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4. 元従業員達

市内中心部から10分ほど車を走らせた所に、大月が住んでいるマンションがあった。


マンションの近くにあったコインパーキングに車を止めてマンションまで歩く。



大月は1人暮らしをしている28歳の女性で、3年前から働いているらしい。


マンションはオートロック付きで新築とまでは言わないが綺麗な外観をしている。



エントランスで大月の部屋番号を押して呼び出す。


少し待つと幸い家に居たようで、インターホンから若い女性の声が聞こえた。



「は~い。」


「魔術師協会の天沢と申します。ジュエリー元矢で起きた強盗事件の捜査をしてまして少しお話を伺いたいのですが今お時間よろしいでしょうか。」


「えっ。わかりました。今開けます。」


「ありがとうございます。」



エントランスのドアを抜け、エレベーターで大月の部屋がある階まで上がり、部屋の前のインターホンを鳴らす。


まだ暑さの残るこの時期に合わせた、カジュアルな服装をした女性が姿を見せた。



「お忙しい所申し訳ありません。私が天沢で、こちらが青石といいます。今お時間大丈夫でしたか?」


「はい、大丈夫ですよ。けど事件の日は私休んでてよくわからないのですが…。」


「事件そのものではなくジュエリー元矢のことでお聞きしたく伺いました。大月さんはあの店に3年ほどの勤めていたと聞いていますが、元矢さんってどんな方でしたか?」


「元矢さんはー、んー、そこまで仲が良かった訳じゃないですけどいい人でしたよ。出張で店にいないことも多かったですけど、店にいる時にお客さんが無茶なこと言ってきて困ってたら助けてくれましたし。あと奥さんも美人で理想の夫婦って感じでしたね~。子供達の写真も見せてもらったんですけど両親に似てて可愛いかったな~。」


「元矢さんに最近トラブルがあったような話は噂でもいいのですが聞いていたりしませんか?例えば副業で問題があったとか特定の人とトラブルになったとかでもいいんですが。」


「えっ、元矢さん副業もしてたんです?特にトラブルなんて聞いてないですけど…。ただの強盗事件じゃないんですか?」


「いえ、色々な可能性を考慮して捜査しているだけです。」


「はぁ。」


「従業員や元従業員で元矢さんと親しかった方はご存知ないですか?」


「うーん、ベテランさんでも特に親しかったって人はいなかったと思います。でも私って入って3年くらいなので、一昨年だったかに辞めた岩清水さんとか10年以上働いてましたし、もっと長く勤めてた人のほうがきっと詳しいですよ。」


「なるほど。ありがとうございます。」



青石から目配せされるも、特にこれ以上聞きたいことは自分もないのでここで会話を打ち切る。



「ではアドバイスいただいたように別の方にお話を伺ってみようかと思います。お忙しい所お時間ありがとうございました。」



大月のマンションを出て車に戻る。



「結構近いし先に岩清水の所行くか。」


「一応ここからだと岩清水より家が近い人もいますけど、勤続年数は大月と変わらない人ばかりですね。そうしましょう。」



岩清水誠子は62歳の専業主婦だ。今は子供が独立したため、一軒家に夫と2人で暮らしているらしい。


車で岩清水の家まで移動し、玄関のインターホンを鳴らす。


家はよく言えば穏やかな佇まいの家、飾らずに言えばごく普通の一般的な一軒家と言える家であった。



インターホンを鳴らして、玄関の前で待っていると岩清水が出てきた。



「はいはい、どちら様でしょうか。」


「魔術師協会から来ました。私が天沢で、こちらが青石といいます。ジュエリー元矢で起きた強盗事件の捜査をしてまして、お話を伺わせていただけますでしょうか。」


「あら、協会の人!それはご苦労様ねぇ。よろしければ中でお茶でも出しましょうか。」


「いえ、そこまで込み入った話ではないですのでお構いなく。」


「そう?」


「岩清水さんは一昨年の3月にジュエリー元矢を辞められたと聞いています。よろしければ辞めた理由を伺っても?」


「構いませんよ。辞めた理由はこの間ようやく下の息子が大学を卒業して独り立ちしましてね。子供が独り立ちするまでは頑張ろうと思っていたんですが、無事独り立ちしてくれたのでそろそろいいかなと主人とも話しまして。」


