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ブン殴れ!! おじさん白魔道士  作者: 自堕落なヤモリ
チュートリアル 後編
26/29

第25話 イレギュラー

 

 これだけ戦士を観ていれば、わかる事もある。スキルの種類だ。


 〈レングスラッシュ〉と〈ウィズラッシュ〉


 前者は飛び込みながらの縦斬り。後者は駆け抜けながらの横斬り。


 先制攻撃と、防御後の反撃である。


 体格や身体能力に差はあるだろうが、このスキルがあれば、それなりに戦士としては戦える。


 しかし、ムラサメ以外、誰一人として居合い斬りを使わなかった。だとすれば、アレはムラサメのオリジナルスキルなのだろう。


 16番手の勝ち名乗り。


 ショウトは一呼吸吐き、階段を降りた。扉を開けると通路があり、左側の奥と真正面の奥に扉が見える。

 左側の扉は闘技場への扉、真正面の扉は出口、という所だろう。


 どおりで誰も戻って来ないワケだ。


 左側の扉には格子が付いており、そこからトウヤとサクラの姿が見える。


 ただ、ショウトから見て、トウヤとサクラの配置、2人の立ち位置が悪いように感じた。それを伝える間もなく、闘技場の奥の扉からゴブリンが姿を現す。


 トウヤが右、サクラが左。お互いの剣が当たらない距離で、平行に陣形を取っている。

 長剣と小剣を抜刀、盾を前面に出す防御態勢に構えを取っていた。


 ショウトが2人の立ち位置が悪いと思ったのは、サクラが戦力として役立つかにあった。

 戦力として数えるなら2対1の陣形になるが、戦力にならないのなら、ただ弱点を晒しているダケに過ぎない。


 最初からトウヤの後方に控えていた方が、賢明であろう。


 棍棒を拾ったゴブリンは品定めするように、2人の戦士を交互に見る。


 ゴブリンは弱い、しかし凶暴である。そして、人間を敵視している。


 だから、殺せる方を狙う。


 サクラに狙いを定め、ゴブリンは躍り掛かる。棍棒を振りかぶり、一撃。サクラは皮の盾でその一撃を防いだが、衝撃と重さと恐怖で後退り、その場で腰を抜かした。


「ヒィッ!?」


 ゴブリンがさらに棍棒を振りかぶり、へたり込んだままのサクラは小さく悲鳴を上げる。


 衝撃、鈍い音。


 サクラとゴブリンの間に身体ごと強引に割って入ったトウヤは、ゴブリンの棍棒をまともに頭部に受けた。


 パッと、鮮血が舞う。


「〈ウィズラッシュ〉」


 トウヤは歯を食い縛り、スキルを発動させる。ゴブリンの腹部を、長剣が切り裂いた。


 見事な一撃であった。


 ゴブリンの上半身と下半身は分断され、上半身は内臓を撒き散らし回転しながら絶命、角だけを残し消滅した。


 ヨロヨロと角を拾い、トウヤは勝ち名乗りを上げる。


 闘技場に繋がる扉と、通路の奥の扉が開かれる。その扉から別の試験官が現れた。試験が終了した召喚人の誘導員という事だろう。


「トウヤっ!! ゴメンなさいっ!! ゴメンなさいっ……!?」


 サクラに肩を貸して貰い、フラフラとトウヤが通路に戻ってきた。頭部打撲による出血と意識混濁、トウヤは肩を貸されているが、歩く事すらままならい状態だった。


「ねぇっ!? あなた白魔道士なんでしょ? トウヤを助けてよっ!!」


 ショウトを視界に止めたサクラは、すがるように声を上げた。聴こえているのか、トウヤは首を左右に振り拒絶している。


 呆れる程の、自己都合。


 今から試験を行う者への、妨害でしかない。助けて貰えるのが当然だと、信じている傲慢さ。


 戦えば怪我をする事もある。だから、試験なのだ。


「〈回復〉」


 ショウトは右手をかざし、トウヤに魔法を唱えた。


 トウヤの頭部の出血は止まり、徐々に傷も癒えていく。


「……とうぶんフラつくだろうが、じきに治る」


 ショウトは淡々と説明をし、闘技場へと歩を進める。


 謝礼の言葉すら、ない。


 そうして貰うのが当たり前だと思ってる者は、仲間の心配しかしない。


「……なんで、ショウトさんに魔法を使わせたっ!?」


 闘技場への扉が閉まり、トウヤは声を絞り出す。


「えっ!? だって……」


「あの人は1人でゴブリンと戦うのに、なんで魔法力を使わせたっ!?」


 助かった喜びをトウヤの怒りによって遮られたサクラは困惑し、その後の言葉で自分の行った過ちを理解した。


(すみません、ショウトさん。貴方を見捨てた僕達が……)


 トウヤの自責の念はショウトに伝わらず、誘導員に連れられ奥の出口へと歩を進めるのだった。



「なんでっ、独りっ!?」



 各職業の担当者、とりわけラメラテアとノワークは腰を浮かし立ち上がる。


 ラメラテアなどは、声にまで出してしまった。


「……ノワーク老、奴の武器は?」


 戦士の担当者である男が、白魔道士の担当であるノワークに質問する。


「あやつは、武器を持っとらん」


 この返答に、黒魔道士の担当である男が腰を浮かせた。


 武器を持たない、非暴力宣言。


 只の自殺行為だ。


 ラメラテアが転落防止の柵に足を乗せ、闘技場に乱入する素振りをみせる。


 先程のトウヤとサクラの試験も、トウヤがゴブリンに即反撃をした為、未遂に終わったが、そのままなら試験中止になっていた案件だった。

 そして、試験中止を実行する為の立会人なのである。


「ま、見ておれ」


 ノワークは席に腰を下ろし、愛弟子の動向を見守るのだった。


 ふてぶてしい態度。


 ショウトは闘技場の中央付近まで歩を進め、両手を組み、見下すように対面の扉を睨み付ける。


(つまらない……)


 事実、ショウトは見下していた。


 ゴブリンを1匹殺す。


 この試験では、これ以上得られるモノがない。ショウトは試験中に考えていた計画を、実行する事にするのだった。



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