最終回 果たされた約束
1948年3月。
「桑杏、2番テーブルお願い。」
「はい、お母さん。」
アンフェリータが芳子と別れてから16年が経った。朝鮮の家族はアンフェリータを快く受け入れてくれた。桑杏という朝鮮の名前までもらった。桑杏は家族と一緒に小料理屋で働いた。今は父、母、兄、兄嫁、妹そして桑杏で店を切り盛りしている。
朝鮮は戦争で日本の占領化となった。お店には日本の軍人さんもよく来ていた。桑杏は芳子の行方を聞いてみたが知る者はいなかった。日本軍の政策を批判して大陸に居場所を失ったという噂は耳にしたが。
建国した国は芳子と桑杏が語った理想とは全くかけ離れた国だった。
桑杏は買い出しを頼まれ街へと繰り出す。街の一角では若者が演説をしていた。学生達だろう。
終戦後朝鮮は北側と南側で2つの国に別れた。桑杏が住んでるのは南側だ。しかし中には分離をよく思わない者もいるのだ。その時
「そこで何をしている?!」
警官隊がやってきた。
「お前達がクーデターか?!」
警官隊は学生達に向けて銃を打ち出した。銃は演説をしてる学生だけでなくその場で演説を聞いていた桑杏達にも続いて向けられる。
「逃げなきゃ」
桑杏は群衆と共に走り出す。
「きゃっ」
人混みの中揉み合って転倒してしまう。
「アンフェリータちゃん。」
イタリアの名前を呼ばれる。
彼女をその名前で呼ぶ者は朝鮮にはいない。
アンフェリータは差し出された手を取る。彼女の手を取った人物は走り出す。たどり着いたのは路地裏だった。
「あの」
「アンフェリータちゃん。」
その人は振り向く。
「芳子様?!」
芳子であった。17年前と同じ軍服を着ている。傍には白馬もいる。
「アンフェリータちゃん、やっと会えたね。迎えに来たよ。」
「もう、遅いですよ。待ちくたびれました。」
「ごめん。でもこれで一緒だよ。行こう。さあ、乗って。」
芳子は傍らにいた白馬に跨がる。
「行くってどこにですか?」
「紫禁城。やるんだろう、国中の女の子達を招待して。」
「はい。」
アンフェリータは芳子に手を引かれると白馬の背に乗る。
「しっかり捕まっていてね。」
アンフェリータは両手を芳子の肩に乗せると背中に身を寄せる。
翌日街は遺体の山でいっぱいだった。その中にはアンフェリータの物もあった。皆苦しんだ表情をしていたがアンフェリータだけは笑っていた。彼女の遺体の傍には新聞紙が転がっていた。昨日の夕刊だ。見出しにはこう書かれていた。
「男装の麗人川島芳子 北京の監獄にて処刑。」
FIN
芳子様が上海事変を起こすに至るまでの話でした。
百合の相手は西洋人という初の試みです。
建国から死刑って結構時間空くんですよね。
芳子様の話はまた趣向を変えて書きたいと思います。