ベルは三回
一.
私の家の庭には、今年も沈丁花が咲いた。
私の家は一戸建てだ。よく言えば日本家屋、悪く言えばボロイ。四年前までは父と母と姉と一緒に暮らしていた。しかし、父と母は交通事故であっけなく死んでしまったし、姉は二年前に家を出ていった。今、この家には私一人だけが住んでいる。
縁側に腰掛けて、ぼうっと沈丁花を眺めていると、家の電話が鳴った。
「ベル四回。三回以内に出なさいよ。」
電話のベルが四回鳴ったところで受話器をとると、それは姉だった。
「はいはい、すみませんね。」
「めんどくさそうに返事しやがって。舜くん、すぐに電話に出られなかった理由を述べなさい。」
「沈丁花が咲いていたから。以上。」 花を見て楽しむようなガラかよ、と姉は私をからかう。姉は、私をからかったり困らせるのが好きなのだ。
二年前。私が大学から家に帰ると姉はいなかった。最初のうちは、出かけているだけだろうと気にもとめなかったが、夕飯の時間になっても帰ってこない。その日の飯当番は姉なのに。仕方がないからカップラーメンを食べるためにお湯を沸かそうとした時である。
電話が鳴った。コンロの火を止めて、電話が置いてある玄関に向かった。
「遅い。三回以内に出なさいよ。」
その日も私は、四回目のベルで受話器をとった。
「それぐらい許してよ。それより翔、
今どこにいるの。今日は翔が飯当番なのに。」
「ご飯の一食や二食食べられなくてもいいでしょ。それに、これから私はご飯つくらないから。」
「わがまま言わないでよ。俺は毎日二人分の飯なんかつくりたくない。」
「二人分もつくらなくていいよ。」
「は?」
「今ね、私仙台にいるの。これからこっちに住むから。住所教えておくね。えーと、仙台市・・・、」
「ちょ、ちょっと待って。」
私は姉を制止すると、メモ用紙とボールペンを取りに行くために受話器を置いた。
姉が、十秒以内に戻ってきなさいよ、と笑っている。