第十五話 鬼と封呪箱(肆)
甚平は奉行所へ応援を求めに走り去った。
綾乃はひとり洞窟へ踏み込み、見張りの鬼を倒して子供たちを救い出す。
だが逃げる途中、鬼たちが“子供の心臓から呪箱を作っている”現場を目撃。
呪箱の危険を悟った綾乃は、それを持ち帰る決意をする。
そして――胸に抱いた瞬間、呪詛が全身を駆け巡った!
胸元にしまった箱から発せられた呪詛が、体の内側を軋む。
蛇に締め上げられるような痛みが全身を這い、息を吸うたびに力が抜けていく。
それでも、綾乃は箱を離さなかった。
そのとき、どこからともなく澄んだ声が降りてきた。耳に届くのは、風でも人でもない——お狐様の声だった。
「その箱の呪術は、まだ不完全です。元々は純真な童の魂の宿った箱。今ならば、呪いだけを取り除くことが可能です。」
綾乃はふらつきながらも、口の中で黒い煙を吐き出し、心で祈りを繋いだ。お狐様への祈り、子供達への祈り、助けを請う小さな祈りを重ねるたびに、胸の中で冷たい影が少しずつ薄れていく。
綾乃の隣で、怯えきっていた子供たちの前に、
ほんの薄い光をまとった、幼い男児の霊がふわりと姿を現した。
白い風のように柔らかく、淡い月明かりを宿したその姿は、
この神社に助けを求めてやって来た、あの男の子の霊、雄太郎だった。
「みんな……怯えているだけじゃダメだ!」
「この人は君たちを助けに来てくれた。いま、呪いと戦ってくれている!
だから、今こそ力を合わせて、この箱の呪いを解くんだ!!」
その声は子供達に直接届かずとも、胸の奥へと温かな光を落とした。
霊感の強い少年が、ぽつりと呟く。
「……雄太郎。あの子の声だ。ボクを庇ってくれた雄太郎が、この人を助けろって言ってる!」
「何か私も聞こえた気が!」
「おらも!」
「この暖かい感覚……雄太郎なのか? おらを庇って、自分が儀式の生贄になった、あの雄太郎が!?」
「そうだ! 雄太郎の願いだ!! みんな、力を貸してくれ!!」
少年は叫ぶように言うと、綾乃にしがみつき、ぎゅっと目を閉じて祈り始めた。
「わたしも!」「僕も!」それをきっかけに、ひとり、またひとりと綾乃に抱きつき、
小さな手を合わせて祈る。
その声は清らかで、眩しいほどに純粋だった。
綾乃の口から吐き出されていた黒い煙が、ゆっくりと淡くなっていく。
闇は薄れ、やがて白銀の吐息へと変わった。
冷たいものが体内を駆け抜け、それは暖かさへと変わり、
胸の奥に戻って、静かに綾乃を満たしていった。
そして、綾乃の懐で固く縮んでいた箱は、
音もなく、重苦しい気配を失い、ただの木箱へと戻った。何の光も、呻きも漏れない、普通の箱だ。綾乃は力尽きたように膝をつき、箱を床に落とした。
「やった! お姉ちゃんを救えた!」
「やったーー!」
子供たちの歓声が洞窟に響いた。互いに抱き合い、涙を流しながら笑う。
だが、その安堵は、長くは続かなかった。
ギィ……ギギギ……。
洞窟の奥から、何かが軋むような音を立てて現れた。
暗闇が揺れ、血のような薄紅の光が岩壁に滲む。
姿を現したのは、両目を失った顎髭の鬼だった。
左目の穴からは血が吹き出し、右の眼球は頰まで垂れ下がっている。
顔は怒りと憎悪に歪み、皮膚は泥と血で覆われていた。
「小娘め……よくも、よくもワシの目を!」
鬼の声は震え、洞窟の石に響き渡る。だが次に、耳を裂くような言葉を吐いた。
「だが娘よ、お前だけははっきりと見えるぞ。お前の白銀の魂の色がお前の姿で動いているのを、我が魂が感じ取っておるからじゃ!」
叫ぶと同時に、鬼は金棒を振りかぶった。
轟音が響き、空気が震える。
ーー避けられない。
そう思った瞬間、綾乃の身体が勝手に動いた。
反射的に身をひねり、背面で一回転する。
金棒が岩壁に激突し、粉塵が爆ぜた。
子供たちの悲鳴が響く中、綾乃は地を蹴った。
鬼の胸元へ手を伸ばし、心臓のあたりを鷲掴みにする。
ードクン。ー
掌の奥から、銀色の光が弾けた。
光は走馬灯のように鬼の体を這い、肉を焼き、骨を白く染めていく。
「ぐああああああああ!!」
断末魔が洞窟を揺らした。
やがて鬼は干からびた骸骨だけを残し、崩れ落ちる。
綾乃は呆然と手を見つめた。
「こ……この力は……!」
綾乃自身も驚きで息を呑んだ。手の中の感触は暖かく、重みがあった。
「箱に封じられていた子供たちの魂が、あなたの身に宿ったのです。」
優しいお狐様の声が、静かに響く。
「彼らの純粋な祈りが、あなたに力を貸したのです。」
綾乃は膝に手をつき、深い呼吸をした。胸の中に宿る白銀の余韻が、ゆっくりと身体を温めていく。周囲を見ると、子供達の顔はまだ恐怖の色を残すが、確かな安堵と好奇が混じっていた。小さな手が綾乃の袖をぎゅっと握る。
「さあ!洞窟を出よう!」
綾乃と子供たちは、荒い息を吐きながら洞窟の出口に向かって走った。
出口から漏れる月明かりが希望の光に見え、全員の胸がわずかに弾んだその時――。
洞窟の口に、ひとりの男の影が立ち塞がっていた。
綾乃「甚平!」
安堵で、思わず声が漏れる!!
影は確かに甚平であった。だが、何か様子がおかしい。
その立ち姿は不自然に揺らぎ、顔色は死人のように青白い。
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