3. 派手な逃走劇
草木も眠りについた真夜中、着信音が部屋に鳴り響き目が覚める。
寝ぼけた頭で部屋の照明をつけてから電話に出る。
「県警の深山です。夜中に申し訳ありません。事件について緊急のご連絡です。」
「何かありましたか?」
「被害にあった宝石店のオーナーである元矢の家に強盗が入りました。現在被疑者が乗っている車両を特定して追跡中ですが、接近していた警察車両が何らかの力で吹き飛ばされたと現場から報告が上がっています。」
「魔術で物を吹き飛ばしていた可能性があると。」
「警察車両が吹き飛ばされた現場付近の魔力の痕跡が風浪のものと一致しました。うちは通常ですと緊急時は名古屋から部隊が来ますがどうしても時間がかかります。お力添えいただけないでしょうか。」
「事情はわかりました。青石も起こして準備します。」
「ありがとうございます!迎えに伺いますので宿泊先のホテルを教えていただけますか。」
深山に宿泊先のホテル名を伝え、準備のため電話を終える。
全く関係ないならともかくこれは断れない。
ベッドから起き出して、青石の携帯に電話を掛ける。
しばらくコール音が鳴り続け、出ないかとも思ったが繋がり、一瞬間が空いてから青石の声が電話から聞こえてきた。
「こんな夜中にどうしました?」
「悪いな。元矢の家に強盗が入っていま警察が追ってるらしい。で逃亡中に使った魔術からそいつが風浪かもしれない、ということで支援要請がこっちに来た。今から警察がホテルに迎えに来る。悪いがなるべく早めに出る準備してくれ。」
「・・・わかりました。急ぎます。」
電話が切れてから、こちらも急いで準備する。
顔だけ洗いスーツを着て、最低限の準備だけしてホテル入り口まで降りる。
夜になると外は少し涼しい。
深山はまだ来ていないようで、待つ間に近くの自販機で眠気覚ましに缶コーヒーを購入する。
外でコーヒーを飲みながら待っていると青石もやってきた。
「お待たせしました。」
「迎えはまだ来てないから大丈夫だ。ほれコーヒー。」
「ありがとうございます。」
「風浪も夜遅くに迷惑な奴だな。」
「今更でしょう。」
「そうだな。お、迎えが来たか。」
前方からパトカーがやってくる。
ホテルの前に止まり、運転席のドアを開けて男が1人降りてきた。
「天沢さんと青石さんでしょうか。県警の深山と申します。」
「どうも、天沢です。」
「青石です。」
「今回は夜分遅くに申し訳ありません。」
「仕事ですからお気にせず。それより急ぎましょう。また逃げられると面倒なので。」
「それもそうですね。後ろにどうぞ。運転しながら状況をご説明します。」
パトカーに乗り込み、説明を聞きつつ風浪が逃げている現場へ向かう。
「現在犯人達は浜松方面に逃走中です。現在システムで追跡し、ヘリや警察車両は攻撃が来ない距離から監視に徹させています。」
「逃走車両に乗っている人数はわかりますか?」
「正確な人数は不明です。」
「検問などは?」
「逃走ルートを封鎖しても被害が増えるだけと判断し追跡のみに留めています。」
「承知しました。ある程度近くまで行ってもらえればあとはこちらで止めますよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
しばらく車に揺られているとサイレンを鳴らして走るパトカーが前方に見えてくる。
「見えてきました。現在被疑者はあの先です。」
道が曲がりくねっており風浪が乗っているかもしれないという車両の姿は見えないが、警察がいると言っているからいるのだろう。
「適当な所で降ろしてもらえますか。」
「承知しました。」
車を使うより走って被疑者に近づいたほうが早い。
そう判断し、路肩に止まってもらい青石と共に降りる。
「青石、近づいたら車を止めてくれ。生きたまま捕まえたいからなるべく殺さないように頼む。」
「了解しました。」
「では深山さん、終わったら連絡します。じゃあ行くか。」
