第18話 反数値至上主義
「魔法力の方は大丈夫かのぅ?」
ノワークは、未だ茫然自失となっているショウトに声を掛ける。
「……あぁ。最初の時の消耗並みの脱力感はあったが、ま、崩れる程じゃねぇな」
我に返ったショウトは、己の状態を確かめ、答える。
「……人間の身体は容器みたいなモンじゃ。儂の体力は2、魔力は5、お主は体力5に魔力3じゃったかの? まぁ、魔道士の常識なんじゃが、お主の方がスキルに使える魔法力は多い。総合的な数値の結果じゃが、魔法力の回復速度は魔力の高い儂の方が上じゃろう」
スキルと魔法、魔力と魔法力、あやふやだったモノをノワークは説明したのだが、ショウトにはイマイチ理解できなかった。
「この魔法の籠手も、魔法力の回復に一役買ってるのかねぇ?」
「う~む、恐らくのぅ? そんな高価で珍しいモンは手に入らんでの、検証しようがない」
ショウトの質問に、ノワークはおどけて両手を広げる。
「体力と魔力を数値化する位なら、魔法力も数値化してくれれば良いのになぁ?」
「あんなモンは、ただの目安に過ぎん。やりたくない事には元気を失くし、自由になれば有頂天。本人の感情や精神に左右される、不確定要素。誰でも勝てるし、誰でも負ける。数値で勝敗が決まるワケでもなかろう?」
ショウトのステータスに関するクレームは、ノワークの見解によって中和された。
「それもそうだな。数値でマウントを取ろうと思ったら、相手より高くするしかないからな?」
「……どういう意味じゃ?」
ショウトから洩れた内容に、ノワークは理解を示さない。ノイズ、激しい頭痛が走る。
「イヤ、何でもない」
ショウトはその内容を忘れるように、雑念を流した。
召喚人の数値が、平均的過ぎるのだ。
認識の違いだろうか、あまりステータスの数値は重要視されていないような気がする。『蒼炎の魔女』の魔力10などは規格外なのだろうが、ゴブリンの数値が召喚人より上だからといって、諦める訳にはいかないのだろう。
ショウトは訓練を再開した。
打ち木は2本しか残っていない。
新たな能力と、試したいスキル。ショウトは少し悩み、5日目に回す事にした。
1本目と2本目の打ち木はすでに存在せず、3本目を飛ばし、ショウトは4本目の一番端にあった打ち木をボロボロにしていく。
スキルは使わない。魔法力の回復具合も気になる。
そうして、訓練が終えた。
ノワークは《双気光弾》について、特に何も言わなかった。恐らく白魔道士としては想定外だったのだろうが、上位の黒魔法並みと判断していたようで、何事もなかったような顔をしていた。
つまり、魔法としては経験済みという所だろう。
「今日は顔色がイイじゃないか」
「よう、ラメラテア」
通路。
いつものように話し掛けてきたラメラテアに、ショウトは挨拶を返す。
「アンタ、ゴブリン実戦試験の番号、まだ登録してないのかい?」
ショウトの道衣の胸元を見て、ラメラテアは問い掛ける。
「人気がなくてね」
「だろうね」
ショウトの返答に即同感したラメラテアは、カラカラと笑う。未だに武器を装備していないショウトに、疑問を持たなかったようだ。
ノワークが戦士や斥候の事をわかっていないように、ラメラテアも魔道士の事がわかってはいない。
「昨日、おかしくなるって話したっけ?」
「……あぁ」
昔語り、第三話である。
ラメラテアは前日の続きを尋ね、ショウトは短く同意した。
「常識と非常識、理想と現実、そして結果。今までの堅実な行動より、王国は確実性を選んだわ。ゴブリン領への侵攻作戦。南から西、北にかけての掃討作戦。『南西の街』の奪還作戦。昨日ショウトが任せればイイと言った通り、『蒼炎の魔女』有りきの作戦を王国は立案した」
起死回生どころではない。
まさに、奇跡。
その奇跡を何度も簡単に再現出来るのだから、至極当然であろう。
「まぁ、そりゃそうだろ?」
「そうならなかったのよ。……王国は作戦を立案しながらも、ゴブリンに鼻先まで攻められた事実に恐怖した。もう一つの渾名覚えてる? 『王国最終兵器』、『蒼炎の魔女』をね、戦いで失う事を恐れ王国防衛隊にまわした。それで作戦は頓挫したわ」
なんとも、矛盾した話である。




