黒い剣士
―――ビシャアッ!!
その男は容赦なく洞窟内の狭い空間で天井ごとオルグどもを鉄の塊のような大剣で一刀両断する。
一撃で数体のオルグが臓物と脳漿を散らす。
そして時間の経過とともにその死体は魔素と呼ばれる黒い粒子となって霧状に消えていく。
この魔素こそが魔法を成立させる元素であり、地上よりもダンジョンや地下迷宮で魔法の効果がより一層強力になる理由でもある。
オルグとは悪魔に魂を売った人間の成れの果て。
悪魔とは本来
光を苦手とし、遺跡や地下迷宮に潜む魔人。
地上を支配するドラゴンやモンスターとは陰陽の間柄であるとされる。
だが、低級の半妖悪魔であるオルグに生産能力はない。
地上に蔓延っては村々を襲い、奪うことで生き永らえる。
だが、村娘を攫って陵辱するとなると村も大金を持って冒険者組合に討伐と救助の依頼をする。
オルグは弱い。
戦士でなくとも村の力自慢が追い払う程度にだ。
新人の冒険者なら誰しもが経験する依頼。
だが、オルグとて経験を積み、戦士を多く食らえば身体も大きくなり、戦闘能力も上がる。
冒険者に魔導師やエルフィンがいれば、魔法や属性のアビリティを継承することもある。
村娘を救助にやってきた新人冒険者はオルグと戦い、負けた。
運が良いのか悪いのか。
新人の冒険者は若い女。健康で体力のある女冒険者をオルグどもが殺して食するわけはない。
弱い自分たちは数を増やすことで弱肉強食の世界を生きていく理論のもとで彼女は殺されずに洞窟の奥に閉じ込められ繁殖に利用される。
鈍重そうな大剣を軽々と竜巻のように振う。
容赦なく、オルグどもに斬撃を食らわし、洞窟内は赤く染まっていく。
「あ、あなたは……?」
剣を奪われ、鎧を剥がされた女冒険者が訊ねる。
身体よりも大きい鉄の塊のような大剣。
本来は黒い鎧と思われる塗装の剥げた鎧。
鎧の胸元に小さく光る認識票の色……
色はスレイヤーの階級を示すもので、白青黄緑赤の5ランクに分かれるのだが、黒い剣士の胸元には虹色の認識票が輝く。
そして魔人のような真紅の瞳…。
黒い剣士は雑嚢から取り出した回復の水薬の小瓶を取り出すと女冒険者に差し出した。
「俺に名はない。ただ、この剣がドラゴンスレイヤーと……」
短と一言。
だが、彼女にとって目の前の鉄塊と黒い剣士であれば、ドラゴンすら屠ると確信できた。