第1話 ただの、駒
「アナタ方はゴブリンを倒す為に召喚された、駒です」
最初の第一声はソレであった。
だだっ広い部屋に数十人の人間が無造作に立っている。その有象無象と相対するように立つ1人の女性が、言葉を発したのだった。
数十人誰1人として、その台詞に疑問を持たない。空気のように、さも当たり前の常識のように受け入れていた。
人間が忌避せねばならない暴力を強要されながらも、違和感はない。倫理・道徳・人格・思考を形成していたモノを白紙にされ、人間の天敵はゴブリンと新たに書き込まれたかのようにシックリとくる。
「ゴブリンを駆逐し、王国に平和をもたらして下さい」
女性はそう締め括ると、後方に下がった。
「お前らの能力を確認する」
女性と入れ替わるように前に出た男性が口を開く。皆が皆、その言葉に反発する事もなく縦一列に並んでいく。能力を確認する検査員は3名。列の先頭の人間と短いやり取りをし、次の待機者に代わる。時間は30秒程であった。
(……なんの検査だよ?)
列の半ばに並ぶショウトは、先頭でのやり取りに思案を巡らす。他の人間も同じように、訝しげな表情を浮かべていた。しかし、全体的に今ここで行われている行為について、全員が全員肯定的である。むしろ、否定的な考えが持てない。
発想や行動に繋がる知識が白くボヤけている。今までの人生の経験や知識、人格に繋がる思考が濁っていた。
ゴブリン、倒すのは当たり前だ。それでいてゴブリンが何かわからない。知っているが、識らない。まるで夢の中のようだった。
矢継ぎ早に行われる検査、すでにショウトの番まで残り数名となっていた。この距離になると、検査員とのやり取りが耳に入る。
(……ステータス?)
その言葉と左手の平の確認、終了。おおよそこの作業が繰り返されているようだった。
「左の手の平を上に、ステータスと言って下さい」
ショウトの順番が回ってきた。検査員は抑揚のない口調で、何十回と口にする言葉を放った。
「ステータス」
言われた通りの台詞を、左の手の平を差し出し、ショウトは口にした。
*ショウト
体力 5
魔力 3
スキル 0
ーーーーーーー
*《体術・総》
ーーーーーーー
*召喚人の服
「次の者」
検査員はチラリとショウトの左の手の平を確認し、後ろの人間に声を掛ける。その現象を呆然と受け止め、ショウトは列から外れた。先に受けた者も同じ感覚なのであろうか、己の左手の平をしげしげと眺めている。左手を閉じるとステータスのパネルは消え、言葉にすると表れる。
幼子におもちゃを与えたように、各々が夢中で自分のステータスパネルを見ていた。
*タイガ
体力 4
魔力 3
スキル 0
(……ん?)
歩き様、横目でチラリと他人のステータスを見たショウトは、首を傾げる。
(スキル以下の文面がない)
別の人間のステータスを雑に見渡しても、先程のタイガと同じように名前・魔力・スキル、しか書かれていない。
ショウトは端と考えを巡らす。《体術・総》とはスキルではないのだろうか、それに、ここにいる全員が着ている服は、ショウトと同じように召喚人の服と同じである。しかしパネルに表示がない。
改めて、ショウトは周りを見渡す。男、女、多少の差はあるが同等の体格を持つ男女、極端に大きい者、小さい者はいない。いたって標準的な体格といえる。
肌は白から黄色、目は黒から茶色。違和感はない。髪型も千差万別、ただ髪の色も多種多様。黒・茶・赤・青・緑・黄・白・灰・紫・ピンク、が、それにも違和感はない。ショウトの思考はボヤけ、ソレは当然なのだと納得する。
「……確認作業は終了だ」
淡々と、しかしながら肩を落とし落胆したように見える検査員はそう締め括ると、その場を後にする。
まるで、当たる確率の低い宝くじの当選番号を見たかのような印象だった。
・あーるぴーじー
「RPGは、初めたてが一番単純でオモシロイよね。なんかちょっとした説明受けて、戦闘して、ボタン押すだけでサクサク進むワ。
モンスター倒す事に、疑問や嫌悪も抱かずにね?
そりゃそうだ。そうする為にこのゲームを始めたんだから、全肯定さ。
オモシロイよ、ちょっとずつお金を貯めて、最初の町で装備を整えて、レベルを上げて、なんかスキル覚えて……
だからサ、特別な奴はいらないのよ。至ってフツーの働きアリ、健康体の動ける男女、一般的にね?
差別とか、格差とか言わないでよ。選考基準なんだからサ。
駒が欲しいのよ、駒が」