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白馬のプリンス  作者: 白百合三咲
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混血児

「田中さん、あの娘面白いですね。毎日見ていて飽きないでしょう。」

芳子はアンフェリータの話題を切り出す。

「あまりからかうな。あの娘はまだ父親が死んで間もないんだ。」

「母親は?」

「母親は朝鮮人の女だ。だが行方が分からない。あの娘は天涯孤独だ。まだ14才なのに可哀想だろう。」

家族がいない少女。彼女の明るさからは想像がつかない。

「あの娘の母親はあの娘が産まれると同時に大陸を去ったんだ。」

 アンフェリータはイタリア人の父と朝鮮人の母を持つ混血児だ。父はカロッタ伯爵というイタリア人の貴族で骨董品の売買をしていた。上海にやってきたのは事業拡大のためだ。母は朝鮮から出稼ぎに来てメイドをしていた。伯爵はメイドの母と恋に落ち婚約した。しかし彼には親が決めた婚約者がいた。それを知った母は身を引こうとしたがすでにお腹の中には子供がいた。内緒で出産した母は置き手紙と一緒に子供を置いて屋敷を去った。

「その子供がアンフェリータちゃんってわけか。」

「ああ、だけど屋敷の奥方はアンフェリータの存在をよく思わなくてな。彼女を孤児院に入れようとしたんだ。」

「気持ちは分かるが。」

 しかし子供には罪はないと言った伯爵の計らいでカロッタ家で育てられることになった。血の繋がらない母親は最初は伯爵に言われアンフェリータに優しくしていた。しかしアンフェリータが5才の頃自分の子供ができる。アンフェリータの妹だ。するとその娘ばかり可愛がるようになる。妹にばかり華美な服を着せ好きな習い事はさせてあげる。子役になりたいといえば夫のつてで映画会社を紹介してもらう。妹はほしい物はなんでも与えられた。

 一方でアンフェリータは小学校を卒業すると上の女学校にはお金がかかるからと言われ通わせてもらえず朝から掃除に洗濯と女中扱い。食事も家族とは食べさせてもらえなかった。

 父は優しくしてくれたがその父も顧客の家に向かう途中馬車が崖から転落し亡くなった。父の亡き後は母親からの嫌がらせはさらに酷さを増した。お使いに行って帰ってくるのが遅いと玄関で冷水を浴びせられ家にいれてもらえないなんてこともあった。

「酷い話だな。」

話を聞いた芳子が呟く。

「1カ月前だったか。彼女と出会ったのは。」

軍の訓練の帰りにアンフェリータが裸足でずぶ濡れになっているのを馬車の中から見たと田中は言う。

「こんな寒い中放っておいたら凍死するだろう。」

田中は彼女を屋敷に招き入れそのまま家のメイドとして雇った。

「田中さんにしては優しいところあるんですね。」

「俺にしてはは余計だ。ところで川島、任務は引き受けてくれるんだろうな?」

話が本筋に戻った。

芳子は考えさせてほしいとだけ言って屋敷を後にした。



 家に帰り自室に戻る芳子。机の上には子供時代の芳子の写真が飾られていた。

「お父様、お母様」

日本に行く前家族で撮った最後の写真だった。

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