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6. 制圧

青石と別れて正面の入り口に走り、ドアを蹴破って中へ入る。


4人の警備らしき人間が驚きながらも、状況を理解しこちらへ攻撃を仕掛けてくる、が遅い。



左手前の1人に魔術を発動する間も与えず、ナイフを心臓に突き刺す。


意識を失った警備は後ろにいた警備を巻き込み吹き飛び、吹き飛ばされた警備は魔術の発動に失敗する。



残りの2人が発動したであろう魔術により、右側から火と雷が矢の如くこちらへ襲いかかるが、どうも威力がしょぼい。


避けてもいいが避けるほどではない。魔術を無視してそのまま突っ込むことにする。



体に纏った魔力が魔術を弾くのを感じつつ、残りの警備に対しても同様にナイフで無力化する。


そして、最初に吹き飛ばされた警備の下敷きになっていた警備が起き上がろうとしていたので、改めてナイフで寝かしつける。



周りを見渡すと警備らしきこちらへ向かってくる人間はもういない。


魔力を飛ばして建物を探知すると魔術師らしき反応はもうない。



そのまま奥に進むと内部構造は1Fだけで特に仕切りもなく、製造用と思わしき機械が複数並んでいる。


残りも片付けようと思ったが、左から突入した青石により既に全員氷漬けにされて既に行動不能になっていた。



もう敵はいなさそうなので、青石の方へ歩いて向かう。


向こうも拘束後に一通りナイフで無力化したようで、2人ほど床に転がっていた。



「お疲れ。」


「お疲れ様です。」


「流石だな。特に問題ないか?」


「はい、問題ありません。大した相手ではなかったので。」


「だな。さて…。」



工場の奥隅に目をやる。


そこには作業員と思われる10名程の人間が怯えながら固まっていた。


近づいてから声を掛ける。



「暴れなければこちらからは危害は加えない。しばらく大人しくしててくれ。」



中にいた人間の対処は終わったので次は作業台と思われる机に目をやる。


そこには作り掛けと思われる、魔晶石がはめられていない術具が複数置かれていた。



「当たりでよかったですね。」


「ああ。米田さんに連絡しておくか。」



スマホを取り出して、米田さんに電話をかける。



「お疲れ様です。工場は制圧終わりました。中には音堀含めて魔術師7人と一般人10人でした。大した事なかったので、恐らく2級か3級レベルばかりです。無力化しましたので応援お願いします。」


「腕が大した事ないにしても数が多いな…。わかった。そっちにも部隊を向かわせる。あと警察もな。魔術師達はうちの部隊が引き取るから、警察にはそう言っておいてくれ。」


「了解です。ありがとうございます。では。」




シャッターの所で気絶していた音堀と警備と思われる魔術師8人は中央部分に集め、その後近くに置いてあった椅子に腰を掛けた。


作業員と思われる一般人達も不安そうな顔で工場の奥隅で座り、その様子を監視しつつしばらくの間応援が来るのをじっと待つ。



途中、応援が来たかと思ったら通報を受けて来たパトカーだったというトラブルもあったが、警察官に協会の人間であることを示して納得してもらった。


一般人もいるので恐らく警察にも話が行っていると思われることを伝え、確認してもらった結果、現在別のパトカーもここで向かっているらしい。



複数台のパトカーが到着して魔術師はうちで直接引き取ることを伝えると、工場の中にいた一般人達を連れて警察は帰っていった。



そろそろ昼時が近づいたあたりで、数台のバンが工場の前にある駐車用のスペースに停まる。


そしてバンからは、20人ほどの戦闘服に身を包んだ人間が降りてきた。



蹴り飛ばしたおかげで開放的になった正面の扉から応援を迎えるために出ると、その中でもひときわ目立つ日焼けした大男がこちらへ歩いてくる。



「岩盾さん、お疲れ様です。」



岩盾 豪之亮、35歳、190近い身長を誇る大男で鍛え上げた筋肉が頼もしい人だ。


性格は豪快ながら気遣いも上手であり、下からも慕われている関東の即応部隊の部隊長だ。



「おう!久しぶりだな!天沢も変わらず元気そうでなによりだ!」


「岩盾さんも変わりませんね。状況ですが、出入り口は建物の左と正面だけで窓は目張りされてます。魔術師は無力化して中央に集めていて、一般人は奥隅に固まってます。」


「わかった。舘水!分隊で魔術師を連行しろ!立石の班は左の入り口を塞げ!残りは俺と正面だ!」



岩盾の指示と共に全員がキビキビと動き出した。



「後から開発部の人間が来て調査するらしいからここは俺等が引き継ぐ。後は任せてくれていいぞ。」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせてもらいます。」



