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ブン殴れ!! おじさん白魔道士  作者: 自堕落なヤモリ
チュートリアル 前編
10/29

第9話 能力と職業

 

 トボトボと通路を歩き、武器屋の近くまで来たショウトは視線を泳がせる。


 大繁盛だ。


 悩み、長考した上で職業を決め、他人を見て軌道修正し、列を成し、スキルを買う。よって、訓練が終了したこの時間に、武器を買う。


 見る事は勉強になる。が、実戦の足元にも及ばない。


 慎重なのか、ノロマなのか、優柔不断なのか、5日間しかない訓練期間の1日を無駄に潰す。

 慌てる乞食は貰いが少ないと言うが、慌てていない乞食は何も貰えないという所だ。次の日も決めかねて、後手後日となっていくだろう。


 もし、白魔道士の生徒が10人いたら、ショウトの訓練は変化していただろう。打ち木も4本しかなく、溢れ、手を止め、思考を止め、停止してしまう。


 おそらく他の職業では、その現象が起きている。集団行動の恐ろしいトコだ。


 ただ、多人数であるメリットもある。相談や観察、組手、互いに切磋琢磨し、技術を高める事が出来れば、訓練の遅れなど些末にも等しい。


 バサリと、後方から頭部に布のような物が飛んできた。


(タオル?)


 慌てて対象物を確認したショウトは、その実行犯を睨み付ける。


「な・ん・で・アンタは、斥候に来ないのよぉっ」


 怒りに震えるラメラテアは、開口一番ショウトを攻めた。


「アンタじゃなく、ショウトだ。俺の方が年上なんだから、口の訊き方に気をつけろ」


「汗だくじゃない、ソレで拭いた方がいいよ。……そんで私は、斥候の担当。召喚人のペーペー如きに、敬語を使うつもりはない」


 確かに、一理ある。タオルをぶつけられた文句だったが、ラメラテアの善意と事実は受け入れるべきであった。


 社会に適応するには年齢の関係を考慮し、相手を尊重した上で会話すれば、円滑に進むだろう。これを理解できない者は、幼児と社会不適合者である。


 ただし、実際になんらかの力を持つ者は別であろう。


「ショウトのせいで、入門者0よ。責任取りなさいよ」


「欲掻くからだ、アホ」


 ラメラテアの抗議に対し、間髪入れずショウトは毒を吐いた。


「言ったろ? パフォーマンスは1人で充分だってな」


「今度からそうするよ。能力持ちは滅多にいるワケでもないし……」


 不貞腐れて、グチグチと文句を垂れ流すラメラテアの言葉に、ショウトは問い掛ける。


「能力持ちは、珍しいのか?」


「……アンタ、《体術》持ちでしょ? 召喚すれば、大体1人か2人はいる。特に珍しいモンでもないね。で、なんで白魔道士なの?」


 タオルで汗を拭うショウトに、不躾にラメラテアは尋ねる。


「魔道士の先生方にはわかんないだろうけど、アンタ、コッチ側の脳筋物理バカの部類よ? わかるでしょ?」


 ラメラテアの心底呆れたような物言いに、ショウトは反論する。


「得手、不得手は誰にだってある」


「向き、不向きの話よ。その能力を持つような性格の人間が、自分で戦うより、仲間の回復を優先するワケがないでしょ?」


 ショウトの言い訳を、ラメラテアは即答で潰す。


「この訓練期間の短期、その後の長期を省みても、仲間を回復させる為に動く、既存の白魔道士の考えにはならないよ、アンタは」


 酷い言われようだが、説得力はある。適材適所。伊達にラメラテアも斥候の担当をしている訳では、ないようだ。


 ただ、正論すぎる。


「……確かに、ラメラテアの言う通りだろう。で、俺と同じ様な能力を持った奴らはどうなってる? 恐らく、頭打ちだ。例え話にも出て来ない位だからな? スタートダッシュだけ良くて、今じゃあ、その他大勢に埋もれてるんだろ?」


 予想だにしていなかったショウトの見解に、ラメラテアは頬を歪める。


「……いや、スキルの会得率や、とっさの動きが……」


「微々たるモンだろう。この能力を十二分に生かそうと思ったら、方向性を変えるしかない。異質な存在になるかもしれんがな?」


 ショウトの極論に、ラメラテアは絶句した。ショウトの推察は、ほぼ当たっている。初期の成長率は良いが、ある一定からは横並び一直線。


 早熟型、伸び代なし。


 剣のスキルとの互換性が、無いに等しいのだ。その為、散々力説したラメラテアではあったのだが、それ以降の利点がなければ、フォローのしようもない。


 つまるところ、《体術》持ちの実績がないのだろう。


 ただ、駒を造るに当たっては不正解である。不良品を制作する事に、なるかもしれないからだ。



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