第ニ十五話 獅子丸(肆)
鬼に追われ、山中で倒れた綾乃を救ったのは若き剣士・獅子丸だった。
彼との修行の日々の中、ついに綾乃の前に刺客の鬼が現れる
獅子丸「お前ほどの大鬼が、このいたいけな娘に手をかけるとは……恥を知れ!」
(両腕を大きく広げ、綾乃をその背に庇う。その姿はまさに獅子王の如く堂々と立ちはだかる)
鬼「戯言を……この娘は我らが狙う“巫女”…! 我が弟を殺した仇ぞ!!」
(牙を剥き、赤黒い殺気が夜の森を覆う)
獅子丸「巫女だろうが、仇だろうが関係ない! 弱きを食らう者よ、この獅子丸が許さん!!」
獅子丸は、その胸の奥で、別の感情もまた燃え上がっていた。
獅子丸(心の声)「フハハハ……来たぞ! ついに来た!!」
(口元に笑みが浮かぶ)
「長き修行の日々……己を磨き、血の滲むような鍛錬を積んできた! この瞬間を待ちわびたのだ!」
鬼「……面白い。貴様の命で、その言葉の重みを試してやろうぞ!!」
鬼が大地を蹴り裂きながら跳躍した。
その巨体が振り下ろす金棒は、まるで雷鳴が落ちるがごとき迫力。
空気が震え、周囲の鳥や獣は恐怖に駆られて一斉に森を離れてゆく。
――ズゥゥゥンッッ!!!
振り下ろされた金棒が地面に叩きつけられた瞬間、轟音と共に地表が裂け、砂煙と衝撃波が四方に奔った。
周囲の大木は次々と根こそぎ薙ぎ倒され、葉や枝が嵐のように宙を舞う。
綾乃はあまりの衝撃に思わず腕で顔を覆い、目をぎゅっと閉じた。
その胸の鼓動は耳をつんざくほどに早まり、恐怖と緊張で全身が硬直する。
だが――そんな中、彼女の耳に届いたのは、あろうことか、楽しげな笑い声だった。
「ワハハハハッ!!」
その声は天地を揺るがす轟音にすら負けぬほど大きく、朗らかに響き渡る。
煙の向こうから現れたのは、土煙を蹴散らし立つ獅子丸の姿。
ほんの紙一重で金棒の軌道を外れ、砂煙の中でなお剣を構えたまま、顔いっぱいに笑みを浮かべている。
獅子丸「素晴らしい! 素晴らしいぞ!! 命と命の駆け引きとは、こうでなくてはな!」
その目は獲物を狙う獅子のごとく爛々と輝き、全身から漲る気迫が炎のように迸っていた。
まるで恐怖など欠片もなく、むしろ歓喜に酔いしれているかのようだ。
綾乃(心の声)「……すごい……!」
鬼「ふざけおってェ!! ならば次は、この腕ごと粉砕してやるわァ!!」
――ズシンッ!
鬼が地を蹴ると、再び大気が震え、衝撃で小石や枯葉が宙を舞う。
そして先程を上回る速さで、金棒が振り下ろされる、その一撃は大地ごと粉砕せんばかりの破壊力!
獅子丸の眼光が一瞬、猛禽のそれのように鋭く光った。
次の刹那、彼の身体は疾風のごとく鬼の間合いに飛び込んでいた。
「――ッ!!」
獅子丸の刀が地を這い、乾いた土を裂きながら走る。
砂塵が舞い上がり、視界を覆うその中で、獅子丸の姿は掻き消える。
厳顔「な……!? 太刀筋が……見えぬ……っ!」
次の瞬間、獅子丸は砂煙を突き破り、龍が昇るがごとく刃を振り上げた!
それは天地を裂く閃光――まさに必殺の昇龍。
「うおおおおおおッッ!!!」
剣閃が鬼の股間から脇腹へ、一直線に駆け上がる。
肉が裂け、瞬間にして鬼の腹を切り裂いた。
厳顔「ぐわわわわわわああああああああッッッ!!!!!」
耳をつんざく絶叫。
裂けた腹からは真紅の血潮が奔流のごとく噴き出し、腸や臓物がどろりと地面に溢れ落ちた。
それは熱気を帯びた鉄臭を放ちながら、黒土の上で生々しく脈動している。
鬼の巨体は前のめりに崩れ、地響きを立てて倒れ込んだ。
大地は揺れ、血と砂塵と腐臭が混ざり合って立ちこめる。
獅子丸はその中心に立ち、刀を振り抜いた姿勢のまま微動だにしない。
瞳はなお爛々と輝き、口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。
綾乃(心の声)
「……す……すごい……! あの大鬼を……たった一太刀で……!!」
恐怖に震えていた胸の鼓動が、今は別の熱で満たされていた。
目の前の獅子丸はただの剣士ではない。
獅子丸は刀を軽く振り払い、滴る血を払い落とすと、堂々と胸を張り、声を響かせた。
獅子丸「見たか幸! これぞ俺の必殺技のひとつ――“霞昇龍切り”だ!!」
その声はまるで勝鬨のように力強く、周囲の森に反響する。
その立ち姿は、とても美しく、戦いを制した獅子のように威風堂々としていた。
地面に伏した厳顔は、裂けた腹からなおも血と臓物を流し続けながら、虚ろな瞳で獅子丸を見据えていた。
その表情には、怒りではなく――どこか晴れやかな諦観があった。
厳顔「……く、くはは……青年よ……」
(血混じりの咳をしながら、かすれた声で言葉を紡ぐ)
「見事な……太刀であったぞ……!」
その言葉は、憎悪に塗れた鬼のものではなかった。
戦士として、同じ命を懸けた者として、心からの称賛だった。
鬼の巨大な腕が、力なく地面に崩れ落ちる。
地響きと共にその体は静止し、角を地に突き立てたまま動かなくなった。
最後にその双眸から光が消えた時――森には、血と鉄の匂いの中で、重苦しい沈黙が訪れた。
綾乃は唇を震わせながらも、はっきりと悟った。
「……この人は……本当に強い……!」
鬼を斃した直後。
獅子丸は血飛沫を浴びたまま、興奮冷めやらぬ眼で振り返った。
獅子丸「どうだ?幸!! 今の斬撃、見事であったろう!?
……ムハハハ! さぞや俺に惚れたに違いない!!!」
彼の瞳は勝利の余韻と自信に燃え、顔中に笑みが広がっている。
綾乃「……っ! わ、私の名は……幸ではない」
綾乃「私は――綾乃じゃ!!」
獅子丸の顔が固まり、目が大きく見開かれた。
獅子丸「な、なにぃぃぃーーーーっ!!!」
天地を震わせるほどの絶叫!
獅子丸「今まで、今まで俺を……騙していたのかぁぁぁ!!!」
綾乃「獅子丸!ごめんなさい!」
そう言って綾乃は、初めて獅子丸に笑顔を見せた。
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