第三十一話 修行の終わり、獅子丸との別れ(前編)
森の外れ。
広場でじっと待ち続けていた獅子丸は、両手を腰に当て、落ち着かぬ様子で月を見上げていた。
「遅い……!……」
「綾乃!頼むから、生きて帰ってくれ!」
胸の奥に不安が込み上げ、拳を固めたその時。
木立の向こうから、一人の影がゆっくりと姿を現した。
月光を背に浴びた少女。
それは、血に染まった衣をまとい、ふらふらと歩いてくる綾乃だった。
獅子丸は息を呑み、思わず叫んだ。
「綾乃ッ!!」
衣は裂け、腕や脚の無数の切り傷が痛々しかった。
「綾乃!! しっかりしろ!!」
獅子丸は倒れかけそうな綾乃のもとへ駆け寄り震える手で抱きとめる。
その腕の中で、綾乃はかすかに息を吐き、微笑んだ。
「……ただいま。」
その言葉、その笑顔、柔らかくて、美しくて。
獅子丸の目から、堪えていた涙がこぼれ落ちた。
「膳槽様は……救えなかったけれど……」
綾乃はか細い声で続けた。
「でも、その仇は討てた……みんな、お前のおかげじゃ、獅子丸。」
「ぐっ……じゅん……よく頑張った! えらいぞ綾乃!!」
獅子丸は、声を震わせながら、綾乃の頭を不器用に撫でた。
その手は荒く、だが限りなく優しかった。
綾乃は頬を赤らめ、少しむくれて言う。
「わ、わたしは子供ではないぞ!」
「まあ、良いじゃないか!。俺は、ただ……嬉しいんだ!」
そう言って、獅子丸は目から大粒の涙を流しながら、またぎこちなく綾乃の髪を撫でた。
綾乃は少し目を細め、ほんの一瞬だけ.....その手に身を委ねた。
夜風が二人の間を吹き抜け、月は静かに彼女の勝利を祝福していた。
____ _____
五日間、綾乃は獅子丸の看病のもと休養をとった。
気がつくと、あれほど無数の切り傷が、どこにもない。
まるで最初から何もなかったかのように、肌は白く滑らかだった。
獅子丸は、その回復具合を見て、大きな驚きを見せる。
「そうか!!そうだ!これは、俺が薬草を調合して作った秘伝の塗り薬の効果の賜物!!良かったなあ!!感謝しろよ綾乃!」と満面の笑みで胸を張った。
綾乃「ありがとう獅子丸。」
しかし、綾乃はわかっていた。これは銀狐様のご加護だという事が。
その日の夜、綾乃は、獅子丸の小屋にある食材を使って夕飯を作った。
湯気の立つ味噌汁と、炊きたての白米。
囲炉裏の火の向こうで、獅子丸が頬をほころばせる。
獅子丸「綾乃の作る料理は、すごく美味しいなあ!」
綾乃「ふふ、獅子丸の作る料理は“焼いて塩を振る”ばかりじゃ。
それを料理と呼ぶのは、いささか図々しいぞ。」
獅子丸「うん! 今、それがよくわかった!」
屈託のない笑顔でそう言う獅子丸に、綾乃も思わず吹き出した。
その素直さと無邪気さが、どこか憎めないのだ。
しばし静かな時間が流れ、外では鳥の声が響いていた。
やがて、綾乃は箸を置き、ふと真顔になって尋ねる。
綾乃「それにしても……獅子丸は、どうしてこんな山奥で修行などしておるのじゃ?」
炎がぱちりと音を立て、二人の影をゆらめかせた。
獅子丸は箸を止め、視線を遠くの山並みに向けた。
「俺は、伊賀の抜け忍なんだ。伊賀から追われる身、追手から逃れるうちに、誰も信じられなくなって。山奥で一人生きてきた。」
その言葉には、ずっと独りで戦ってきた誇りが滲んでいた。
獅子丸「だがな、森でお前を見つけた時、不思議な安心感があってな。
こいつは、俺を追ってきた刺客ではない、と、直感でわかったんだ。」
綾乃は眉を上げ、軽く首を傾げて返した。
「お前のその“直感”が確かなものなのか?もしも私が刺客であったら、その味噌汁を飲んだ時点で死んでおったぞ」
獅子丸は一瞬たじろぎ、それから屈託のない笑顔を浮かべた。
「うん……たしかにな。ならば、俺の直感も捨てたものではなかったということだな。」
「孤児だった俺は、伊賀の才蔵兄に拾われた。
それからは、兄と共に忍びの修行に明け暮れる日々だった。」
ーーー
才蔵「獅子丸!お前には才能がある!
鍛錬を怠らねば、いずれ伊賀一の忍になれるぞ!」
獅子丸「伊賀一……ですか!?
そしたら、才蔵兄も超えてしまいますね!」
才蔵「なにっ、ぬかしおる!
俺は伊賀一などではない!日の本一の忍びよ!!
俺を目指すなら、今の二倍は修行を積めい!!」
獅子丸「に、二倍っ!?
今でも才蔵兄の訓練は、まるで閻魔様の責め苦のようなのに! たまらんですーーー!!」
才蔵「わはははははっ!!」
才蔵「だがな、獅子丸、忍びの道とは己との戦いじゃ。
泣き言を言う暇があるなら、まず一歩でも前へ進め!」
獅子丸「はい!!」
ーーー
獅子丸(独白)
「……あれから三年。
才蔵兄は、突然俺に別れを告げた。」
ーーー
才蔵「獅子丸。お前とは兄弟のように育ってきたが、それも今日で終わりじゃ。」
獅子丸「な、何を言っている!!」
才蔵「俺は、伊賀を抜ける。
お前はここに残り、忍びの極意を極めろ。」
獅子丸「才蔵兄が郷を抜けるなら、俺も一緒に行く!!」
才蔵「ならぬ!!
抜け忍の末路を、お前も知っておろう。
それに……お前はまだ力不足じゃ。
そんな腕でついて来られては、足手まといになるだけじゃ!」
獅子丸「なにぃっ!!」
(獅子丸、刀を抜き、才蔵に斬りかかる!)
しかし、一瞬で、地に叩き伏せられた。
才蔵「その力で俺を追うな。
……さらばだ、獅子丸。」
(才蔵、霧の中に消える)
ーーー
獅子丸(独白)
「それからの俺は、裏切り者の身内として、伊賀の里の獄中に捕らえられていた。
ある日、郷の長が俺を訪ねて来た。」
郷長「獅子丸!」
「お前が生きる道は一つしかない!」
「真田丸に向かい……義兄・霧隠才蔵の首を取って来い!!」
獅子丸「!!!」
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獅子丸(独白)
「そして俺は、真田丸に向かう途中で、同行する忍を斬り、郷を抜けた。
後で聞いた話じゃが.....その夏、才蔵兄の軍勢は敗れ、兄も行方不明になったという。」
囲炉裏の火が二人の顔を柔らかく照らし、山の夜は再び静かに深まっていった。
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