第12話 習得と会得の差
ショウトは白魔道士の訓練部屋に向かう為、召喚部屋を出る。
通路の途中、武器屋の店主に鬼のような形相で睨まれたが、完全に無視を決め込んだ。
「うす、ジイさん」
「先生と呼ばんか」
ショウトの短い挨拶を、ノワークは仏頂面で返した。
「昨日ステータスを確認したんだが、〈回復〉と〈気光弾〉の前に付いている三角はなんだ? で、なんでスキルが0なんだ?」
「会得しとらんからのぉ?」
さも当然のように、ノワークは答える。
「あぁ~……。今、お主の手には〈回復〉と〈気光弾〉のマニュアルが持たされた状態にある。習得とは、そのマニュアル片手にスキルを使う事。ま、カンニングみたいなもんじゃ」
ノワークの説明に、ショウトは不安を覚えた。
「つまりステータスに書き込めば、どんな凡人でもスキルを使えるという事じゃのぅ。戦える駒を即席で量産できるわい」
「会得したら、スキルの数が上がるのか?」
嫌な予感がする。ショウトはノワークを睨み付け尋ねた。
「うむ。頭で考えるより、身体が反応するという表現かのぅ? そうなれば会得、三角から丸になり、スキルの数値も上がる。ステータスパネルは名刺みたいなモンじゃからの、体力・魔力・スキル、そやつの職業の熟練度という事じゃ」
ノワークは淡々と答える。
「習得には、制限があるんだな?」
「……鋭いのう。そう、そんなに人間は器用に出来てはおらん。片手にマニュアルと言った通り、両手分2つしか習得はできん。さらに他のスキルは、発展や派生の延長線上にある。〈回復〉を会得せんと、〈治療〉は習得させられん。まぁ、発展・派生のスキルは高いからのぉ、5万c以上はするゾ」
会得・値段、実質2つのスキルで戦えと言われたようなモノだ。〈棍装備〉を習得していたら、白魔道士のスキルは1つしか持てない。
「どん詰まりじゃねぇか?」
「その為に上書きがある。職業もスキルも、向いてないなら書き換えればイイんじゃ。まぁ、習得中のスキルは消えるがのぉ」
ショウトが天を仰ぐと、ノワークはあっけらかんと説明した。
救済措置。が、あるという事だろう。
ならば、息をするようにスキルを本能に染み込ませるしかない。
訓練あるのみだった。
ショウトはふと、肩に掛けていたラメラテアのタオルに気付く。長さは充分、ショウトはおもむろにタオルを額に当て、鉢巻のように結んだ。
これが、ショウトの訓練スタイルである。
まず始めに、ショウトは魔法の籠手を外した。身体能力の低下、否、元に戻っただけなのだが、疲労・筋肉痛に似た重みが全身を支配する。
それほどの、違和感。
魔力+1の効果に、ショウトは辟易していた。
そのままの状態で、ショウトは昨日と同じ様に訓練を始める。床に向かって拳立て伏せを数十回。立ち上がり、その場で敵を想定した組手、フットワーク・左ジャブ・右ストレート、足を動かし、手を動かし、虚空を相手に技を繰り出す。
魔法の籠手を失った事態の想定。自分の肉体のローギアとトップギアを理解していく。
ショウトにとっての、準備運動は終わった。
そのまま魔法の籠手を装備せず、ショウトは打ち木に向き直った。
「〈気光弾〉」
距離は5m。魔法の詠唱と共に飛び出した光球は狙い通り、打ち木へと命中する。
ショウトの予想より威力は高かった。
打ち木にヒビを入れる程ではなかったが、表面がへこんでいる。素手の十割の力で殴る、後先考えず拳を壊しても良いとした時並みの威力があった。
速度・重量・硬度。が、破壊力に繋がる。
そして人間の肉体や骨にも、耐久値があり限界もある。どんなに鍛えた人間でも、転べば前腕にヒビ、大腿骨を骨折、頭蓋骨を陥没、全ては転んだ速さと体重の重さと床の固さが影響している。
木材・石材・金属は、人間より硬いのだ。
その理屈を無視する魔法は、ショウトにとって斬新であった。小さく纏まっていた戦法が、大きく開眼したような感覚だった。
休憩がてら、ショウトは再び魔法の籠手を装備する。強化される身体能力、この通常時と強化時の併用も、訓練期間中の準備運動として行う。
呼吸を整え、打ち木に向かう。
フェイント・コンビネーション・フットワーク・不意の一撃。
距離感・フットワーク・間合い・連撃・後退・間合い外・スキル・魔法力の消耗・再接近・一撃。
2度目の〈気光弾〉の魔法力消費にも耐えて動けたが、疲労困憊、全力疾走を何度も繰り返したかのような、倦怠感があった。
長めの休憩を取る為、ショウトはノワークの側まで歩み寄った。ボロボロになった打ち木、その凄まじい攻撃力に、ノワークは目を白黒させている。




