第9話 能力と職業
トボトボと通路を歩き、武器屋の近くまで来たショウトは視線を泳がせる。
大繁盛だ。
悩み、長考した上で職業を決め、他人を見て軌道修正し、列を成し、スキルを買う。よって、訓練が終了したこの時間に、武器を買う。
見る事は勉強になる。が、実戦の足元にも及ばない。
慎重なのか、ノロマなのか、優柔不断なのか、5日間しかない訓練期間の1日を無駄に潰す。
慌てる乞食は貰いが少ないと言うが、慌てていない乞食は何も貰えないという所だ。次の日も決めかねて、後手後日となっていくだろう。
もし、白魔道士の生徒が10人いたら、ショウトの訓練は変化していただろう。打ち木も4本しかなく、溢れ、手を止め、思考を止め、停止してしまう。
おそらく他の職業では、その現象が起きている。集団行動の恐ろしいトコだ。
ただ、多人数であるメリットもある。相談や観察、組手、互いに切磋琢磨し、技術を高める事が出来れば、訓練の遅れなど些末にも等しい。
バサリと、後方から頭部に布のような物が飛んできた。
(タオル?)
慌てて対象物を確認したショウトは、その実行犯を睨み付ける。
「な・ん・で・アンタは、斥候に来ないのよぉっ」
怒りに震えるラメラテアは、開口一番ショウトを攻めた。
「アンタじゃなく、ショウトだ。俺の方が年上なんだから、口の訊き方に気をつけろ」
「汗だくじゃない、ソレで拭いた方がいいよ。……そんで私は、斥候の担当。召喚人のペーペー如きに、敬語を使うつもりはない」
確かに、一理ある。タオルをぶつけられた文句だったが、ラメラテアの善意と事実は受け入れるべきであった。
社会に適応するには年齢の関係を考慮し、相手を尊重した上で会話すれば、円滑に進むだろう。これを理解できない者は、幼児と社会不適合者である。
ただし、実際になんらかの力を持つ者は別であろう。
「ショウトのせいで、入門者0よ。責任取りなさいよ」
「欲掻くからだ、アホ」
ラメラテアの抗議に対し、間髪入れずショウトは毒を吐いた。
「言ったろ? パフォーマンスは1人で充分だってな」
「今度からそうするよ。能力持ちは滅多にいるワケでもないし……」
不貞腐れて、グチグチと文句を垂れ流すラメラテアの言葉に、ショウトは問い掛ける。
「能力持ちは、珍しいのか?」
「……アンタ、《体術》持ちでしょ? 召喚すれば、大体1人か2人はいる。特に珍しいモンでもないね。で、なんで白魔道士なの?」
タオルで汗を拭うショウトに、不躾にラメラテアは尋ねる。
「魔道士の先生方にはわかんないだろうけど、アンタ、コッチ側の脳筋物理バカの部類よ? わかるでしょ?」
ラメラテアの心底呆れたような物言いに、ショウトは反論する。
「得手、不得手は誰にだってある」
「向き、不向きの話よ。その能力を持つような性格の人間が、自分で戦うより、仲間の回復を優先するワケがないでしょ?」
ショウトの言い訳を、ラメラテアは即答で潰す。
「この訓練期間の短期、その後の長期を省みても、仲間を回復させる為に動く、既存の白魔道士の考えにはならないよ、アンタは」
酷い言われようだが、説得力はある。適材適所。伊達にラメラテアも斥候の担当をしている訳では、ないようだ。
ただ、正論すぎる。
「……確かに、ラメラテアの言う通りだろう。で、俺と同じ様な能力を持った奴らはどうなってる? 恐らく、頭打ちだ。例え話にも出て来ない位だからな? スタートダッシュだけ良くて、今じゃあ、その他大勢に埋もれてるんだろ?」
予想だにしていなかったショウトの見解に、ラメラテアは頬を歪める。
「……いや、スキルの会得率や、とっさの動きが……」
「微々たるモンだろう。この能力を十二分に生かそうと思ったら、方向性を変えるしかない。異質な存在になるかもしれんがな?」
ショウトの極論に、ラメラテアは絶句した。ショウトの推察は、ほぼ当たっている。初期の成長率は良いが、ある一定からは横並び一直線。
早熟型、伸び代なし。
剣のスキルとの互換性が、無いに等しいのだ。その為、散々力説したラメラテアではあったのだが、それ以降の利点がなければ、フォローのしようもない。
つまるところ、《体術》持ちの実績がないのだろう。
ただ、駒を造るに当たっては不正解である。不良品を制作する事に、なるかもしれないからだ。