岩盾さんに挨拶してからその場を離れて青石と車に戻る。



「さてどうするか。」


「倉庫の方も見に行きますか?」


「いや、どうなったかはわからないが別に連絡ないならそのまま任せていいだろ。」


「音堀は拘束しましたし、倉庫と工場はもう抑えました。あとは…会社はどうなんでしょうね。」


「そう言えばそうだな。聞いてみるか。」



困った時の米田さんで本日3回目の電話を掛ける。



「音堀が雇われてた会社?既に部隊送ったぞ。」


「さすがですね。」


「社長の峯ヶ原には逃げられたがな。」


「探しますか?」


「いや、警察が探してるから今はいい。それより、1つ問題があってな。」


「なんですか?」


「この前捕まえた緑口って子供が何も喋らないんだよ。」


「はぁ。」


「緑口が『先生』って呼んでた奴が術具の製造に深い部分で関わってると俺等は見ている。もしかしたら黒幕もこいつかもしれない。」


「その可能性はありますね。」


「だから喋るよう説得してくれないか?」


「ええ…。専門の人に頼んでくださいよそんなの。」


「一番のベテランに担当させたがだめだったんだよ!完全に心を閉じてるから、今は繋がりがある人間じゃないと難しいとさ。」


「いや俺も繋がりないですよ。」


「命を助けただろ!命の恩人だぞ!」


「捕まえられた人間がそう思いますかね…。」


「とにかく!ダメ元でもいいからやってみてくれ!」


「米田さんがそこまで言うならやるだけやってもいいですけど。失敗しても文句言わないでくださいよ。」


「よし!文句なんて言う訳ないだろ。緑口は今鑑別所にいる。こっち戻ってきたら日程調整するから連絡してくれ。」


「了解です。というかもう戻って大丈夫です?工場も倉庫も別部隊に任せたのでやる事ないんですが。」


「いいんじゃねえかな。一応久保田さんに確認するからまた連絡するわ。」


「よろしくお願いします。」



結局もうやる事はなかったのでその日はそのままホテルに泊まって体を休めて、次の日に東京に戻った。


そして数日後。







今日は青石と共に少年鑑別所まで来ていた。


少年鑑別所は全国に設置されているが、ここは他の場所とは少し事情が異なる。


それは魔術師専用の施設であるという点だ。



そのため、管理は協会であり、職員なども全て協会の人間である。


魔術を使えないように特殊な腕輪型の拘束具がつけられていること以外は他の少年鑑別所と変わりはない。



もちろん目的は緑口への取調べである。


本当に憂鬱だが仕事なので仕方ない。



鑑別所に到着したら受付へ向かう。


受付で身分証を見せ、用件を伝えると職員が今日のために用意された部屋に案内してくれた。



案内された部屋に入るとそこはテーブルと椅子だけが置かれている寂しげな部屋であった。


奥側に椅子が1つ、手前に2つ置かれていたため、手前の椅子に座って緑口を待つ。



しばらくすると3人の人間が部屋に入ってくる。


職員が2人、そして俯いたまま暗い顔をしている緑口。



「お疲れ様です。少年をお連れしました。私達は外で待っていますので何かあればお声掛けください。」


「お疲れ様です。承知しました。」



監視役が少年を椅子に腰掛けさせて外に出るのを見届ける。


部屋が3人だけになったのを見計らい緑口に声を掛ける。



「あー、体は問題ないか?」


「…。」


「もしよかったら『先生』とやらについて教えて欲しいんだが。」


「…。」


「今日は天気がいい。外で話すか?」


「…。」



だめだこりゃ。何を言っても反応がない。


静寂が場を支配する。



「私が話してみても?」


「いいぞ。俺では無理そうだ。」



青石が緑口に向き合い声を掛ける。



「こんにちわ。お姉さんは青石 美月って言うの。緑口くん、君の名前は?」


「…。」


「君のことを知りたいからいくつか質問をするけど答えるのが嫌だったら嫌って言ってくれればいいからね。」


「…。」


「今日の昼ご飯は何を食べた?君の好きな食べ物が出たりした?」


「…。」


「君は何をするのが好き?何かしたいことはある?」


「…。」



再び部屋が静まり返る。



「すいません、ダメそうです。」


「そうか…。まあしょうがないな。」



外にいた職員を呼び緑口を部屋に戻してもらう。


1人が緑口を連れて行ったのを見届けてから、もう1人の職員が自分達を外へ案内してくれた。


道中、職員がこちらに話しかけてくる。



「緑口くんの様子はどうでしたか?」


「声を掛けても何も応答がありませんでした。」


「そうでしたか…。私達から声を掛けても同じなんですよ…。」


「食事はとっているのですか?」


「ええ、ご飯はちゃんと食べてくれますね。」


「そうですか。なら私にできることは時間が解決してくれることを祈るくらいですね。」


「ただ、あの子は14歳なんですよ。その時間が与えられるかどうか…。犯した罪の重さと被害者のことを考えるとその時間を与えてやってくれとは言えませんが…。」


「…家庭裁判所の審判を待つしかないでしょう。専門家でない私にはこれ以上は言えません。」


「そうですよね、すいません。」


「いえ、こちらこそ軽率なことを言ってしまい申し訳ありません。」



門まで案内してもらい挨拶してから少年鑑別所を後にする。



「疲れた。安請け合いするもんじゃなかったな。」


「…大丈夫ですか?」


「ああ。こういうのは精神的に疲れるが、問題ない。もうちょっと単純な事件だったらよかっ…いや犯罪だから結局よくはないか。」


「審判どうなるんでしょうね。」


「年齢とか精神状態とか事件の重大性とか本人の能力とか色々ありすぎて本当にわからん。上と裁判官の判断次第だな。」


「そうですか…。」


「ま、こういうのは気にしてもしょうがないから切り替えよう。俺は昼食べてないからこの辺りで食べて帰る。青石も昼食べてなかったら来るか?」


「私もまだですけどいきなり昼食の話ですか…。はぁ。まあいいです。何食べるんですか?」


「海鮮丼だ。この辺りはたまに仕事で来るんだが毎回行ってる店があるんだよ。最後に出汁茶漬けにしてくれるんだがそれが美味い。」


「へぇ。じゃあ行きましょうか。」


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