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第三十八話 一条戻り橋(後編)

その頃、鬼女の残した妖気を追って森を進んでいた斬黒と蛇楽は、深い森の奥

常人なら決して足を踏み入れない場所に、ぽつりと佇む一軒の館へと辿り着いた。


 月明かりに照らされたその館は、まるで森の闇から切り離されたかのように静まり返っていた。

まるで“ここだけ別の世界”だ。


 館の壁には、三つの丸が二段、まるで六つの眼がこちらを覗き込むように、

太い炭の跡でぐるりと描かれている。


斬黒「……間違いねぇ。“あの女”は確かにここへ入った。

   にしても……なんだ、この妙ちきりんな印は。

   呪符か? 封印か? それともただの悪ふざけか?」


 斬黒が眉をひそめると、隣の蛇楽が袖をきゅっとつまんだ。


蛇楽「ね、ねぇ……本当に、入るの……?

   こ、これ……罠だったら……どうするの……?」


 普段は無表情で皮肉ばかりの蛇楽が、斬黒と二人きりのときだけは、

怯えた子供みたいに声を震わせる。


斬黒は薄気味悪い笑みを浮かべ、肩を叩くようにして言った。

「心配するな!お前は外で待ってろ! おいらが様子を見てくる!!」


蛇楽は即座に首を横に振った。

「イヤだ! お前がいなくなったら、私は……!」


斬黒は真剣な眼差しで蛇楽を見つめ返す。

「案ずるな……必ず戻ってくる。

 だが……もし、おいらがまたこの刀に取り込まれちまったら、その時は、お前の力で引き戻してくれ!」


蛇楽は震えながらも強く頷いた。

「……わかった!!!」


斬黒は深呼吸ひとつ、館の重い扉に手をかけた。

軋む音と共に扉が開かれると!!!


闇に沈んだ館の奥から、無数の光が一斉に瞬いた。

それはすべて「目」。

壁から、床から、天井から。

ありとあらゆる場所に、ぎらついた眼光が浮かび上がり、一斉に斬黒を睨みつけたのだ。


斬黒「……っ! こりゃまずい!! 流石にこの数は……手に負えん!」


即座に扉を叩き閉めると、蛇楽に向かって叫んだ。

「逃げるぞ!! 蛇楽!!!」


蛇楽「ぎゃあああああ!! 斬黒ぉぉぉ!!!」


二人は本能のまま一目散に駆け出した。

背後の館からは地を震わせる咆哮と共に、数十体もの鬼が這い出してきた。

涎を垂らし、牙をむき出しにし、まるで飢え狂った獣の群れが獲物を追うように、二人の背を執拗に追い立てる。


斬黒は走りながら振り返り、冷や汗を滲ませた。

「……こいつら……! 獰猛な獣のようじゃ!! まるで、人間の感情が一片も感じられん……!」


夜の森に、足音と叫びと鬼の唸りが重なり響き渡った。


森の闇の中を必死に駆ける二人。

だが次の瞬間!


ガンッ!!


蛇楽の足が石に引っかかり、地面に大きく倒れ込んだ!


斬黒「蛇楽ーーーーーッッ!!!」


振り返った斬黒の目に映ったのは、土埃にまみれ、泣きそうに顔を歪める蛇楽の姿。

迫り来る鬼の群れは、今にも蛇楽を引き裂かんと爪を振り上げていた。


蛇楽は恐怖で震えながらも、次の瞬間、瞳に覚悟を宿す。

「もういい!!!」

「わたしのことは構わず逃げてッッ!!!」


鬼の唸り声と共に、黒い影が蛇楽に飛びかかる!!


だが、その刹那。

邪悪な光を放つ刃が鬼の身体を両断した。


斬黒「……馬鹿野郎がぁぁぁッッ!!!!」


斬黒が血走った目で叫び、迫りくる鬼たちに飛び込む。


「蛇楽!!何ぬかしてやがる!!」

「おいらはな!絶対にお前を見捨てないって、そう言っただろうがッ!!!」


斬黒の刀がうなりを上げ、鬼の群れを切り裂いていく。

黒い鮮血が飛び散り、斬黒の身体を染めながらも、その双眸にはただ蛇楽を守ろうとする炎が宿っていた。


鬼はなおも群れをなして襲いかかる。

だが斬黒は、笑うかのように狂気じみた声を上げ、ただひたすら無数の鬼と渡り合った。


斬黒「くそっ!……この数は、流石に手に負えん!! 蛇楽、手伝えっ!!」


叫ぶ斬黒に応じ、蛇楽は両手で素早く蛇の印を結ぶ。

すると地面が脈動し、そこから幾筋もの淡い光を帯びた“幻蛇”が這い出した。

幻蛇たちは一斉に鬼どもの四肢へ絡みつき、呻き声を上げさせながら動きを封じる。


しかし、抑えきれぬ。次々と溢れる鬼の群れが、なおも牙を剥いて迫り来る。


斬黒「蛇楽! 今のうちだ!!逃げるぞ!!」


斬黒は必死に蛇楽の腕を掴み、よろめく彼女を立ち上がらせると、一気に駆け出した。

鬱蒼とした森を抜け、視界が開けた瞬間、橋のたもとに一人の影が立っている。


綾乃だ!!


彼女の目に映ったのは、血相を変えて逃げる二人。そして、その背後から津波のように押し寄せる無数の鬼。


鬼の爪が蛇楽の背に届こうとした刹那!!

綾乃は迷わず「呪い箱」へと短剣を突き立てた。


二色の光が刃を奔り、箱からは断末魔のごとき悲鳴が響き渡る。

中に渦巻いていた呪詛は悲鳴と共に四散し、黒煙となって掻き消えた。


その瞬間、無数の鬼たちの身体は音を立てて崩れ落ちる。皮膚が剥がれ、肉が砕け、最後には白骨となって散り砕けた!!


綾乃の前に残ったのは、荒い息をつく斬黒と蛇楽、そして静寂だけだった。



ーー帰り道。ーー


鬼の群れを退けたものの、三人の歩みには重苦しい沈黙が続いていた。


やがて斬黒が口を開く。

斬黒「やい!綾乃!!……おめぇ、ちいとはやるじゃねぇか」


その一言に、綾乃の足が止まる。

振り返った彼女の目は鋭く、夜気を切り裂くように斬黒を見た。


綾乃「本当はな!呪詛を孕んだままの箱を持ち帰り、じっくり調べたかったのじゃ!

それを、血の気の多い誰かさんが先走ったせいで、全部台無しじゃ!」


怒りを込めた声とともに、綾乃の視線が突き刺さる。

斬黒は肩をすくめ、頭をかきながら苦笑いを浮かべるしかなかった。


斬黒「す、すまん……」


気まずい沈黙が再び戻る。

蛇楽は二人の間に割って入ることもできず、ただ小さくため息をついた。


こうして、綾乃の“初仕事”は、苦い空気を残したまま幕を閉じた。







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