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第四十八話 生き神(捌)



 ーガチャリー


 幻蛇たちの奮闘により、ついに蔵の重い扉が開いた。


綾乃「行くぞ、二人とも!!」

斬黒「おうよ! ぐずぐずしてたら間に合わねぇ!」

蛇楽「うん!」


三人は躊躇なく外へ飛び出し、時次神社へと続く山道を疾風のごとく駆け抜けた。


朝の空気を裂き、草木が彼らの袖を叩く。

胸の奥の激しい鼓動すら、いまは邪魔だと思えるほどだった。


やがて、人目を避けて山林へ入り込み、三人は神殿の裏手へと回り込む。


神殿に近づくにつれ、

絶え間なく続く、不気味な祈祷の声が大きく聞こえてくんる。

整列した村人達は、誰一人として顔色を変えず、死人のように同じ文言を反復していた。


綾乃「……間に合ってくれ……!」


蛇楽が小声で囁くように言った。


「こっち!みんな来て!」


彼女は神殿裏の影にするりと身を滑り込ませ、床下の狭い空間へ潜っていく。

そこには、蛇楽が密かに調べた侵入道が、口を開けていた。



斬黒「蛇楽!いつのまにこんな抜け道を!」

蛇楽「おとといの夜、斬黒が珠妃様に鼻を伸ばしている間に、蛇様が見つけてくれたんだ」

 「きっと誰かが、密かに神殿を出入りするためにつくった道だと思う。」


おそらくこの道を使っていたのは、玄二郎を木に吊るした、黒い羽の物怪!

綾乃は、この道の先に大きな危険が待ち構えている事を悟った。

 

 ーーー


 

斬黒が床下の隠し扉を押し上げ、そっと神殿内部へ身を乗り出した。


静寂。

灯りのない薄闇の中、ひとりの女性が背を向けたまま、ぽつりと佇んでいる。


斬黒「珠妃様!! ご無事でしたか!」


その佇まい。その漂う香り。

妖艶でありながら、慈愛に満ちた“気”。


斬黒は暗がりにも関わらず、迷いなくそれが珠妃だと悟った。


ーしかしー


女性がゆっくりと振り返ったその顔を見て、斬黒は息を呑む。


斬黒「……お、お美代??」


動揺する斬黒の後ろから、綾乃と蛇楽が床下から這い上がってくる。


綾乃「斬黒!! 違う!! それは“お美代”ではない!」


斬黒「だ、だけど……姿も顔も、お美代!?でも雰囲気が……?!」

 

言いながらも、斬黒の頭は混乱していた。


綾乃は斬黒の肩を掴み、部屋の隅を指差す。


綾乃「お美代なら、すでに“あそこ”におる」


その先には、

魂となり、ぼうっと座り込む“お美代の霊”が揺らめいていた。


斬黒「な……っ!?」


綾乃は神殿全体を震わせるほどの声で怒鳴った。


綾乃「お、お前は一体、誰じゃ!!!」



お美代の姿をした何かは、ぞくりとするほど美しく妖艶な顔で微笑んだ。

そして、その背中が、ぞわりと歪み、

黒く、大きな羽が音もなく広がっていく。


黒羽の物怪は、ゆらりと首を傾け、まるで舞台の幕が上がるのを待つ役者のように微笑んだ。


物怪「……ふふ。ついに姿を見られてしまいましたか。」


物怪「私はつい先ほど“宿替え”を済ませたばかりでして」

そう言って、怪物は、チラリと自らの足元に落ちている、抜け殻(珠妃の遺体)を見た。


斬黒「た、珠妃様!!!」

あれほど優しく、真っ直ぐで、美しかった人が、毛皮の標本のように、骨を抜かれた状態で横たわっていた。


斬黒「あぁ!!!なんて事を! なんて....ことを!!」

「ウオオオォォォ!!!」

斬黒は震えるほどに号泣して怪物に怒りを露わにした!

「化け物めが!!珠妃様を、よくも!!」


物怪は、斬黒を見て、お美代の顔で不思議そうな表情をして首を傾げた。


物怪「何を言っているのです?斬黒さん、

一昨日の夜、あなたと話しをしたのは、この私ですよ」

「あなた、言っていましたよねぇ。私を守って下さると」


斬黒「ど、どういぅ....」


物怪「私は今、お腹が空いているのです。丁度よい。あなた方三人分の若い生気……まとめていただきましょう」


その瞬間。


パキ、パキパキ!!


