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封呪戦記 生贄の儀式を目撃し、追われる少女  作者: ムクナ
第一章 生贄の儀式を目撃し、追われる少女
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第十三話 鬼と封呪箱(弐)

子供達が囚われているという洞窟へ向かった綾乃と甚平。

入口には、何者かに惨殺された熊の死骸が二体、無残に転がっていた。

甚平は即座に危険を察し、奉行所へ応援を求めに走る。

綾乃はひとり、息を潜めて暗い洞窟の奥へと足を踏み入れた。


挿絵(By みてみん)


ーそしてー


彼女の身は、闇に溶け込むように洞窟の口へと吸い込まれていった。

冷たい風が頬を撫で、湿った岩壁の匂いが鼻を刺す。

背後で甚平の気配が遠のき、彼女はただひとり、深い闇の底へと足を踏み入れていった……。


――ごぅぅ……ひゅぅぅぅ……。


洞窟の奥から吹き抜ける風が、髪を揺らし、衣の袖をはためかせる。

湿った冷気が肌を刺し、まるで亡霊たちが彼女の耳元で囁いているかのようだった。


岩壁はぬめりを帯び、所々に水滴が滴り落ちる。

ぽたり、ぽたり……

その音が洞内に反響し、不気味に何倍にも響いて返ってきた。


綾乃(……胸がざわめく。この奥に“何か”がいる……!)


一歩、また一歩。

足元には、子供のものと思われる草履の跡、小さな泥の足跡が点々と残されていた。

それは奥へ奥へと続いている。


やがて、鼻をつく異臭が漂ってきた。

血と獣臭が混じり合い、さらに、人の腐臭。


綾乃は唇を引き結び、歩みを止めない。

闇の中、彼女の「目」だけが光を帯び、輪郭をくっきりと捉えていた。


そのとき!


洞窟の奥の方で、かすかな声が聞こえた。

「……うう……」

「……お母……さん……」


子供の泣き声だ!


綾乃の心臓が一気に高鳴った。

声は岩壁の曲がり角のさらに奥から漏れてきている。


しかし同時に、

別の「重い気配」が、同じ奥から這い寄るように漂ってきた。

それは人とも獣ともつかぬ、冷たく巨大な存在感。


綾乃(……やはり子供達はここに……けれど、この気配……!)


曲がり角に身を寄せ、息を殺し、そっと覗き込む。


そこには!!


岩壁の広間に、縄で縛られた子供達が十数人、集められていた。

皆、衣は破れ、顔は涙と土で汚れている。

怯えた目で震え、声を押し殺していた。


その正面。

篝火が焚かれ、

巨大な影が3体、背を向けて座っている。

人の姿に似ているが、肩幅は熊のように広く、皮膚は岩のようにごつごつしていた。

背中には、獣の毛皮を縫い合わせたような外套。

腰には、血に濡れた大太刀。


“鬼”だ!!!


綾乃の胸に冷たい恐怖が走る。


綾乃(……今は動けない。子供達の数も多い。この鬼を刺激すれば、全員が……!

せめて、鬼の正体を突き止め、甚平殿に伝えなければ!)


綾乃は岩陰に身を潜め、耳を澄ませた。

鬼達の低く濁った声が洞窟の広間にこだましている。


右の片角が欠けた鬼が、太い指で縄で縛られた子供達を指し示した。

「童の数が、まだまだ足らぬな……」



顎髭を蓄えた鬼が、唾を地に吐き捨てながら吐き捨てるように言った。

「あれだけ殺しても、まだ箱一つにもならんとはのう……まったく、手間のかかる仕事よ」


その言葉に、綾乃の胸がぎゅっと縮む。

(……殺して……箱……? まさか!!子供たちを……!)


闇の中から、もう一体、背丈は成人男性ほどの小柄な鬼が立ち上がる。

リーダー格らしいその鬼は、ギラつく双眸で仲間を射抜いた。


「愚痴を言うな! 親方のお言いつけは絶対じゃ!

