第25話 イレギュラー
これだけ戦士を観ていれば、わかる事もある。スキルの種類だ。
〈レングスラッシュ〉と〈ウィズラッシュ〉
前者は飛び込みながらの縦斬り。後者は駆け抜けながらの横斬り。
先制攻撃と、防御後の反撃である。
体格や身体能力に差はあるだろうが、このスキルがあれば、それなりに戦士としては戦える。
しかし、ムラサメ以外、誰一人として居合い斬りを使わなかった。だとすれば、アレはムラサメのオリジナルスキルなのだろう。
16番手の勝ち名乗り。
ショウトは一呼吸吐き、階段を降りた。扉を開けると通路があり、左側の奥と真正面の奥に扉が見える。
左側の扉は闘技場への扉、真正面の扉は出口、という所だろう。
どおりで誰も戻って来ないワケだ。
左側の扉には格子が付いており、そこからトウヤとサクラの姿が見える。
ただ、ショウトから見て、トウヤとサクラの配置、2人の立ち位置が悪いように感じた。それを伝える間もなく、闘技場の奥の扉からゴブリンが姿を現す。
トウヤが右、サクラが左。お互いの剣が当たらない距離で、平行に陣形を取っている。
長剣と小剣を抜刀、盾を前面に出す防御態勢に構えを取っていた。
ショウトが2人の立ち位置が悪いと思ったのは、サクラが戦力として役立つかにあった。
戦力として数えるなら2対1の陣形になるが、戦力にならないのなら、ただ弱点を晒しているダケに過ぎない。
最初からトウヤの後方に控えていた方が、賢明であろう。
棍棒を拾ったゴブリンは品定めするように、2人の戦士を交互に見る。
ゴブリンは弱い、しかし凶暴である。そして、人間を敵視している。
だから、殺せる方を狙う。
サクラに狙いを定め、ゴブリンは躍り掛かる。棍棒を振りかぶり、一撃。サクラは皮の盾でその一撃を防いだが、衝撃と重さと恐怖で後退り、その場で腰を抜かした。
「ヒィッ!?」
ゴブリンがさらに棍棒を振りかぶり、へたり込んだままのサクラは小さく悲鳴を上げる。
衝撃、鈍い音。
サクラとゴブリンの間に身体ごと強引に割って入ったトウヤは、ゴブリンの棍棒をまともに頭部に受けた。
パッと、鮮血が舞う。
「〈ウィズラッシュ〉」
トウヤは歯を食い縛り、スキルを発動させる。ゴブリンの腹部を、長剣が切り裂いた。
見事な一撃であった。
ゴブリンの上半身と下半身は分断され、上半身は内臓を撒き散らし回転しながら絶命、角だけを残し消滅した。
ヨロヨロと角を拾い、トウヤは勝ち名乗りを上げる。
闘技場に繋がる扉と、通路の奥の扉が開かれる。その扉から別の試験官が現れた。試験が終了した召喚人の誘導員という事だろう。
「トウヤっ!! ゴメンなさいっ!! ゴメンなさいっ……!?」
サクラに肩を貸して貰い、フラフラとトウヤが通路に戻ってきた。頭部打撲による出血と意識混濁、トウヤは肩を貸されているが、歩く事すらままならい状態だった。
「ねぇっ!? あなた白魔道士なんでしょ? トウヤを助けてよっ!!」
ショウトを視界に止めたサクラは、すがるように声を上げた。聴こえているのか、トウヤは首を左右に振り拒絶している。
呆れる程の、自己都合。
今から試験を行う者への、妨害でしかない。助けて貰えるのが当然だと、信じている傲慢さ。
戦えば怪我をする事もある。だから、試験なのだ。
「〈回復〉」
ショウトは右手をかざし、トウヤに魔法を唱えた。
トウヤの頭部の出血は止まり、徐々に傷も癒えていく。
「……とうぶんフラつくだろうが、じきに治る」
ショウトは淡々と説明をし、闘技場へと歩を進める。
謝礼の言葉すら、ない。
そうして貰うのが当たり前だと思ってる者は、仲間の心配しかしない。
「……なんで、ショウトさんに魔法を使わせたっ!?」
闘技場への扉が閉まり、トウヤは声を絞り出す。
「えっ!? だって……」
「あの人は1人でゴブリンと戦うのに、なんで魔法力を使わせたっ!?」
助かった喜びをトウヤの怒りによって遮られたサクラは困惑し、その後の言葉で自分の行った過ちを理解した。
(すみません、ショウトさん。貴方を見捨てた僕達が……)
トウヤの自責の念はショウトに伝わらず、誘導員に連れられ奥の出口へと歩を進めるのだった。
「なんでっ、独りっ!?」
各職業の担当者、とりわけラメラテアとノワークは腰を浮かし立ち上がる。
ラメラテアなどは、声にまで出してしまった。
「……ノワーク老、奴の武器は?」
戦士の担当者である男が、白魔道士の担当であるノワークに質問する。
「あやつは、武器を持っとらん」
この返答に、黒魔道士の担当である男が腰を浮かせた。
武器を持たない、非暴力宣言。
只の自殺行為だ。
ラメラテアが転落防止の柵に足を乗せ、闘技場に乱入する素振りをみせる。
先程のトウヤとサクラの試験も、トウヤがゴブリンに即反撃をした為、未遂に終わったが、そのままなら試験中止になっていた案件だった。
そして、試験中止を実行する為の立会人なのである。
「ま、見ておれ」
ノワークは席に腰を下ろし、愛弟子の動向を見守るのだった。
ふてぶてしい態度。
ショウトは闘技場の中央付近まで歩を進め、両手を組み、見下すように対面の扉を睨み付ける。
(つまらない……)
事実、ショウトは見下していた。
ゴブリンを1匹殺す。
この試験では、これ以上得られるモノがない。ショウトは試験中に考えていた計画を、実行する事にするのだった。




