すれ違い
凛花はいつものように、タカシの部屋のドアを静かにノックする。
返事はない。けれど、それが初めてではないことを彼女は知っていた。
「……開けるね」
ドアの向こう。車椅子のまま俯くタカシが窓の外を見ていた。
「ねぇ……最近、ほとんど外に出てないよね。少しでも動かした方がいいって、先生も言ってたよ」
「……無理だよ」
ぽつりと漏れたその声には、絶望の色が滲んでいた。
「何度やったって、思うように動かない。立てるようになる保証なんかない。俺ばっかり期待して……馬鹿みたいだろ」
凛花は何も言わずに近づき、彼の前に膝をついた。
「無理に頑張らなくてもいい。でも……タカシが前に進もうとするなら、私はずっとここにいるよ」
「……」
「タカシが前を向こうとする限り、私もそばにいるから」
その言葉にタカシの目が揺れた。けれど次の瞬間、彼は叫ぶように言った。
「お前は……いつまでそんなこと言えるんだよ!いつか疲れて、俺を捨てたくなるに決まってる……!」
その一言が、凛花の胸に突き刺さった。
「……ほんとにそう思ってるの?」
沈黙が落ちた。
「私、もう十分傷ついてる。タカシのことが好きで、苦しくて、それでも一緒にいたくて……でも、私の気持ちなんて全部見てないんでしょ」
そのまま凛花は部屋を出た。
——