『お疲れですね』でありますように
いつものように
ターミナル駅のホームで待つ私の前に
折返しの電車が滑り込む
終点なのに降りる事もなく
座席で眠り込んでいる人
終点ですよと声をかけるべきかなと
思いながらも躊躇する
見知らぬ人に声をかけることのためらいと同時に
心のどこかでハッと目を覚まし
ここはどこと慌てる姿を期待する意地悪な自分がいる
意地悪な自分が負ける時間を与えずドアは閉まり
電車はまたやって来た方向に向かって動き出す
2駅ほど進んだ、いやその人にとっては戻った所で目を覚まし
期待した慌てる素振りもなく悠々と降りていく人
もともとそこで降りるはずが乗り過ごしたのが終点だったのかもしれない
そんな事もあるかもしれないから声をかけられないのだ
でも今日の人は
折返しても全く目を覚まさない
いつしか遠目に体のどこかが呼吸で動くのを確かめようとしている
態勢が変わるのを見定めようとしている
都心に向けて段々混んできても目を覚ます事なく
大きなバッグを抱えたままその人は動かない
ふと暗い想像が浮かぶ
ずっと同じ姿勢のまま
1本の電車に揺られて
都心とターミナルを往復し続ける人
そしてある時隣に腰かけた人が
触れ合う身体の冷たさに
ハッとする光景
朝早くから夕方になるまで
忙しく行き交う多くの人の流れの中で
その人だけは時が止まったまま
同じ姿勢のまま電車に揺られ続けるのだ
そんな暗い妄想をしてしまう
都心に近づくにつれ乗り込む人の影で
見えなくなってしまったその人の姿
ほんの少しだけ後ろ髪を引かれながら
いつもの駅に止まった電車の開いたドアから
いつものように人の流れに押されながら
束の間の妄想の世界から
日常へと戻っていく
『お疲れですね』でありますように
と願いながら




