第17話 オリジナルスキル
4日目。
居心地の悪さから、ショウトはパンもどきと水筒を手に、早々と召喚の部屋から出ていた。
正直に言えば、ショウトはパーティーを組むつもりがない。そもそも1人で戦う状況下に置かれたのだから、仲間に頼る気など毛頭なかった。
そこら辺が、白魔道士らしからぬ思考なのだろう。
「オス、ジッサマ」
「誰がジッサマじゃ」
いつもの挨拶。
パンもどきと水筒をたいらげたショウトは、白魔道士の部屋へと入った。ノワークと軽い会話、魔法の籠手を外して準備運動。
ふと、ある事に気付く。
〈気光弾〉は左手でも撃てる。もちろん右手でも撃てるのだが、両手では撃った事がない。なにしろ、ノワークのフォームが片腕伸ばしだったからだ。
ショウトは何の気なしに両腕を伸ばし両手を広げ、魔法を放つ。
「〈気光弾〉」
通常サイズではない大きさの光球が、ショウトの眼前に出来上がる。
次の瞬間ー
衝撃・爆発音。
すでにボロボロだった打ち木が、木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「お主、何をしたんじゃっ!?」
視界を外し、呆然としていたノワークは衝撃で椅子から転げ落ち、粉々になった打ち木とショウトに対して怒鳴っていた。
「イヤ、両手でこう〈気光弾〉を放ったら……」
ショウトもその態勢のまま、答えるしかない。
「儂らでもやろうと思えば右・左と、交互に〈気光弾〉を連射する事は出来るし、やった人間もおる。しかし、基本白魔道士は片手に武器を持っておる。両手で同時に魔法は放てんのじゃ」
ノワークは道衣についたホコリを落とす素振りを見せ、ショウトの説明を否定する。と、言われてもショウトには理解出来ない現象である。
魔法の籠手を装備しつつ、ショウトはステータスを開いた。
*ショウト 白魔道士
体力 5
魔力 3+1
スキル 1
ーーーーーーー
*【女神の慈愛】
《体術・総》
《魔法障壁》
《双気光弾》
○〈気光弾〉
△〈回復〉
ーーーーーーー
*召喚人の服
道衣
魔法の籠手
タオル
ーーーーーーー
*20,000c
「《双気光弾》って言う、知らない能力がある」
ステータスパネルを覗いたショウトは、見知らぬ能力の解説を頼む為、ノワークに声を掛ける。
「……オリジナルスキル」
「オリジナル?」
ボソリと呟くノワークに、ショウトはすかさず食いついた。
「黒魔道士の召喚人に、まれに現れるらしい。スキルの解釈の仕方が違うのか、まるで突然変異のような従来にない、黒魔法を覚えると言っとたのぉ。白魔道士では聞いた事もないが……」
絞り出すように思い出すノワークは、ショウトと同じ様に両腕を伸ばし両手を広げる。
「気光弾」
ノワークの詠唱と共に右手だけから光球が飛び、2本目の打ち木に命中する。乾いた衝撃音と特に変化のない打ち木。
ショウトとノワークは顔を見合せ、沈黙する。
「本当か?」
疑った表情で、ノワークは尋ねた。
ノワークは、ショウトが魔法を放ったその瞬間を見ていなかった。その結果、ズタズタのボロボロになった打ち木が耐えきれずに、崩壊したようにしか考えられなかったのである。
疑いを掛けられたショウトは、少しムキになったのかもしれない。
前日の同期の召喚人に向けされた蔑みや、自分の失敗による後悔、そして疑惑。後先考えず、怒りの矛先は、魔法の発動となった。
「《双気光弾》」
両手から放たれる光球は胴体サイズの大きさで、真っ直ぐ打ち木へと飛ぶ。
「あ、魔法の籠手」
撃った瞬間、思い出した。ショウトは魔法の籠手を装備している。
命中。先程の比ではない大爆発。
轟音と衝撃波が部屋を揺らし、ショウト自身はその場に踏みとどまったものの、隣で無防備に立っていたノワークは衝撃で後方に3m程吹き飛び、壁に背中を強打していた。
このような密閉空間で爆発を起こせば、内部に高い圧力が発生するのは道理であろう。
2本目の打ち木は跡形もなく消し飛び、その場の床も円形に抉られている。通常の〈気光弾〉ですら魔力+1の影響で威力を増したのだから、こうなる事は予想できたハズだ。
前日の『蒼炎の魔女』の話しではないが、ショウトは魔法の威力に戦慄を覚える。
「イチチチ、コリャ上位の黒魔法並みじゃゾ……」
〈回復〉を自分の身体に唱えながら、ノワークは戻ってきた。




