親の気持ち
しばらく連絡を絶った二人。
けれど凛花は彼からの電話が鳴るのをただ待っていたわけじゃなかった。
ある日、仕事帰りにこっそりと病院のリハビリ室の前まで足を運んだ。
ガラス越しに見えたのは誰にも言わず、黙々と歩行練習に取り組むタカシの姿。
息を呑んで、その場から動けなくなった。
(……頑張ってるんだね)
声をかけたい気持ちを抑えて、そっと踵を返した。
会いたい。でも、今はまだ会えない。
凛花の中に、痛みと同じくらいの希望が生まれていた。
一方で、タカシはリハビリ室で一人何度も何度も足に力を込めていた。
何もかもを、取り戻したいと願いながら。
季節が変わりかけた頃、久しぶりに再会した二人はぎこちないまま言葉を交わした。
「先生から聞いたよ。リハビリ……頑張ってるんだね」
「……うん。凛花が言ってくれた言葉、何度も思い出してた。俺、もう一度ちゃんと凛花と向き合いたい」
「私も、もう一度信じたい。タカシとならどんな未来でも怖くないって」
——
そんな二人の姿を遠くで見つめる男性の影。
それは凛花の父だった。
タカシが事故で車椅子になったと聞いた日から彼は静かに反対していた。
「凛花、お前が苦労するだけだ。未来が見えない相手に人生を賭けるのは……親として認められない」
だが、凛花は言った。
「たしかに、タカシの未来はまだ全部見えてるわけじゃない。でも、彼はちゃんと前に進もうとしてる。私は信じてあげたいの。支え合って一緒に生きていきたいの。」
父はしばらく黙っていたが静かに目を伏せた。
「……ずいぶん、強くなったな、凛花」
そしてある日、父はタカシと二人きりで会った。