4. 音堀祐丞の仕事
現地の駅に到着すると、多くのテナントが入っている巨大な駅ビルが出迎えてくれた。
時計を見るともう夜であり、勤め人が帰宅する時間はとっくに過ぎていた。
「もう時間も遅い。今日は適当に飯食べてホテルで休もう。」
「はい。」
食事は駅ビルに入っているチェーン店で手短にすませた。
そして、ホテルでチェックインしてから明日のことについて伝えておく。
「俺は明日使う車だけ借りてくる。明日は悪いが朝5時にフロントな。」
「構いませんが早いですね。何かあるので?」
「仕込みがあるからな。まあ、また明日話すよ。」
「?よくわかりませんが了解です。」
その後、レンタカーを借りてホテルの隣のコインパーキングに車を停めてから、ホテルの部屋に戻って体を休めた。
翌朝。
「おはようございます。」
「おはよう。じゃあ行くか。」
「音堀の家へ?」
「ああ。さっさとすませて朝飯を食べよう。」
昨日借りておいたレンタカーに乗り込み、音堀の家まで車を走らせる。
駅からそう遠くない場所にある音堀のマンションに着き、音堀の部屋のドアが見える場所に車を停める。
「結局仕込みってなんですか?」
「GPSだ。今から車に仕込みに行く。」
「この時間であれば気づかれずに仕込めると?」
「たぶん大丈夫だ・・・と思う。マンションの駐車場は露天で仕込む事自体は問題ない。まだカーテンも閉まってるから大丈夫だと思うがもし出てきたら教えてくれ。」
「了解しました。」
インカムを着けてGPSを持って準備を整えてから車の外に出る。
まだ日が出始めたばかりのこの時間、幸いなことに駐車場に人はいない。
昨日確認した車種とナンバープレートを頼りに音堀の車を探す。
すると駐車場の手前から8台目に目当ての車種を見つける。ナンバープレートも確認したが間違いない。
音堀の部屋を伺いカーテンが閉まっていることを確認してから、かがんで車のバンパー裏にGPSを付ける。
やることが終われば長居は無用だ。足早に車に戻り、車のドアを閉じて一息つく。
「ふう。朝早く来たかいがあったな。」
「この後はどうします?」
「近くの喫茶店がもう少ししたら開くから朝飯でも食べよう。」
少しだけ車を走らせ、全国チェーン展開している喫茶店へ向かい、開店してから店内に入り飲み物と食べ物を注文して朝食を取る。
「拠点を見つけたらどうします?」
「拠点が1箇所とは限らないからしばらく泳がせたい。怪しい場所があれば写真取って位置情報と共に本部に連絡しておこう。」
朝食を食べ終えて適当に追加注文しつつ、動きがないGPS信号をPCで確認しつつ時間を潰すこと数時間、ようやく信号が動き出す。
「お、動いたな。追うか。」
「やっとですか。行きましょう。」
会計を済ませて店を出て、車に乗り込み信号を追うように車を走らせる。
青石にPCでナビゲートしてもらいながら追うと、1時間もしないうちに信号がとある場所で停止した。
信号が停止した地点へ車で向かうとそこには一見何の変哲も無い工場が存在していた。
駅からは離れているが周りには普通に民家やスーパー、ドラッグストア、企業のオフィスなどが存在しており、とてもではないが犯罪者向けの術具を生産している施設には見えない。
工場を通り過ぎてから、斜め前にあったスーパーの駐車場に車を停めさせてもらう。
工場が見える位置に車を駐車してからカメラを取り出し、工場の写真何枚か撮影する。
「うーん、外からは怪しそうな雰囲気はないな。」
「見た目は普通の街工場って感じですね。」
しばらく車内で待っていると音堀が工場から出てきた。
脇には小さめの段ボールを抱えている。
「なんでしょうかね、あれ。」
「見た目からはわからんな。」
スーツを着た音堀が車に乗り込むまでを捉えた写真を撮影しながら青石のつぶやきに答える。
そしてそのまま音堀が工場から車で走り去るのを見送った。
「少し時間を置いてから俺等も行くか。」
その後、音堀は街中のビルや住宅街にあるマンションなど何ヶ所かの場所に立ち寄っていた。
中で何をしていたのかは残念ながら不明だ。
陽も落ちて繁華街がサラリーマンで賑わい出した頃、音堀は車を止めて街中のとあるバーに入っていった。
「ただ見張るだけというのもなかなかしんどいですね。」
「気疲れするし、地味な仕事だからな。」
「ずっと色々な場所を回ってたようですけど何してたんでしょう。」
「工場で生産した物の取引かもしれん。ただ部屋の中までは覗けないからわからん。写真とGPSのログは後で協会のシステムにアップロードするから本部の調査に期待しよう。」
「できれば早めに…あれ、音堀がバーからもう出てきましたね。」
「仕事は終わったのかと思ったがあそこも取引先なのか。」
結局音堀はそのまま車に再び乗ってから、途中スーパーに立ち寄ったのみで、大人しく自宅へ帰宅していた。
「今日は終わりだな。写真とGPSのログも今さっきアップロードした。あとはこっちの夕食どうするか。何か希望は?」
「いえ、特には。」
「じゃあ…たしかホテルの近くに中華の店があったはずだ。そこでいいか?」
「中華ですか、いいですね。」
ホテルに戻り、店に向かう。
店内はかなり賑わっていたが幸い席は空いていたためスムーズに入れた。
席について店員に飲み物と第一陣を注文してから一息つく。
「ふう。とりあえず今日は無事に終われたな。」
「明日も同じですか?」
「急ぎと言われているが他に拠点がないか探すためにも一応ある程度は様子見したほうがいいだろう。今週はそうするつもりだ。」
「仕方ありませんか。」
「まあ明日の仕事のことは明日考えよう。おっ、来たか。」
2人分の飲み物とお通しの肉団子と春雨のスープが到着したので、グラスを合わせる。
花椒が効いた本格的な麻婆豆腐に地元のブランド豚を利用したスペアリブ、点心、カニ玉などなど、この日は中華を思う存分楽しんだ。