この月が終わるまでに、あと二つ!必ず作り上げねばならん!」


「へっ、へい……」


顎髭の鬼は肩をすくめて、へらりと笑う。

「まったく、親方も業の深い御方よのう……。あの“箱”を、いったい何に使うつもりじゃ?」


すると、片角の鬼が周囲を見回し、声を潜めて囁いた。

「聞いた話じゃが、封じられた魂を喰らうことで……永劫の命と力を得るのだと」


その瞬間、綾乃の背筋に、氷の刃のような戦慄が走った。


リーダーの小鬼がにやりと笑う。

「余計な詮索は無用。われら下っ端の務めは、“供物”を揃えることのみじゃ。

……それよりも、次の攫いは、明日の夜。北の村に目を付けておる」


綾乃は岩陰で息を呑んだ。

(……北の村……! このままでは、まだ多くの子供が犠牲になる……!)


その瞬間、子供の一人が堪えきれずにすすり泣いた。

「ひっ……ひっく……」


鬼達の視線が一斉に子供に向けられる。

顎髭の鬼が立ち上がり、腰の刀を抜いた。


「泣くなと言ったはずだぞ……!

声を立てる者は、箱に入る前に、この場で肉にしてくれる!」


子供達は恐怖に震え、声を殺すように必死に口を閉ざした。


綾乃は震える手で袖を握りしめ、胸中で叫ぶ。

(……助けなければ……! だが今は、甚平殿に伝えねばならぬ……!)


ばぎっ!という鈍い音とともに、小鬼の一撃が顎髭の鬼の顎を吹き飛ばした。

顎髭の鬼は仰向けに転がり、地面に激しく叩きつけられる。岩の粉が舞い、周囲に重苦しい沈黙が落ちる。


小鬼は唾を吐き捨てるように顎髭鬼に詰め寄りながら、低く震える声で言い放つ。

「箱の材料にする前に、こやつらに手を出したら、お主をぶち殺すぞ!!!」


顎髭の鬼は呻きながら手を振り、必死に弁解する。

「すまぬ兄者! わしは、ただ泣き止ませるために脅したまでの事じや!」


小鬼は肩をすくめ、蔑んだ目で顎髭鬼を突き放すと、短く命じた。

「我等はケモノをむざぼりに行く。お主は此処で生贄共を見張っておけ!」


その言葉を残して、小鬼ともう一体の鬼は洞窟の暗がりへと足早に去って行った。

靴音は次第に遠ざかり、やがて洞窟の奥に消えた。風だけが ひゅう…… と鳴り、広間は薄暗さと緊張だけを残す。


綾乃はその瞬間、胸の奥で何かがはじけるのを感じた!今しかない。

子供達の痩せた肩、震える唇、広がる恐怖。時間が止まればよいと願う間もなく、綾乃は自分の体を動かした。




顎髭の鬼は、不貞腐れたように洞窟の隅へ腰を下ろし、ぶつぶつと文句を言いながら子供達を見張っていた。

「兄者どもめ……わしの事を、クマも倒せぬ、弱少鬼だとバカにしおってからに!

わしは経験不足なだけじゃ!今にみておれ!強うなって兄者どもをぶちのめしてくれるわ!」


その時だった。

綾乃は気配を殺し、岩陰からするりと身を滑らせるようにして背後へと回り込んだ。

手には冷たい光を宿す短剣。巫女としての使命と、子供達を救わねばという焦りが、胸の奥を焼いていた。


一瞬の隙を逃さず、彼女は短剣を振りかぶり、鬼の首筋めがけて突き立てた。


「ぐきゃあああああっ!」


鋭い感触と同時に、ぶ厚い皮膚を貫く鈍い手応え。

しかし!!鬼の首筋の皮膚は鎧のように分厚く、刃は深く沈み切らなかった。

鮮血は飛び散ったが、致命には程遠い。


顎髭の鬼はがくんと前のめりに倒れかけたが、すぐにぐるりと首をねじるようにして振り返った。

ぎょろりとした眼が、闇の中で不気味に光る。


「今後はどうなるの」

と、もし思って頂けたら、


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