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第四十二話 生き神(弐)

玄二郎げんじろうが村を去って、まもなく一月。

山あいの時次村ときつぎむらでは、秋の村祭りに向けて、村人たちがそわそわと準備に追われていた。


今年の祭りは特別だ。

二十年ぶりに「封巫ふうかんの儀」が執り行われる、村を護ってきた“生き神”を次代へ託す、古より続く大儀式。

そのため、村中が活気づき、どこか浮き足立っていた。


そんな折、

村の入口に、見慣れぬ三つの影が現れた。


ひとりは、白衣を揺らす若い巫女、綾乃あやの

年の頃は十七、十八ほど。幼さが残る顔立ちだが、澄んだ瞳だけは不思議な底知れなさを宿していた。


その隣には、不精髭に薄汚れた旅装をまとい、

やけにギラつく眼光を放つ男、斬黒ざくろ

彼が担いでいる刀からは、邪悪な妖気がたえまなく発せられていた。


そして最後に、斬黒の背を影のように追う女、蛇楽じゃらく

手足の動きは妙にしなやかで、笑っているのか怒っているのか分からない薄い表情が、村人たちに得体の知れない不安を落とす。


ーーーーー


綾乃「……妙だな?」


唐突に綾乃が足を止め、小さく呟いた。


「んだよ綾乃。なにが妙なんじゃ!」

斬黒は鼻を鳴らし、祭り準備で賑わう村を見回す。

「普通に活気づいてる村じゃねぇか!」


綾乃は首を振り、低い声で言った。


「村人たちの“指”を見てみろ」


「指?」

斬黒は訝しみながら、すれ違う村人の手元へ視線を落とした。


次の瞬間。


「うわっ!? なんじゃこりゃああ!!」


祭りの飾りを運ぶ青年の右手、人参を束ねる老女の左手、笑いながら酒樽を担ぐ男の手。


どの手にも、指が欠けていた。


一本だけない者。

逆に両手の半分近くを失った者等

特に年寄りほど、その欠損は深刻だった。


賑わいの裏に、異様な光景だけが浮き上がる。


「……本当に妙な村だな」

斬黒は顔をしかめ、思わず剣の柄へ手を伸ばした。

「こいつら、一体何があったってんだ……」


その時、背後で蛇楽がそっと斬黒の袖を掴んだ。


ぎゅっ。「…………」


秋祭り前の陽気なざわめきとは裏腹に、三人の背筋を冷たいものが静かに撫でていった――。


ーーーーー


綾乃は、辺りをキョロキョロと見回すと、

突然、ある方向に歩きだした。


「斬黒、蛇楽、こっちだ!」


綾乃はためらいもなく村の路地を進み、まるで昔から道を知っていたかのように、歩いていく。


やがて古い木戸の前に立つと。


ドンドンドンッ!


「ごめんください! こちらは、お美代さんのお宅ですね!」

斬黒「そうなのか?此処が例の娘の家なのか?」

蛇楽「.........」


ーーーー


ガラガラッ、と勢いよく戸が開いた。


「誰じゃお前たちは! ワシらに何の用じゃ!」

白髪混じりの初老の男・哲二が険しい目で三人を睨みつける。


しかし綾乃は一歩踏み出し、まっすぐに答えた。


「細かい話は省きます。玄二郎殿の頼みで参った……そう言えば、お分かりいただけるはずです!」


「玄二郎……!?」

奥から現れたお美代が、ほとんど叫ぶように声を上げた。


「玄二郎は、どこにいるのです!?」

「私は、ずっと……ずっと心配しておりました。どうか、会わせてください!」


綾乃は目を伏せ、申し訳なさそうに口を開く。


「……今は、まだお伝えできません。ですが、いずれ必ず……どうか、今はご容赦を」


その時!


「おめぇ、何にも分かってねぇなぁ!」

斬黒が前に出て、下品な笑いを浮かべながら言い放った。


「こっちはなぁ、はるばる京都から“あんたを助けに”来てやったんだよ! 人の心配する前に、自分の心配をしとけってんだ!!」


「こらっ、斬黒!! 余計なことを言うな!」


綾乃が慌てて斬黒の腕をつかむ。

彼女は深く息を整え、家の者へと向き直った。


「私は、京都、精蓮せいれん神社の綾乃と申します。玄二郎殿から聞いた話からすれば、この村の“土着信仰”に、何か良くない“穢れ“が入り込んでいる可能性があります」


その眼差しは真剣そのものだった。


「儀式が終わるまでの間、私はあなた、お美代さんの傍につき、警護をいたします」


「ほ、本当ですか……!? 玄二郎の依頼なんですね!」

お美代の表情に、安堵と希望が一気に広がる。


綾乃は軽く頷き、続けた。


「どうか村人の皆さんには、私を“遠い親戚の付き人”として雇った、と説明してください。余計な騒ぎを避けるためにも」


「わかりました! どうぞ、よろしくお願いします……!」


そこへ、斬黒が胸を張って割り込む。


「そんで俺たち二人は、現・生きいきがみ珠妃たまきの護衛に当たる!」

「安心しな! 俺様の手にかかりゃ、二十年ごとの悪習も今年で終わりだ!」


後ろで蛇楽は、薄い影のようにじっと立っている。


「…………」


その無感情な声が、逆に背筋を冷やす。


奥から現れたお美代の母・佳代かよが、縋るように近づいた。


「本当なんですか……? 珠妃は、私の親友でした。けれど“お宮入り”してからニ十年間、一度も会えていません……。どうか……どうか珠妃をお願いします!」


斬黒は鼻で笑い、胸をドンと叩く。


「任せとけっての!!」


蛇楽はやはり表情ひとつ変えず、静かに頷いた。


「…………」


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