第8話 スキルの弊害
刃物を棄ててまで得られる利点が、ない。10発殴るより、1回斬った方が確実だ。
一撃必殺、破壊力で見ればメイスと大差はない。寧ろ、上回っている。が、刃物と比べれば分が悪い。
「ノワーク先生、なんかイイ攻撃魔法ない?」
ショウトは別の視点に切り替え、未だに唖然としているノワークに声を掛ける。
「こ、攻撃魔法じゃとっ!? 白魔法をナンじゃと思っとる!!」
ショウトの言い分を理解したのか、ノワークは憤慨した。白魔法に黒魔法の領分を求めている、それは職業違いでかつナンセンスであろう。
「ねぇなら、いいよ」
期待していなかったショウトは、老人の小言を聞く前に別の方法を考える事にした。
「……ないとは言っとらん」
負け惜しみのようなノワークの言葉を聞き逃す所だったが、ショウトは老人の姿を見て硬直した。
「〈気光弾〉」
右腕を前方へと伸ばしたノワークが、その魔法を唱えると手の平サイズの光球が、打ち木へと真っ直ぐ飛び、弾けた。
威力は小さい。速度も普通。モーションは小さいが、握れる程の石を投げた程度にしか見えなかった。
「威嚇・牽制・目眩ましぐらいにしか使えん、白魔道士の護身用の魔法じゃ。しかし、この魔法は使い手の肉体の攻撃力と魔力に依存する」
ノワークはニヤリと笑い、さらに続ける。
「儂のように非力な人間ではあの程度じゃが、お主ならオモシロイかもしれん」
「買った」
即決。ノワークの言葉に被せるように、ショウトは返答していた。遠距離攻撃があれば、戦法も大きく変わる。
「3万cじゃ」
若干高めの値段だと思ったが、ショウトはステータスパネルを指でスライドさせ、金額を振り込んだ。
「ショウトに〈気光弾〉を授ける」
ノワークは右手をかざし、ショウトのステータスパネルにスキルを書き込む。
戦法が増える喜び。
まるで、夢中でオモチャを買い漁る子供のようであった。
右腕を肩口から真っ直ぐ伸ばし、目標を打ち木に据える。距離は約8m、右手の平で狙いを定める。
「〈気光弾〉」
ショウトの詠唱と共に、手の平サイズの光球が飛び、弾ける。打ち木にさらに太めのヒビが入った。ショウトの渾身の右ストレートに匹敵する威力である。
しかしながら、ショウトはその結果に感動する事が出来なかった。
消耗・激しい喪失感、体力ではないナニかがゴッソリと持っていかれた。
「言い忘れとった。この魔法、魔法力の消費が大きいからの、連発はせん事じゃ」
「ジジィ、てめぇ~……」
片膝をつき、その場に崩れ落ちたショウトは悪態を吐いた。が、嬉しそうに語ったノワークも、その場に座り込んだ。
「……魔法力の消費とは、精神力を失くす事じゃ。判断力・集中力の欠如、まともに立っとられん。我々魔道士はそれを天秤に掛け、戦うしかない」
魔道士の心得であろうか、ショウトはその矜持を身を持って体験し、胸に刻む。
先に立ち上がったのは、ショウトであった。少し遅れてノワークも立ち上がる。
「もう年かの……。魔法力は間を置けば回復する。それにこれは魔道士の通過儀礼じゃ、いくらお主がタフでも、初めての普通の召喚人が〈回復〉と〈気光弾〉を使えば、ほぼこうなる」
ノワークは己の肩を揉む仕草を見せ、さらに続ける。
「まぁ、その循環に慣れればへたり込む事もない。……もう、日も遅い。今日はここまでにしよう」
訓練終了の合図を、ノワークは口にする。
注意事項・確認事項・疑問・報告・連絡・相談、やるべき事と新たな情報の整理が追いつかず、頭の中で混雑を起こす。
(こうゆう時は、休むに限る)
ショウトは魔法の籠手が入っていた箱を回収すると、部屋を後にする。情報の処理能力が間に合わないならば、時間を置くしかない。
下手な考え休むに似たりという言葉があるが、その通りだろう。40代を過ぎたおじさんになれば、1人で無駄に悩む事が、いかに自分の精神を蝕むかもわかっている。




