第5話 職もスキルも金次第
武器屋を後にし、ショウトは思案を巡らす。
能力。
ラメラテアは、そう言った。
スキルではなく、能力。ショウトの持つ《体術・総》は能力扱いされた。先程のラメラテアとの一戦、アレは約束組手のようなモノだ。縛り・固定概念・組み技への対処法。
つまるところ、ショウトには別の対処法があったのだ。先制の打撃・投げ・関節技・絞め、選択肢はいくつかある。ただ、ラメラテアのルールに従ったといえた。
この能力を生かす為、ショウトは苦悩している。攻防だけではなく、間合い・フットワーク・体捌き、あの一瞬で動きが身体に馴染む。まさに、最適化といえる反応。《体術・総》に含まれている複合技術が、ショウトの職業を狭める要因となってしまった。
空手の正拳突き・ボクシングのジャブ・キックボクシングのロー・柔道の一本背負い・レスリングのタックル・柔術の片羽絞め・MMAの腕ひしぎ逆十字固め、等々、ショウトの頭に格闘技の術がよぎっていく。ただ、それは知識。人格を形成する為に連想させる経験には、ならない。繋ごうとするとボヤけ、濁る。激しい頭痛は、思考を停止させる。
ならばと、ショウトは別の案件へと視点を変えた。職業である。この能力を、一番応用できる職業。
戦士やそれに追随する斥候、自分の肉体を駆使する点では有効ではあるが、能力は半減するだろう。恐らく刃物によるスキルを習得すれば、体術に比を加える必要はない。効率を考えれば、明確であろう。
それならば、黒魔道士。遠距離から接近戦までこなせる死角のない無双職業、ではない。護身程度の能力で戦士や斥候と張り合うほど愚かでもないし、役割というモノもある。攻撃魔法のスキルを磨くべきであり、この能力を最大限に生かすならばー
ショウトは先程入手した魔法の籠手を確認する。金属製、黒色ではあるが不思議な光沢を放つその籠手は、魔力を宿している事を感じとらせる。
拳・手の甲・前腕・肘、一体化ではなく蛇腹状に連動する仕組みは、それだけで一級品である事をわかり示した。凶器・刃物に対しての攻防が計算されていく。
ショウトにとって、つがいの籠手を手に入れられた事は僥倖であった。合理的かつ効率的に能力を生かす。ショウトは一つの職業を見定め、門をくぐった。
「うわっ!? ビックリしたのぅ」
部屋に入ったショウトは、呆然と椅子に座っている、この部屋の主であろう老人の前に歩み出る。そして、この言葉が返ってきたのだ。
「オ、オホン。儂の名はノワーク。白魔道士を担当しておる」
咳払いをし、白髪の老人はノワークと名乗った。
「じゃが、白魔道士で良いのか?」
ノワークは訝しんだ顔で、問い掛ける。確かに、ショウト以外の召喚人は見当たらない。
「そもそも最初に選ばれる職業では、ないゾ? 後々、転職で選ぶモンじゃからのぅ?」
「転職できるのか?」
ノワークの説明に、ショウトは間を置かず尋ねる。
「当たり前じゃ。職業選択の自由、金さえ積めば、どの職業にも書き換えられるわい」
(……ん? 金さえ?)
そのノワークの言葉に、疑問がショウトに生まれる。
「職業を得るのに、金がいるのか?」
「そりゃそうじゃろう。儂らもオマンマを喰わねばならん。職業とスキルを切り売りせねば、やっていけん」
このやり取りで、ショウトは青ざめる。
「ちなみに値段は?」
「職業を決めるのは5万c。スキルは内容次第。今ならサービスで、白魔道士の道衣とスキルを授けるぞ」
ショウトは冷静を装いつつ尋ねると、ノワークは営業トークのように軽快に答えた。
武器屋の店主の、あのタイミング。
何も知らない召喚人から全額巻き上げ、職業に就かせない。否、恐らく返品買い取りで小銭を稼ぐつもりなのだろう。無知な召喚人に対し、クソッタレな詐欺師だったって事だ。ショウトの事も絶好のカモだと思ったのだろう。本当ならー
「で、どうするんじゃ?」
ノワークはぶっきらぼうに問い掛ける。ショウトの反応を冷やかしだと感じたようだった。
「もちろん、白魔道士になる」
「……本当かっ!?」
ショウトに返答に、ノワークは驚愕した。このような展開を想像していなかったのだろう。