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封呪戦記 生贄の儀式を目撃し、追われる少女  作者: ムクナ
第一章 生贄の儀式を目撃し、追われる少女
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第二十九話 隼蠋(しゅんぞく)(肆)

挿絵(By みてみん)


隼蠋は満足げにその様子を眺め、まるで獲物の苦悶を楽しむ猛禽のようにほほ笑んだ。

「そして、お前の命もここで尽きる。膳槽の祈りも此処で絶たれるのじゃ!」


だがその嘲りの奥で、綾乃の瞳には新たな光が宿り始めていた――悲嘆のただ中から、報いを求める決意の炎が、静かに揺らめいた。


綾乃は、頬を伝った涙を指先で拭いながら、声を絞り出すように言葉を放つ。最初は嗚咽に濁っていた声が、次第に凛とした鋭さを帯びていった。


「お前が、どれほど醜悪な鬼であろうとも....」

その声は、廃屋の焦げた梁に反射して冷たく響いた。


「お前のその話だけは、私は真だと受け取る!」


綾乃は拳を握りしめ、視線を逸らさずに言い放った。

「膳槽様は、お前たちに“負けて”はいなかった!!」


隼蠋の目がかっと見開かれる。彼の表情に、初めてわずかな苛立ちが走った。

「なにィ……貴様……!」


綾乃は涙を拭い、なおも一歩前に踏み出す。

「だから.....わたしもお前に屈しはせぬ!!」


声は鋭い刃のように森に突き刺さった。隼蠋の周囲の空気がざわめき、闘気が増す。だが綾乃の立ち姿は揺るがず、膳槽の祈祷が遺した“何か”を背にしているかのように、強い光を放っていた。


森の廃墟の前。月が雲間から顔を覗かせ、蒼白な光が二人を照らした。

空気は張り詰め、虫の声すら消えていた。


隼蠋の全身から黒紫の闘気があふれ出し、まるで濃霧のように辺りを覆い尽くす。

「娘よ……貴様の目に映るものが何であろうと、この世は“力”がすべてよ!お前を捻り潰す事など造作もない事じゃ!」

その言葉と同時に、隼蠋の姿がものすごい速さで移動を始めた!!


「!!!早い!」

綾乃が感じ取ったのは、背後から迫る凄まじい殺気。

振り返るより早く、足元の土が炸裂し、隼蠋の刃が風を裂いた。


綾乃は咄嗟に横へ飛び退く。頬を掠めた刃の軌跡に、鋭い痛みが走った。

(……“闘気を視ろ”、恐れるな……!)


夜の森に、凄まじい殺気と斬撃音がこだました。

隼蠋の巨体が縦横無尽に駆け回り、闇を裂いて現れては消える。


「はははっ!!どうした、娘よ!!」

前後左右、さらには頭上からも襲いかかる刃。

刃の軌跡は鋭い閃光のようで、ほんの一瞬でも動きを誤れば、腕も、足も、胴すらも、容易く切断される。


綾乃の袖が裂け、血が飛び散る。太腿に浅い切り傷。肩口には刃の跡が深く刻まれる。

それでも!! 致命傷だけは免れていた。


(くっ……っ! この速さ、普通なら絶対に捉えられない……!)

それでも生き延びているのは、獅子丸との五日間の修行の賜物だった。

闘気を読む感覚。

相手の闘気の僅かな揺らぎを見極める集中力。

それが、綾乃を土壇場で支えていた。


隼蠋は大きく舌打ちをした。

「ほう……お前がここまで立っていられるとは、正直驚いたぞ! だが!!!持ってあと数刻よ!」


隼蠋の言う通り、現実は残酷だった。

綾乃は一太刀も返せていない。

その間にも、腕、肩、脇腹、浅いながらも無数の傷が刻まれ、赤い雫が地を点々と染めていく。

刃風に晒され続けるだけでも体力は削られ、呼吸は次第に重く、膝が震え始めていた。


それに対し、隼蠋はどうだ。

鬼という存在の特性なのか、あるいはこの個体の異常さなのか、

これほどの速度と重さをもった斬撃を繰り返してなお、その動きには微塵の鈍りも見られない。


(ハァッ……ハァッ……! ダメだ、このままじゃ……やられる……!!)


その時だった。

綾乃の胸の奥に、温かな声が響いた。


狐「……綾乃。わたしがお前の足になる。印を組み、わたしを呼び出せ!」


「!!お狐様!?」


綾乃は、血に濡れた指を必死に動かし、迫り来る刃をかわしながら印を組む。

「……狐の……窓……!」


最後に強く息を吹きかけた瞬間、印の中央が淡く揺らぎ、そこから銀色の光がほとばしった。


「……っ!」

光は二筋に分かれ、綾乃の両足へと流れ込む。

まるで足そのものに“魂の炎”が宿ったように、白銀の紋様が浮かび上がった。


綾乃が地を蹴った瞬間、世界が変わった。

「!! 速い……! 前よりも、少しだけ……早く動ける!!」


その感覚は、羽を得たかのようだった。

傷の痛みをも振り切るように、身体が軽い。

刃と刃の隙間を縫うように動き、死の渦を切り抜けることができる。


「ありがとう……お狐様!!」

綾乃の目に再び力が宿った。


隼蠋は目を細め、ニヤリと牙を光らせた。

「ほう……妙な力を得たな、小娘。だが、足が僅かに早くなった程度で、この隼蠋に勝てると思うなよ!!」


二人の気配が、張り詰めた弦のように極限まで研ぎ澄まされていく。

夜気さえ凍りつくかのような静寂の後、隼蠋が咆哮した。


「ぬおおおおおおッ!!!」

刃を二本、両手に握り直し、腕を大きく広げる。

その瞬間、闘気はさらに膨れ上がり、襲いかかる攻撃範囲は倍以上に広がった。


「くっ……!」

右から、左から、頭上から。

鋭い刃が連撃となって襲いかかる。

だが、綾乃の両足には銀の光が宿っていた。

跳躍や後ろ飛びを織り交ぜ、かろうじて回避してゆく。


火花が散り、風圧が髪を裂く。

わずかな遅れがあれば、首も腕も飛ぶ攻撃が延々と続く中、

それでも綾乃は生きていた。

いや、それどころか、次第にその目が、鬼の攻撃を“捉え始めていた”。


(……闘気の軌道が見えてきた……!)


「今後はどうなるの」

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