そして、その日々は高みから見える景色ではなく――、地べたを這いずり回るスライムのように惨めだ。
「オシトセ――、正門の植木も頼む」
「へいへい」
学生時代に1、2を競った旧友も今となっては学年主任にまで出世。
来月には三人目の子が生まれるらしい。
それに引き換え俺は未だ独身の『学年がなりたくない職業ナンバー1の庭師』だ。
運よく所帯を持つことが出来たとしても、家族に贅沢はさせてあげられないし。――ましてや、こんな学院に通わせるだけの学費なんてケツの毛までむしり取っても出せやしない。
「……出来もしない目的なんて、持つもんじゃねぇな」
「おーい! 油売ってる暇はねえぞ」
「はいはい分かってますよ、エイク先生」
学院を卒業してからの二十年……エイクと俺の違いは一つの事だけに打ち込んだか、目的はあれど――行き当たりばったりの人生を歩んできたかの違いなのかもしれない。
だからこそ言える――――俺みたいにはなるなと。
*
俺の一日は平凡に始まり、平凡に終わる。
家で作業着に着替えて、学院にやって来てからまずやることは『芝刈り』。
風魔法を操り、学院内の芝を全て刈り直すところからだ。
芝の長さに指定は無いが、俺は3㎝と決めている。
なぜなら俺の誕生日は三月三日だからだ。また『3』という数字は三位一体や三宝、三種の神器など調和や完全性を象徴するもので何とも響きが良い。
だからこそ……学生たちがチカラ自慢のために荒らした『俺の力作』を見ると無性に腹が立つ。
「ガキどもが……角刈りにでもしてやろうか??」
しかし、俺は大人だ。いちいち腹を立てて周りの物などに八つ当たりなどはしない。
そう……することは決まっている。
犯人を見つけ出して、貴重な青春時代に『角刈り』という罰を与えるだけである。
「風の精霊よ。我が問いかけに答え――示せ! 『俺の芝を荒らした不届き者を!!』」




