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第6話:引き留める者

自ら命を絶つことを決心した仮名頭(かながしら)リンは、翌日捜査一課に体調不良で休むと連絡を入れた。

リンの欠勤を課長の田代(たしろ)はあっさりと許可した。

自分が必要とされていないことを改めて感じさせられる。

意気消沈したリンは、家政婦の佐古田(さこた)キヨミに気取られないように愛車に乗って家を出た。

(さて、どうしよう)

衝動的に思い立った自死ということもあるが、それ以上にその行為自体が全く未知のものなので何をして良いのかわからないのだ。

(まずは死ぬための手段ね…)

無目的に運転している彼女は、考えをまとめるためにとあるスーパーマーケットの駐車場の一番目立たない位置に車を停めた。

そして、スマートフォンを取り出すと”自殺方法”で検索をかけた。

検索結果のトップに出たのは”こころの健康相談”の電話番号だった。

その他にも自殺を思いとどまらせるのが目的のサイトが多く目に入ってくる。

それだけ自分で命を絶つ人が多いのだろう。

自死を引き留める文字の多さに一瞬躊躇うリン。

(駄目、もっと強い意志を持たなくちゃ!)

しかし、リンの躊躇いは大きくなる。

いつの間にか彼女はチャットを開いていた。

そして、メッセージを飛ばす。

送り先は国分尼寺(こくぶんにじ)ジュンコ、リンの数少ない友人の一人で、リンはジュンコのことを親友だと思っている。

ジュンコはS市駅前にある商業施設内のアパレルショップに勤める女性で、リンとは小学校時代からの付き合いだった。

『ジュンコ元気?』

勤務時間帯だとわかっているが、リンはどうしてもジュンコと会話したかったのだ。

『どうしたのリン?仕事じゃないの?』

数分後、ジュンコから返事が来た。

『ちょっと体調悪くて休んじゃった…仕事中にごめんね』

『そっか。ちょっと今忙しいんだ。ごめん…』

『ううん、大丈夫』

『ねぇリン、体調戻ったら今度休み合う時にランチ行こうよ。良さげなカフェ見つけたんだ!』

『うん、そうだね』

『その時にいっぱい話聞くから』

ジュンコの優しさに目が潤むリン。

『ありがとう。』

『じゃあね!』

『またね』

(ごめん、ジュンコ…次は来ないんだ…)

リンは親友に嘘をついてしまったことを激しく後悔した。


それからリンはどのようにして死ぬか、ひたすらそのことだけを思考した。

リンは車を走らせ、S市から遥か西にある渓谷に辿り着いた。

とうに日が暮れて夜になっており、人影は全くない。

この渓谷は橋が架かっており、橋から地面までは約50メートルの高さがあるため自殺の名所として知られている。

彼女は熟考に熟考を重ねて、橋から身を投げる方法を選択したのだ。

「いよいよだわ…」

リンは車から降りると、自殺防止のために張られた金網を懸命によじ登る。

(そういえばあの化け物、今日はまだ姿を見せてないのか?)

死出への旅に出ようとする刹那に彼女は双のことを考えた。

リンの死イコール人面瘡の死であることから、化け物はリンを制止するために何かしらの妨害をするかと思われたのだが、彼は沈黙を続けている。

人面瘡の沈黙に不気味さを覚えたリンだったが、化け物のせいで自分の未来が閉ざされてしまったことは彼女にとって厳然たる事実だった。

いち早くこの生き地獄から解放されたい。

リンは息を切らしながら金網のてっぺんに着き、跨るように座った。

「さぁ!」

さすがにここまで来て躊躇はない。

彼女はゆっくりとその身を宙へ投げ出した。

「ビギューン!」

聞いたことのない突風の音がリンの耳をつんざく。

そして、間もなく彼女は意識を失った。

その時、リンの左肩に宿る双が姿を現す。

「リンさん!やっぱりか!」

ものの数秒でリンの身体は地面に叩きつけられてしまう。

「間に合え!」

双は目を瞑った。

すると、平面状態だった彼の顔が首元まで露わになった。

さらに、顔の両脇から両手首が露出した。

リンの身体は頭を下にして、あと僅かで地面に激突する。

「ガシィッ!」

それを防いだのは双の両手だった。

双は自分の両手を地面に当てることでリンの身体の衝突を回避したのだった。

「グアッ…!」

落下の衝撃が全て双の両掌にかかる。

加えて渓谷の地面は石だらけだった。

双の両掌はたちまち激痛と共に血塗れになる。

「痛ゥッ!」

すぐに倒れてはリンが怪我をしてしまう。

双はしばらく逆立ちの姿勢を保ち続け、落下の勢いを鎮めてからリンを傷つけないように極めてゆっくりと彼女の身を横たえた。

「良かった…」

双は無傷のリンを認めると安堵の表情を浮かべて目を閉じた。

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