第20話 幻の18番
5日目の朝。
ショウトは準備された、ずっと変わらない朝食を取っていると、2人程近くに寄って来る。
「僕の名はトウヤ。戦士です」
「……ショウト、白魔道士だ」
1人進み出た人物は、トウヤと名乗る青年だった。
年齢は20前後だろうか、緑色の髪、少し童顔だが誠実そうな顔立ちのイケメン。伸長は175cm程度、ムラサメのようなシンパシーは感じないが、そこそこ動ける身体のようで、皮の鎧・長剣・皮の盾と戦士特有の装備で固めている。
そして、皮の鎧の胸部分に番号はない。
「すみません、ショウトさん。僕はサクラと2人で、パーティーを組もうと思ってます」
トウヤの後ろに控えていた女性、サクラと目が合う。申し訳なさそうな表情を浮かべ、軽く頭を下げてきた。
年齢はトウヤと同じ位だろう。ピンク色の髪を背中辺りまで伸ばしている伸長155cmぐらいの、至って普通の女性であった。
ショウトの印象はその程度にしかならず、皮の鎧・小剣・皮の盾と恐らく戦士であろう。
しかし、眼光・顔付き・姿勢・雰囲気、どれをとっても普通の女性。
お世辞を言っても、全く強そうに見えない女性であった。
「……サクラを守りながらでしか、戦う自信がありません。ショウトさん、スミマセン」
『武器無し』は護れない。安易に言えば、そういう事だろう。
しかし、ショウトは感心していた。わざわざ律儀に報告などせず、勝手に登録すれば良い話である。
他の連中のように、自分らの事だけを優先させれば良いのだ。
「お前の判断は正しい。俺も、俺とは組まねぇよ。だから、気にするな」
ショウトは飄々とそう纏めると、トウヤとサクラは共に頭を下げ、講師の下へ行き番号を登録した。
ショウトもおもむろに動き、講師の下へと向かう。
「登録してくれ。1人だ」
「1人っ!? えっ、あぁ~……」
ショウトの言葉に人数を確認した講師は全てを察し、番号を登録する。
50/50
本来なら幻となるはずの18番が、ショウトの道衣に刻まれた。
これで心置きなく戦える。
ショウトは召喚の部屋を出て、白魔道士の部屋へと向かう。途中の武器屋は開店していなかった。
さすがに、召喚人はもう来ないのだろう。
「よう、ノワーク先生」
「正解じゃ」
毎度毎度の挨拶。
ショウトはいつもの訓練通り魔法の籠手を外し、準備運動を行う。
試したい事がある。
強化無し状態での《双気光弾》の、破壊力の検証であった。前日の打ち木は3日間ショウトに打ちのめされ、耐久力はなかったハズだ。そんな打ち木を木っ端微塵にした所で、正式な破壊力ではないように思えた。
もう一つは連続魔法。
魔法力の消費から《双気光弾》は立て続けに撃つ気にはなれないが、〈気光弾〉となら相性が良いのではと、考えていた。
拳立て・空打ち・フットワーク、粗方の準備運動を済ませ、ショウトは右手をかざし詠唱、追い掛けるように左手もかざしスキルの発動。
「〈気光弾〉《双気光弾》」
一発目の手の平サイズの光球が、新品の3本目の打ち木へと向かう。
命中。
その後を追い掛けるように胴体サイズの光球が打ち木に直撃。
爆発。
打ち木は根本を残し、四散する。
「お主は、打ち木を全部壊す気かっ!?」
椅子からひっくり返りそうになったノワークが怒鳴った。
ノワークの怒りを余所に、ショウトはショックを受けていた。3日間殴っても壊れなかった打ち木が、魔法一発で粉々に吹き飛んだ。
しかも魔法の籠手無し、これは由々しき問題である。
チマチマ戦うよりも、より簡単にゴブリンを倒せる。『蒼炎の魔女』ではないが、積み上げた駆け引きを台無しにする一撃だと言えよう。
ただ、魔女と同じように仲間を巻き込むのも確かではあった。
ショウトは非難の声を上げるノワークを無視し、魔法の籠手を装備する。一本しか残っていない4本目の打ち木、前日にショウトに殴られヒビだらけになっている打ち木に歩を進め、拳打のコンビネーションを撃ち始めるのだった。
昼休憩ー
「お主、18番か?」
ショウトの道衣を見て、ノワークは声を掛ける。
「あぁ」
「そいつはゴブリン実戦試験の順番じゃ。ほぼほぼ終盤のようじゃのぅ?」
ショウトの短い返答に、ノワークはさらりと重要な言葉を洩らした。番号が組分けだけではなく、順番にもなる。
翌々考えてみれば、当たり前であった。




