第27話 後宮のウサギ
その頃、アルワーン王国では、大きな浴室に連れて来られたフィオナが、ザハラ監視の元、女官による身体改めを受けていた。
「アルナブ様、両腕を広げてください」
アルナブというのは、自分の名前らしい、とフィオナは気づいた。
国王がそう呼ぶように命令したようだ。
誰もがフィオナを『アルナブ様』と呼ぶ。
衣類を全て脱がされて、フィオナはかすかに震えながら、タイルの床の上に立っていた。
女官が2人がかりで、フィオナの左右から彼女の体を検分している。
「衣装も用意するのよ。採寸もしておきなさい」
ひんやりとしたザハラの声が飛んだ。
「かしこまりました、ザハラ様」
女官の手が手早くフィオナの体のあちこちに伸び、巻尺でサイズが測られていく。
もう終わりかとフィオナが思った時、女官が一言言った。
「アルナブ様、両足を開いてお立ちなさい」
「!!」
思わず叫び出さなかった自分を、褒めてあげたい、とフィオナは思った。
フィオナの体に触れる女官は、しばらくあちこちを探った後、うなづいて、フィオナの体から手を離した。
「ザハラ様。確かにまだ乙女でございます」
ザハラはうなづいた。
フィオナの顔が赤くなった。
さすがのフィオナも、その言葉が意味することくらいは理解できる。
いたたまれない気持ちに、お腹の底がもぞもぞしてきた。
(だめ……!! 今、変身するわけにはいかないわ)
フィオナは深呼吸をして、だいぶ馴染みになってきた衝動を抑えた。
ザハラが椅子から立ち上がった。
「わかったわ。アルナブを湯浴みさせ、済んだら部屋に連れて来なさい」
「かしこまりました」
* * *
フィオナはピンク色の薄い布地で作られたカフタンを着せられて、大理石の床の上に敷かれた厚い絨毯の上に座っていた。
カフタンはゆったりした長袖のドレスで、胸元に華やかな刺繍が施されていた。
「アルファイド様は、お前が寵姫になることをお望みです」
ザハラは、冷たい、感情の感じられない声で言った。
「ここは、わたくしの部屋です。わたくしはザハラ。後宮でただ1人の寵姫です。お前は今日から後宮に住み、わたくしの元で見習いとして過ごし、後宮での過ごし方を学ぶのです」
ザハラはフィオナの前に座っていた。
美しい紫色のカフタンを着て、深いスリットからはシャルワールと呼ばれる、ゆったりとした、足首で細くなっているパンツを重ねている。
銀色の髪を美しく結い上げたザハラは、確かに寵姫にふさわしい、並外れた美貌の持ち主だった。
「お前には侍女も付けるわ。ダヤという名前よ。身の回りのものは、彼女が揃えてくれるでしょう。お前の部屋は、彼女が案内します」
次にザハラは傍に積み上げた本をフィオナの方に押しやった。
「お前はわたくしのそばで身の回りの世話を手伝うのよ。同時に授業も受けなさい。アルワーン古語。歌、踊り、楽器、読書、料理、行儀作法。体のお手入れ、閨教育……。アルワーンの地理や歴史、貴族、王族の人々については、アルファイド様が教えると言っていたわ。」
フィオナはザハラの流れるように話す言葉を聞いて、んん、と首を傾げた。
(今……さらっと、閨教育、とか言わなかった……?)
その様子をザハラに観察されていたらしい。
ザハラは片眉を器用に上げて、微笑んだ。
「アルナブ、閨教育が気になるのね? ご本があるのよ、図版が入っていてね。とてもわかりやすいのよ? 見せてあげるわ」
ザハラがにっこりとして、絵入りの大判の本をフィオナに差し出した。
「先に自習しておく?」
「いいいいいいいいえ、結構です!!!」
フィオナは全速力でザハラの部屋から逃げ出したのだった。




