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ウサ耳の精霊王女は黒の竜王に溺愛される  作者: 櫻井金貨
第1章 オークランド王国編

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第16話 夜会とウサギ(2)

 一方、国王執務室では、いつものように、ドレイクと、その補佐官であるユリウスが仕事に励んでいた。


 とはいえ、どことなくぼんやりとしているドレイクに、ユリウスはコーヒーを淹れてやりながら、いくつかフィオナについて質問をしてみた。


 安定の無表情で、ユリウスの質問に答えるドレイクを、ユリウスは少し呆れたような表情で眺めていた。


「大丈夫なんですか。夜会まではもう1週間もない。詰め込み過ぎでは? 大体、フィオナ様は覚えきれるのですか?」


「わからん」


 ドレイクの返事は簡素だった。


「例の、ウサギに変身する件はどうなっているのです。そちらもよくわからないままなら、危険なのでは?」


 ドレイクは書類越しに、ユリウスを見た。


「……それが、不思議なのだが、近頃、そっちの方は安定しているようなのだ。突然に変身することがなくなってしまった」


(陛下、なんだか残念そうな感じですけどね)


 ドレイクは無意識にだろう、ため息をついた。

「フィオナが忙しくなってしまって、黒竜が寂しがっているんだ……」


 それは腕に引っ掛けてウサギを運んでいたり、執務室の一角でウサギが寝ているのに慣れてしまった、ドレイクの心の声のように、聞こえたのだった。


 密かにドレイクの憩いの時間になっていた、フィオナと2人のお食事(餌付け)タイムも、食事マナーの勉強ということで、別々になってしまっているらしい。


(しょんぼりしているのは、どう見ても国王陛下の方ですが)


 ユリウスはもちろん、その声を心の内に止めた。


 ドレイクの話と、ナイア夫人から聞いた話をまとめてみれば、フィオナは意外なことに、あれこれの講義をうまくこなしているらしい。

 弱音ひとつ吐かないので、ドレイクはどうも寂しいと思っているようだ。


 そしてさらに意外なことに、フィオナの物覚えがかなりいいようで、学習内容をどんどん習得しまい、講師がびっくりしているらしい。


(本当に変わった少女だ)


 ユリウスはそう思いつつ、フィオナに対する評価を密かに上げたのだった。



 そうして迎えた夜会当日、美しく着飾った貴族令嬢や夫人達で溢れる大ホールに、フィオナの姿を見つけたドレイクは、心から驚愕することになった。


「国王陛下、ご機嫌麗しく存じます」


 ドレスの裾を優雅につまみ、完璧な所作で礼をした令嬢は、驚くほどに美しかった。


「フィオナか……?」


 フィオナはドレイクの読書係。正妃でもなければ、婚約者でもない。正式な愛人ですらないのだ。


 フィオナはドレイクのエスコートを受けることなく、付き添いの夫人だけを従えて、華やかな夜会会場に、1人で立っていた。


「はい、陛下」


 フィオナは柔らかく微笑んだ。

 フィオナが動くと、ゆったりと巻いて、ハーフアップにした白い髪がふわりと揺れる。

 グレーのドレスは、明るい照明を受けて、銀色の光を放っていた。

 ほっそりとした身体はまだ少女のものだったが、たおやかで、清廉さに満ちていた。


(ああ、この少女は。まるで野の花がたった今咲いたかのようだ。多くの人の目を虜にするだろう)


 ピンク色の大きな瞳がドレイクを見つめ、ピンク色の小さな唇が微笑みを載せていた。

 ドレイクは心臓が止まるかと思ったのだが、必死で持ちこたえた。


(なんとまあ)


 ドレイクは内心の動揺をこらえると、そっとフィオナに手を差し出した。

 フィオナがちょこん、と小さな指先を載せる。


「ダンスも習ったのか?」

「はい、陛下」


 ドレイクとフィオナは踊り始めた。


 ドレス姿と、髪型のせいだろうか。

 あるいは、化粧とハイヒールのせいか。

 フィオナは少し背が高くなったように見える。

 それに、今までより、大人っぽくなったようだ。


 無表情でフィオナをリードするドレイクだったが、次第に自分の体温が上がっていくのを、感じていた。


 まるでウサギそのもののように、あたりを飛び回っていた、愛らしい少女が、いつの間にか、今度は精霊のような、人離れした美しさを持つ少女に変わってしまった、というのだろうか?


(まあ、お珍しい。陛下が若いご令嬢とダンスをなさっているわ)

(なんておきれいな方でしょう。どこのご令嬢ですの?)


 お互いを見つめて踊る2人は、そんな彼らを見て、周囲の人々がうっとりと見惚れていたことや、小さな声でフィオナの素性を詮索する声があったことに気づいていなかった。


 ドレイクが手を上げると、フィオナは軽々とターンした。

 ドレイクがその細い腰を支えて持ち上げると、フィオナの体はまるで羽のように軽かった。


 音楽が止み、万雷の拍手の中、フィオナが優雅に礼を取ると、ドレイクはそのままフィオナをエスコートして、ホールを横切って行った。


 ホールの一角には、薄いカーテンで仕切って、簡単な休憩スペースが設けられていた。

 休憩室とは違い、ホールの様子も見ることができる。


 ドレイクは休憩スペース脇のドアの前に立っていた騎士を呼び寄せると、フィオナの護衛を命じた。

 ホールには、こちらに向かって歩いてくる、フィオナの付き添いの夫人の姿もあった。


「フィオナ、足が疲れてはいないか? 少し休んでいるといい。何か飲み物を持ってこよう」

「陛下、大丈夫ですわ」


 フィオナが慌てて立ち上がろうとしたのを制し、ドレイクは足早に軽食の用意されているテーブルへと向かった。

 途中、付き添いの夫人に会い、フィオナのことを頼む。

 振り返ると、フィオナは騎士に守られて、まるで姫君のように背をぴんと伸ばして、座っていた。


 ドレイクは我知らず微笑む。



 ……それがドレイクがフィオナを見た最後の姿になるとも知らずに。



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