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ウサ耳の精霊王女は黒の竜王に溺愛される  作者: 櫻井金貨
第1章 オークランド王国編
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第1話 無骨な王がウサギを抱えて王城に帰ってきた(1)

「黒竜だ! 国王陛下のお帰りだぞ!」


 青い澄み切った空を覆い隠すように、黒い翼竜の翼が王城の上に広がった。


 体の大きさは、大きな馬よりやや大きいくらいなのだが、その体を運ぶ翼は大きく、力強い。

 左右に広がる両翼は、体長の数倍はあるだろうか。


 造作なく3回ほど頭上を旋回すると、黒竜は器用に王城の中庭へと降り立った。

 翼をばさっと振り、折り畳むと、頭と両足を屈める。


「ドレイク国王陛下、早いお帰りで、何よりでございます」

「国王陛下、おかえりなさいませ」

「国王陛下」


 掛けられた声にうなづき、黒竜の背中から滑るように降り立ったのは、大柄な男だった。

 竜と並んで立っても見劣りなどしないその姿に、感嘆の声が上がる。


 その装いは、竜と同じく、全身黒一色。

 風避けの黒いマントの下には、背中に背負った大剣がのぞき、申し訳程度に、黒い革製の胴衣を鎧代わりに身に付けている。

 同じく革製の手袋とブーツも、黒だ。


 まっすぐに堂々と立つ姿からは、背が高い上に、どんな装備でも苦にならないほど、身体を鍛えているのがうかがえる。


 出迎えた、同じ年頃の銀髪の男をちらりと見た男の目は、その髪と同じく、艶やかな漆黒の、黒だった。


「ユリウス」


 オークランド王国の若き国王、ドレイク・オークランドは一切表情を変えることなく、おもむろに右手を胴衣の中へと突っ込んだ。


 すると、もそもそと白いものが動いて、ドレイクの左手に乗っかった。

 そのままドレイクの左手に器用に前足を引っ掛け、びみょーんと微妙に足を伸ばして、大人しくぶらぶらしている。


「ウサギ……!?」


 その瞬間、国王の出迎えに集まった人々が一斉にざわついた。


「狩りの獲物か……? それにしては可愛いけど」

「バカ、国王陛下は視察に出られていた。狩りではない」

「ウサギ鍋にするのかな」

「いいえ、きっと、ペットになさるのよ。案外、可愛いものがお好きなのかも」

「静かに! 陛下の前だぞ」


 無言で目を丸くする、側近のユリウスに向かって、ドレイクはぽい、っとウサギを放り投げた。


 その時、ユリウスは何かに抗議するかのような、かすかな「ぴきぃっ!!」という悲鳴を聞いたように思った。


 飛距離が今ひとつ足りず、ユリウスの足元にぽてり、と落ちたのは、確かに1匹の白いウサギ。


 よっこらしょ、とでも言うように起き上がり、ふるふると長い耳を揺さぶっている。


 ユリウスはもとより、国王を出迎えた家臣や侍女達の目が、一斉にその白い毛の固まりに注がれた。


 その時、ユリウスは白いウサギの右耳に、ウサギには不似合いな赤い小さな宝石が嵌め込まれているのに気が付いた。


「部屋に入れておけ」

「……飼うんですか?」


 ドレイクはちらりとウサギを見下ろした。ドレイクは相変わらず無表情で、にこりともしていない。


「……行儀が良ければ、な」


 ユリウスの目には、その瞬間、ウサギの体がぴくん、と震えたような気がした。

(……ただのウサギではない、ということか?)


「ウサギを置いたら、執務室へ来い。留守中の報告を」

「かしこまりました」


 ドレイクは小声で何かを言うと、黒竜の首をそっと叩いた。

 すると、次の瞬間、黒竜は再び大きな翼を広げて、王宮から飛び立って行ったのだった。


 * * *


 オークランド王国は、深いオークの森を抱えた、古い歴史のある王国である。

 歴史を伝える物語の中には、自然を守護する精霊の物語が多い。


 しかし、かつてのオークランドの人々は、豊かな自然を愛し、この地に残る数々の精霊伝説を大切にしていたが、精霊が実在するとは思っていなかった。

 あくまで、伝説。物語であると、そう思っていたのだ。


 実際に、オークランドの人々が、空を飛ぶ黒竜の姿をその目で見るまでは。


 伝説の中では、黒の翼竜は精霊女王の守護者として知られている。


 その時。

 オークランドの世継ぎの王子だったドレイクが黒竜の背中に乗って、戦場に舞い降りた時、世界は一変した。


 人々は精霊の実在を信じた。


 オークランドに攻め入っていた隣国、アルワーン王国軍は、伝説に過ぎなかった竜の存在と、まだ青年だったドレイクに竜が従う姿に驚愕し、一気に戦線から撤退し、戦争は終結した。


 そして、18歳の王子、ドレイクはオークランド国王になったのだった。

 それはまさに、新しい伝説が生まれた瞬間だった。


 それから10年の歳月が過ぎた。

 現在、ドレイク28歳。


 黒の竜王と呼ばれるドレイクは、オークランドの若き国王として敬愛されると共に、どこか人間離れした存在として、怖れられていたのだった。


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