地面を蹴り、前に駆け出そうとしたその時、前方から爆発音と思わしき轟音が響き、闇夜を切り裂く強烈な光が目に入った。
「!?」
急いで逃走車両の所まで走る。
前を走っていたパトカーの横を抜けてすぐに逃走車両に追い付くも、そこでは中にいた人間諸共呑み込んだ轟々と燃え盛る炎が舞い踊っていた。
あの後、青石が炎を鎮火させ、残された黒焦げの遺体や車両の捜査と周辺の捜索は警察に任せることになった。
俺達はそのまま当初予定していた県内に住所があった犯人グループ2人の確保に同行したが、案の定非魔術師であり警察の背後で見ているだけで無事確保は完了した。
そして、午前の間になんとかホテルまで戻ってこれた。
「夜中に叩き起こされる仕事はさすがに堪えるな。青石、どうせやることもないから今日は休んでていい。」
「風浪はまだ生きてると思いますか?」
「その可能性はあるんじゃないか。さすがにタイミングが良すぎる。爆発もやたら派手だったしな。」
「ですか。明日からに備えて寝てきます。お疲れ様でした。」
「お疲れ。」
次の朝、ホテルのレストランで朝食を食べていると青石も降りて来て、ビュッフェを盛り付けた皿をお盆に乗せて自分が座っていた席の空いていた対面に座った。
「おはようございます。」
「おはよう。昨日は休めたか?」
「はい。充分寝れました。」
「ならよかった。今日の予定だが、昨日の夕方に連絡があった。車が必要だからまずレンタカー借りに行こう。詳しくは車内で話す。」
食事を終え、ホテルを出てレンタカーを借りた後は適当に近くのコンビニに車を止めてから話し始めた。
「昨日米田さんから電話が来てな。」
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昨日、ホテルにて。
「米田だ。寝てたならすまん。今大丈夫か?」
「お疲れ様です。起きてたので大丈夫ですよ。」
「そうか、ならよかった。警察から3つ報告があった。まず1つ目だが今朝炎上した逃走車両について、付近を捜索したが風浪は見つからなかった。ただ、爆発直後に爆発現場から2kmほど離れた地点で海から上がってきた人間がバイクで走り去る様子が防犯カメラに映っていた。」
「やはり生きてましたか。」
「映像からは本人と確認は取れてないが恐らくそうだろうな。で、2つ目だが強盗で死んだ宝石店のオーナーであった元矢についてだ。どうもこいつは故買屋もやってたらしい。自宅の強盗事件を捜査した際に、商品は全て盗まれてたが裏の帳簿が見つかった。」
「盗品も扱ってたと?」
「ああ。表の商売とはさすがに完全に分けてるだろうがな。妻によると出張は多かったが宝石商の仕事としか聞いてなかったらしい。どういうルートで物が流れてたかは調査中だ。」
「風浪はそのことを知って強盗に入ったんでしょうか。」
「それが3つ目だな。警察は知ってたと見ているが、情報源が不明だ。さっき言った通り妻には既に話を聞いたが知らなかった。事件当日運良く休みだった従業員と元従業員のリストがあるからそっちに風浪と繋がりがある人間がいないか探ってほしいらしい。」
「なぜこちらに?」
「全部で20人ほどだが、2人だけ魔術使える人間がいてな。そいつらは協会の検査記録から一般人とほぼ変わらないレベルだが、まとめてこっちでやってくれないかと打診が来てる。非魔術師は警察に任せるか?」
「理解しました。そのくらいならこっちでやりますよ。」
「わかった。リストは送っておく。じゃあよろしくな。」
「はい。ではまた。」
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「つまり、元矢の裏の仕事を従業員が知っていたかどうかを今から調査するんですね。」
「そういうことだ。」
「でも、普通の従業員にそんなことを教えますかね?」
「教えないだろうなぁ。ただほかに宛もない。ホテルでだらだらしてるよりはましだろ。」
「それもそうですね。誰から行きます?」
「生き残った唯一の従業員である大月紗代子が比較的近い。この人から行こう。」