第6話 ジジィ率、高め
「そ、それでは5万cの入門金を儂に、ステータスパネルを出しなさい」
少し慌てながらノワークは説明し、ショウトは言われた通りに5万cをスライドさせ、左手の平に出たステータスパネルを見せる。ノワークも赤いステータスパネルで、入金を確認した。
「ショウトを白魔道士と認める」
その言葉と共にノワークは、ショウトのステータスパネルの上に右手をかざした。すると、ショウトの名前の横に白魔道士の文字がつく。
呆気なく手にした職業を呆然と眺めるショウトを余所に、ノワークは部屋の隅に置いていた布の塊を取りに行く。
「コレは白魔道士の証の道衣じゃ。着なさい」
白い厚手の生地の上着と黒い帯。ノワークの言葉と渡された服。前開きの道衣。ふとノワークを確認すると、その道衣を着込んでいる。
ショウトは沈黙したまま道衣を羽織り、開いた襟部を重ね合わせ、帯を結んだ。
「なんじゃ? 帯の結び方を知っておるのか?」
ノワークは少々面喰らった顔で呟いた。そう、知っている。ショウトの身体が勝手に反応したのだ。
召喚人の服の上から着た道衣。不思議と身体にしっくりと感じていた。
「では、〈棍装備〉のスキルを無料で教えてやろう」
「必要ない」
ノワークは初めての弟子に嬉々として申し出て、ショウトに即答で断られてしまった。
〈棍装備〉で《体術・総》に上書きされるのかもと、思ったからである。
「……お主、能力持ちか?」
ショウトの対応に、ノワークは顔をしかめる。
「よしっ!! 出血大サービスじゃ。普段なら3万cは貰う〈回復〉を、無料で教えてやろう。1人目の特典じゃからの」
すぐに切り替えたノワークは、はしゃぐようにショウトに持ち掛ける。
(陽気なジジィだ)
ショウトは苦笑いを浮かべ、左手の平のステータスパネルを差し出した。白魔道士になるのだから、断る理由もない。
「ショウトに〈回復〉を授ける」
ノワークは先程と同じように右手をかざし、ショウトのステータスパネルに書き込む。
「後は訓練あるのみじゃ。あそこに打ち木があるでの、好きに練習せい。儂は見とくから、何かあったら声を掛けよ」
ノワークはそう言い残し、ゆったりとした歩調で椅子に座り直した。その腰には金属製のメイスが装着されている。
本来なら、ノワークの見せ場だったのだろう。
打ち木。
直径30cm程の丸太が、床に突き刺さっている。等間隔で4本。高さは180cm、十字架のように直径10cmの円筒の木が横に貫通している。
簡易的な、人型。
直径10cmの貫通した木が両腕だとすれば、左右30cmの短めの腕であろう。
ショウトは先程授かったスキルの事より、今から行う戦法、スタイルで頭が一杯だった。
両肘を曲げ、脇を締め、両拳をそれぞれの肩の前にかかげる。肩の力みをなくし、リラックスした構えをとる。
足のスタンスは肩幅大に広げ、どのような動きにも適応できるようにしている。左足を前、右足を後ろ、典型的な右利きの構えだ。
基本は打撃、しかも打拳。
8:1:1で拳、蹴り、組み技系の戦法でいく。蹴り技は強力なのだが、足は機動力に使う。組み技系、投げ・極め・絞めは接触時のリスク、噛みつきや引っ掻きによる裂傷を避けたい為、多様したくない。
運足、フットワークと打拳。
ソレがショウトの結論付けた戦法であった。ただ、それは理想でしかない。戦い方に制限をつけて勝利を失うのは、愚の骨頂であろう。
ショウトは軽くフットワークを刻み、左拳によるジャブを放つ。さらに左拳を戻す力を肩に連動させ、右拳によるストレートを繰り出す。左拳のフック・右拳のアッパー・右肘のエルボー・右脚の下段蹴り・左脚の中段蹴り・右脚の前蹴り・左の膝蹴り、打ち木を撃たず、ショウトの手足は空を切る。
頭では理解しているが、技が身体に染み込んでいる。コンビネーション・間・連携・繋ぎ、いくら減らそうとしても、蹴り技が出てしまう。
記憶がボヤけるが、蹴り技が得意らしい。しかし、修正は出来る。
左拳・右拳・左拳・右前蹴り・フットワーク、蹴りの出る間を移動に書き換え、徐々に拳を主体にしていく。
オーソドックス・サウスポー・変則型。構えも固定させず、右足前・左足前とスイッチさせ、拳のコンビネーションを確立させる。小一時間程空を打ったショウトは、次の段階に入る事にするのだった。