物怪の細い手が不気味な音を立てて変形し、

白く滑らかな指がみるみる漆黒に染まり、

ドス黒い、鴉の爪のような長い鉤爪へと姿を変えた。


黒い羽がわずかに震えた、と思った刹那。


影が跳ねた。


気づいた時には、物怪は蛇楽の真正面に立っていた。


蛇楽「ひ、ヒエェぇぇ~~!!」


蛇楽の小さな身体は完全に硬直し、

次の瞬間、情けない音がぴちゃりと床に落ちた。


物怪「まずは一人目……いただきましょうか」


鉤爪のような手が、蛇楽の両腕をがっちりと挟み込む。


蛇楽「ひっ……ひいいっ! ぬ、抜けないぃぃ!!」


斬黒「や、やめろ!!」


斬黒は怒声とともに刀の柄へ手を伸ばす。


だが物怪は、ちらりと視線だけを斬黒に向け、

さも退屈そうに言い放った。


物怪「無駄です。普通の刀など、いくら切り刻もうと私には通りませぬ」

物怪「それに...」


物怪は足元を軽く踏み鳴らす。


物怪「ここはすでに固く閉ざされました。隠し扉も、今はこの足の真下」

物怪「貴方の“番”が来るまで、大人しく並んでおられよ」


闇の神殿に、物怪の笑い声がふわりと広がった。


まるで、生き物の吐息のように。


斬黒は、ゆっくりと顎を上げ、薄く笑った。

よよ

「普通の刀だと……? 普通の刀などではない!おいらの刀はなァ……!」


言い終えるより早く、斬黒は刀を引き抜いた。


ギィィィンーーッ!


刀身が露わになった瞬間、

禍々しい邪気が噴き出し、薄暗い室内に黒い霧となって渦を巻く。


物怪「な、なんじゃ!? この、汚らわしい妖気は……!」



そして、次の瞬間。


斬黒の姿が掻き消えた。


「そこだッ!!」


ビシュッーー!!!


妖刀の軌跡が蛇楽の頬をかすめ、闇を切り裂く弧を描いた。

その瞬間、刃は、物怪の潜むお美代の身体を、真一文字に裂き割った。


ズサァァァァァッ!!


物怪「カアアアアアアァッーーーー!!」


噴水のようにドス黒い血が噴き上がり、畳の上に雨のように降り注ぐ。

物怪は信じられないというように震え、かすれた声を漏らした。


物怪「ば……バカな……! このワシが……ッ!」


斬黒は血飛沫を浴びながらも、肩に妖刀を担ぎ直し、口角をつり上げた。


「おいらの刀は、妖刀《魔蛾霧丸まがきりまる》。

お前みたいな物怪の魂にも、ちゃんと刃が届くんだぜ!!」


刀身にべっとり張り付いた血糊が、じゅるじゅると音を立てて吸い込まれていく。

妖刀が“喰っている”のだ。


物怪「うぅっ……!! なんて事をしてくれた……台無しじゃ!

この身体はもう使い物にならん!!」


次の瞬間!!


ビッシャーーーーーッ!!


お美代の身体が、内側から爆ぜ飛んだ。

肉片と血潮が四方八方に弾け飛び、その破裂した肉の殻の中から、

より禍々しい“本体”が姿を現す。


ドス黒く、巨大で、獣とも人ともつかぬ異形.....物怪、その真の姿。


真正面から返り血を浴びた蛇楽は、腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。


「ひ、ひぃぃぃッ……!」


物怪は斬黒の二太刀目を紙一重で躱すと、蛇楽の襟を長い爪でひょいとつまみ上げる。


「いただいていくぞォ……!」


ズルリッ。


床板の隙間にある隠し通路へ潜り込み、

次の瞬間、天井を突き破らんばかりの勢いで、蛇楽を抱えたまま空へと舞い上がった!!


それを見た、村の者たちは祈祷の声を止め、広間に駆けつけた、

そして、そこに広がる惨劇を、ただ呆然と見つめるしかなかった。

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