表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/89

第七十四話 封呪箱再び(伍)

怪僧は、台座に置かれた,肉片が付いた骸骨に視線を落とす。


!ドクン!ドクン!


骸骨の肋骨の奥からは、絶えず、力強い鼓動が鳴り続けている!


「……うむ。実に良い……順調に“精製”されておるわ」


身体じゅうの血管が浮き出るほどに“気”を放ちながら、喉の奥でグツグツと不気味な笑いを漏らした。


「正盛よ!それで、鎌之介は……あとどれほどで仕上がりそうじや?」


問いかけに応じて、一歩前に出たのは、黒衣をまとった初老の学者。

しわがれた声とは裏腹に、その瞳は異様な熱に燃えている。


「肉体が完成するまでに、あと二週間ほど。

 そして……鎌之介様の魂を宿し、完全に同調させるには、さらに二週間を要します」


学者はそこで一度言葉を切ると、神妙な面持ちで続けた。


「前にも申し上げましたが……特に“魂を繋ぐ”最後の二週間は、細心の注意が必要。

 僧たちのお経が途切れれば、その瞬間に……邪悪なるモノどもが精神を奪いに押し寄せましょう。

 一度でも奪われれば……二度と、戻りませぬ」


しかし、怪僧は腹の底から笑い飛ばすように、鼻で嗤った。


「心配無用よ。すでに万全の結界を張っておる。それに」


怪僧・清海は、分厚い肩を揺らして、愉快そうに笑った。


「鎌之助は“鉄の心”を持つ男じゃ。闇程度に屈するはずもなかろう」


「そうか!!あと一月か! 待ち遠しいのお!!

 早う、顔が見たいものじゃ!!」


地を這い、同時に天井を震わせるような怪僧の笑い声が、聖堂の奥まで響き渡った。


その横で、蜘蛛使いの男がギッと綾乃たちを指差す。


「清海様! あやつらです。我らのアジトを嗅ぎ回っとったのは!!」


叫びが響いた瞬間、場の空気が、ビシィッ、と音を立てて凍りつく。


「もおっ! そのセリフ、あたしが言いたかったのに!!」


猫目の女は毛を逆立てた猫のように、蜘蛛使いへ詰め寄った。


「三毛娘よ、そんな下らん口争いはどうでもよい」


清海入道は一瞥すらくれず、ゆるりと綾乃たちへ歩み出す。


ゴッ……ゴッ……。


その一歩ごとに、大地そのものが呻くような重い衝撃が床を鳴らす。


“圧倒的な気”が、黒い濃霧となって押し寄せ、

綾乃の肺へ絡みつき、凍えさせた。


「っ……!」


横で跪いた夜叉の面が、ピシ、と小さく軋む。

蛇楽の肩は細かく震え、額を汗が滑り落ちる。


清海入道は、闇色の闘気をまとわせながら三人を見下ろした。


視線だけで、背骨を直に掴まれたような圧。

呼吸すら許されず、三人の体は地面へ縫い付けられたかのように動かない。


やがて、


清海は、ふっと鼻で笑った。


「ど、どうしたのです、清海様?」

三毛娘が清海入道の腕に絡みつく。


「ふん……小者じゃな」


怪僧の声は冷え切っており、完全な“無興味”だった。


「多少は気を練っておるようじゃが……話にもなるまい。

 虫けらじゃ。取るに足らぬ。」


払うように袖を軽く振り、綾乃たちの存在そのものを空気のように切り捨てる。


三毛娘がニャ〜〜ッと笑った。

「あにゃ〜〜、残念! 小者なんだってぇ!」


蜘蛛使いは下卑た笑みを浮かべ、綾乃達三人に近づく


「ならば、その小者の相手は、俺様が引き受けようじゃねぇか」


瞳に宿る光は、捕えた虫を弄り殺す直前の残虐そのもの。


「聞いたか、小娘ども。

 お前らのアジトと目的を吐くまでは、楽に死ねると思うなよ?」


三毛娘が跳ねるように笑う。

「始まったよ〜! ニャハハハハ! 楽しみ、楽しみ〜!」


その圧力に耐えきれず、夜叉はついに両手を地へつき、かすれた声を絞り出した。「わ、私たちは……ただの旅人です……!

 此処には迷い込んだだけ……どうか……解放して下さい……!」


夜叉の声は震え、必死に縋るようだった。


だが、


蜘蛛使いは、腹を抱えて笑い出す。


「ははっ! 嘘が下手よのう!! バカも休み休みに言え!

 “か弱い娘”が、俺様の使い魔と互角に渡りあえるかってんだ!!

 まあ、所詮は小者だがな!!」


綾乃と蛇楽は息を飲むが、動けない。

闇の圧が、いまだ全身に絡み付いていた。


その時だった。


ゆっくりと、

清海入道が振り返る。


「……いい加減にせい、八雲よ。」


静かな声だった。

だが聖堂全体が震えたように感じられた。


八雲の背がビクリと跳ね、即座に沈黙する。

蜘蛛の目のように細い瞳が、清海へ向き直った。


清海は、あからさまにうんざりした表情を浮かべていた。


「わしはのう……女子をいたぶる姿など、見とうないでな。

 いつもの“アレ”で、さっさと終わらせろ」


綾乃たちを値踏みする視線には、敵意すらない。

彼にとって三人は、眼前の状況にすら数えられぬ――“雑事以下”の存在だった。

八雲の残虐な小細工にも、もはや興味を示さない。


「ニャハハハハ!! 怒られてやんの!」

「八雲は蜘蛛の糸みたいに、ねちっこいからニャ〜!」


三毛娘はからかうように跳ね、尻尾を振った。


その瞬間、八雲の顔が、怒りに歪む。


「おめえも、この娘達と一緒に、いたぶってやろうか!!? あァ!!?」


「シャーーッ!!!」

「なにゃ〜!!! やんのかコラ!!」


三毛娘は牙と爪を剥き出しにし、獣そのものの威嚇で八雲に迫る。


「こら! やめんか!!! 二人共!!!」


清海の一喝と同時に、おびただしい闘気と邪気が噴き上がった。

空気が軋み、重く沈み込む。


八雲と三毛娘は、反射的に身をすくめる。

綾乃たち三人も、圧に押し潰され、恐怖でまぶたすら開けられなかった。


「……も、もう私は行くにゃ!」


吐き捨てるように言い残し、三毛娘は館を飛び出していった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