「それはおめでとうございます。ちなみに岩清水さんは元矢さんとは親しかったんでしょうか?」


「長い間働いて仕事ではよくお世話になったけども、それ以外の付き合いはないわねぇ。」


「勤めていた時のことでいいのですが、元矢さんが仕事以外のトラブルを抱えてたような話を聞いたことはありますか?」


「もしかして普通の強盗じゃなくて何か裏があったの!?」


「いえ、様々な観点から調べているだけですよ。」


「ふーん、怪しいわねぇ。…トラブルって訳じゃないけど、昔働いてた淀口って子は何かありそうだったわ。」


「何かとは?」


「詳しくはわからないけど、元矢さんと色んな意味で親しかったのかもしれないわね。ふふっ。」


「何故気づかれたのですか?」


「女の勘よ!女の勘!具体的に何があったという訳じゃないんだけど、休みが定期的に出張と被ってたり、店ではそっけなくしてたみたいだけど元矢さんの態度が怪しかったり、他にも色々あってピンと来たの!その子が辞めた後に同僚の人とも話したけどみんな同じことを思ってたわ。あなたも結婚してから直感的に旦那がおかしいと思ったらよく調べたほうがいいわよ。そういう勘ってだいたい当たってるのよねぇ。」


「覚えておきます。ちなみに元矢さんが何か副業をされていたとかそういった話は聞いたことありますか?」


「副業?私は聞いたことないわね。」


「そうでしたか。」



その後は世間話に巻き込まれそうになったが、話を断ち切るように礼を述べてその場を立ち去ることができた。



「次は淀口の所ですね。」


「幸い住所はそこまで離れてない。さっさと行って終わらせよう。」



リストから淀口麗の住所を探して家に向かう。


現地につくとそこは天高くそびえ立つ綺羅びやかなタワーマンションであった。


高層階からは市街を一望できるこのマンションはデータによると2年前に建築されたばかりらしい。



「淀口はここに1人で住んでるのか。」


「親が資産家なんでしょうか?」


「元矢の持ち物だったりしてな。とりあえず行ってみよう。」



エントランスでインターホンを鳴らすと気怠げな声で返事が返ってくる。



「誰?」


「魔術師協会の天沢と申します。ジュエリー元矢で起きた強盗事件の捜査をしてまして少しお話を伺わせていただけますでしょうか。」


「私忙しいんだけど。」


「お時間は取らせませんので。」


「…入って。」



ドアが開いて先へ進み、エレベーターで淀口が住む17階へ上がる。


道中、ロビーにおいてあるソファや観葉植物、広々としたエントランスホールなど随所からまるで高級ホテルの如く洗練された印象を受けた。



不動産には詳しくないが市内中心部でこれだと億近かったりするんじゃないだろうか。


一応後で調べてもらうか。



そうこう考えているうちにエレベーターは目的の階に到着した。



淀口の部屋の前まで行き、インターホンを鳴らす。


シックで落ち着いた色調の廊下で待っていると、高級感溢れる木目調の扉が開けられる。



上下ジャージで靴はサンダルという出で立ちで、目鼻立ちがはっきりした若い美人が扉から顔を見せていた。



「聞きたいことって何?」


「お忙しい所すいません。私が天沢で、こちらが青石といいます。元矢さんが仕事でトラブルを抱えてなかったか調べていまして。例えば副業をやっててトラブルがあった、とか特定の人とトラブルがあったなど何かご存知ないでしょうか。」


「知らない。5年も前に半年ちょっと勤めてただけなのに店の事情なんて知ってる訳ないでしょ。」


「元矢さんと関係があったとお聞きしましたが?」


「そうだけどそれで?大人には色々あるのよ。地味女。」



いきなりの地味女呼ばわりに青石が驚いている間にも淀口は喋り続ける。



「あいつから別れる時に押し付けられた金を投資に使ったら働く必要なくなったのは感謝してるけど、もう何もかも終わった話よ。で、もういい?裏で人でも殺してそうな根暗男と何も知らない地味女を見るのも飽きたわ。」


「…わかりました。お忙しい所ありがとうございました。」



扉が閉ざされ、廊下には何かを訴えるような強い視線をこちら向ける青石と自分が残された。



「まあ、任意なんだからしょうがないだろ。帰ろう。」


「怪しくないですか?」


「金回り含めて米田さんに調べてもらうさ。徹底的にな。」


「…ならいいですけど。」



その後は気分転換に適当に近くの洋食屋でランチを食べてから、夜まで他の元従業員達の家を回ったがたいした成果はなかった。


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